塩が次世代半導体作りのカギになる
2次元材料といえばグラフェンが有名ですが、他にも重要な材料があります。
それがMoS2と呼ばれる物質です。
このMoS2とは硫化モリブデンといって、モリブデンという金属と硫黄の化合物です。科学用語が次々出てきたところでいったいそれが何の役に立つんだ?というのがみなさんの興味でしょう。
非常にざっくりいうと今なお不足が話題となっている半導体の一部に使うことができるんです。
こんな記事もあるように、実はずいぶん前から学術レベルでは注目されている物質なんですね。
今回はそんなMoS2の作製に塩(塩化ナトリウム)が使えるという研究を紹介しましょう。
MoS2はこんなにもユニークな形になるんです!
ナノ材料を蒸気から作る
今回作製されたMoS2は基本的に蒸気から作るCVDという方法が使われています。きっと多くの方は何やらすごい特殊な方法なのかと思われるかもしれませんが、結晶成長の方法としてはかなりメジャーな手法として知られています。
このCVDはChemical Vapor Depositionの略で、化学的な手法で気体の原料を堆積させるという方法です。
このとき重要になってくるのが原料の組成や温度、気体の流れです。
この論文では様々な温度環境下でMoS2を作製して、最も良い温度を調べています。
顕微鏡画像を見るとわかりますが700℃では、あまり大きく結晶性が成長しませんでした。さらに温度を上げていくと、MoS2結晶は少しずつ大きくなっていき、780℃になると大きくきれいな結晶を得ることができました。
この結晶は2次元結晶といって原子が1層だけのとても変わった結晶です。
さらに温度を上げていくと、今度はエッジの部分がジグザグになっている様子がわかります。
そして、900℃になると、もともと1層だった結晶の上に層が成長してしまい2層の結晶になってしまいます。
これらの結果を踏まて、論文では780℃が最適だったと結論付けています。確かに結果の画像を見ても750~800℃ぐらいがちょうどよさそうな感じがしますね。
塩の効果
それではタイトルにもあった塩のお話に入っていきましょう。
実は、先ほどまでの温度を変えた実験にも塩は使われていたんですが、そもそもどうして塩が必要になるんでしょうか?
このMoS2を作るときに使われる主な原料にMoO3(酸化モリブデン)という物質があります。このMoO3の粉末と塩(NaCl)を混ぜて温度を上げていくと、2つの物質は融けて混ざり合います。
しかし、本当に必要なのは気体の原料モリブデン(Mo)ですよね。このとき、NaClはMoO3よりも低温で蒸発する特徴があります。このNaClの蒸発に合わせて、原料モリブデンも一緒の蒸発するため、比較的低い温度で結晶を作ることができるそうです。
加えて、NaClはMoS2が生成するためのエネルギーの障壁を小さくしてくれるため、よりMoS2結晶が成長しやすいという利点もあります。
このような点を踏まえて、塩が使われているわけですが、この研究では塩をどのくらい入れると最適なのかを調べているんですね。
ちなみに、この論文では半導体デバイスとして使えるかもきちんと調査しています。最高のパフォーマンスとまではいかなかったようですが、他のCVD成長させたMoS2のデバイスよりは良いものができたようですね。
最後に
今回はMoS2という次世代半導体を作るのに誰でも知ってる塩を使うという研究を紹介しました。
こんなに身近なものが世界の半導体の未来を握ってるかもしれないというのはとても面白いお話ですね。科学の世界を知ると、世の中を見る目が少し変わるかもしれませんね。
参考文献
NaCl-Assisted Temperature-Dependent Controllable Growth of Large-Area MoS2 Crystals Using Confined-Space CVD
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