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クモヒトデの目から学ぶ新しいレンズ

みなさんはヒトデが目を持っているって知っていましたか?

一般的にヒトデの目は足の先端についているようで、そこで光を感知して進む向きなどを決めているそうです。

そんなヒトデの目の構造を真似して新しいタイプのレンズを作ってしまおうとちうのが、今回紹介する論文です。

ヒトデの目ってどんな形?

今回対象となるのはクモヒトデという種類のヒトデです。(トップ画は普通のヒトデ)

このクモヒトデのもつレンズをよく見ると小さな球体が敷き詰められた構造をしているのがわかります。

これはとても奇妙な形ですが、この球体がたくさんあるレンズはきちんと像を結びものを見ることができるそうです。

クモヒトデの目

そして研究者たちはこの奇妙な構造を模倣して、人工的にレンズを作り、それを細胞の観察などに使ってみようと考えました。

クモヒトデの目を作る

さて、クモヒトデの目を人工的に作ろうといってもそう簡単にはいきません。

なぜならナノスケールの粒子を並べるのは、パチンコ玉を並べるのとはわけが違うからです。クモヒトデのレンズを構成する粒子はウイルスの10倍ぐらいの大きさですから目には見えませんし、手でつかむこともできません。

そこで、研究グループは自己組織化と呼ばれる方法を用いて球体を並べることにしました。

自己組織化はとても有名な方法で、ざっくりいうと雪の結晶やシマウマの模様など小さなものが自ら自発的に組み合わさって一つの模様や機能を持つことです。

シマウマの縞模様も自己組織化の一種

今回は、手でつまむこともできないぐらい小さな粒子を用意して、その粒子が勝手に集まる現象を利用して並べてやろうというわけです。そんな簡単にいくの?と思われるかもしれませんが、ラーメンのスープに浮かんだ小さな油が集まってくるのもざっくりといえば自己組織化です。そう考えると意外と簡単にできるものなんだなって思いますよね。

そして、作り始める前にもう1点重要なことがあります。それは素材です。

クモヒトデの目は炭酸カルシウムでできているので、同じように炭酸カルシウムの粒子を作って敷き詰めてやらなければなりません。しかし、都合よく炭酸カルシウムの粒子を用意するのも大変です。

そこで、研究グループは化学反応と自己組織化を両方利用することで、クモヒトデの目を模倣した新レンズを作ろうと画策します。

それでは実際に作り方を見ていきましょう。

まず、ナノスケールのポリスチレン粒子を水酸化カルシウム溶液中に浮かべます。ここで出てくるポリスチレン粒子というのはかなり簡単に作製することができます。一般的に使われるナノ~マイクロ粒子の一種なんです。

参考文献より引用

ポリスチレン粒子をただ浮かべるだけでは、炭酸カルシウムの粒子にはなりませんよね。そこで重要になってくるのが水酸化カルシウムの水溶液というところです。水酸化カルシウムは空気中の二酸化炭素と化学反応を起こしポリスチレン粒子の周りに炭酸カルシウムの膜を作ります。

時間ととも粒子はだんだん大きくなり、そして同時に敷き詰められていきます。

エッセンスだけを抜き取ると意外と簡単に作れることがわかりますね。実際は、洗剤のようなもの(界面活性剤)をいれて、粒子のサイズを一定にしたりなど、いくつか手間をかけていますが、ここでは割愛しましょう。

参考文献より引用

ここまでうまくいくと、何となく実験は成功したように思えますが、やはり気になるのは本当にレンズとして使えるの?というところですよね。

レンズとしての機能

研究グループは実際にレンズとして使えるか調べてみました。

そもそも球体はポリスチレン粒子の表面に炭酸カルシウムが覆った状態であり、しかもその隙間には不純物が含まれていたりします。レンズにとって不純物や不均一な形というのは大敵なので、そのようなものが含まれるあいまいなこのレンズが本当に使えるのかは心配です。

しかし、実際に使てみるとそれらの影響はほとんどなく、問題なくレンズとして機能することがわかりました。

下の画像を見るとわかりますが、一つ一つの粒子の表面に”A”の文字が映っているいる様子がわかります。そしてより詳細に調べていくと、ある特定の位置で焦点を結んでいることもわかりました。

参考文献より引用

さらに研究グループはクモヒトデ模倣のレンズを使って細胞の観察を行いました。細胞は球体(マイクロレンズ)の上に張り付いており、しっかりを観察することができたようです。

参考文献より引用

論文によると、今回作製されたクモヒトデ模倣のレンズは、生体適合性が高く、細胞の観察や生体内での観察に優れているとか。そもそもクモヒトデの目の中にある構造を模倣しているので、生体適合性があるというのはわかる気がします。

最後に

今回はクモヒトデの目を模倣した特殊なレンズを紹介しました。一見何に使うのかよくわからない感じもしましたが、このような科学の進歩の積み重ねにより、将来どこかで重要な役割を果たすときが来るはずです。

ちなみに炭酸カルシウム粒子が敷き詰められたレンズの構造というのは、レンズ以外にも周期的な鋳型であったり、構造材料であったり、全く異なる分野での応用も起こり得そうなので、それだけでも価値のある研究といえるのではないでしょうか。

参考文献

Self-assembly of amorphous calcium carbonate microlens arrays

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