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ブドウをレンジでチンするとプラズマが発生する話

プラズマというとかっこいい物理現象のイメージですが、私たちの生活にはあまり関係がなさそうな気がしますよね。

実は、そんな先端科学のように思えるプラズマをお家で実現することができるんです。さぞかしお高い装置を買わないといけないのかと思いがちですが、必要なのはブドウと電子レンジのみ!

そんな不思議な物理現象について紹介したいと思います。

プラズマとは

プラズマってなんだか難しいイメージですが、意外と身近なところにあります。それは火です。

そんなこと言うと、ブドウも電子レンジも必要なくガスコンロのひねればプラズマが出てきます…以上、終わり! としても、良いですが、それでは全然話が展開しませんね。

今回は、ブドウを使った局所プラズマ発生器のお話をしたいのですが、いったんブドウは横に置いておいて、プラズマの紹介をしておきましょう。

例えば、火って何という物質? と聞かれると、スパッと答えられる人は少ないはずです。そもそも空気のような気体なのかどうかも怪しいですよね。

実は火はプラズマの一種で、分子が電離して陽イオンと電子に分かれた状態のことです。気体・液体・固体に次ぐ第4の状態とも言われます。そうはいっても陽イオンとか電子とか言われてもわかりにくいですよね。

簡単に言うと、陽イオンや電子というのはもともと原子や分子を構成する部品のようなものです。通常これらはくっついて物質ができているわけですが、高いエネルギーによってくっつきが離れてバラバラになっている状態ということです。

私も専門ではないですが、エネルギーが高くてイオンがバラバラになっている状態と思えばOKです。

それではブドウに戻ってきましょう。ブドウを使えば、ガスコンロとはちょっと違ったプラズマの局所状態を作り上げることができるんです。

ブドウとプラズマ

さて、ブドウとプラズマいったいどんな関係があるのでしょうか。

実はブドウを2つ接触させて電子レンジの中に入れてチンすると、ブドウの接触しているところの周辺に強力なプラズマが発生し、光り輝くんです。

ブドウのどこにそんな力が秘められているのだろうか?と思いますよね。私も初めて動画を見たときは驚きましたが、確かに光り輝くプラズマを観測できるようです。

ここで電子レンジについて少し知識を入れておく必要があります。電子レンジとは英語ではマイクロウェーブオーブンと呼ばれ、その名の通り、マイクロウェーブ=マイクロ波を出して食材を温めます。

これはマイクロ波が食材の中の水分(水分子)を小刻みに振動させることで温まるという原理です。

このマイクロ波は波長が約12cmぐらいといわれています。この波長がぴったりと合うとエネルギーがトラップされるという現象が起きます。さすがに12cmのブドウなんかないだろと思いますよね。

しかし、物質には屈折率というものがあります。空気中で12cmのマイクロ波はブドウの中に入ると波長が変わって1cmぐらいになるようなんです。

そうすると、ブドウのサイズにだいぶ近づきましたね。波長がぴったり合ったマイクロ波はブドウの表面でトラップされます。マイクロ波、つまりエネルギーがトラップされるとそこには局所的に強力なエネルギーが発生します。

その強力なエネルギーがプラズマを発生させるんですね。

この理論を物理的に見てみると面白いことがわかります。それは、ブドウでなくても良いということです。

ブドウと同じような水分と果肉成分を持ったゲルボールのようなもので屈折率がブドウと同じぐらいであれば良いわけです。そして、そのようなゲルボールはマイクロ波をトラップして局所的なプラズマを発生させることができるんですね。

ブドウを使ってプラズマ操作できるかも

ここまでは、一般的なブドウと電子レンジを使ったプラズマ発生方法の紹介でした。

ここで、ちょっと妄想を膨らませてみましょう。

みなさんが想像される以上にエネルギー制御というのは難しく、かつ科学的に様々な応用の考えられる領域なんです。

そこで、このブドウを使ったプラズマの位置制御を考えてみましょう。高エネルギーを一か所に集めたいときにブドウに模したゲルボールを2つ用意してマイクロ波を当ててやれば、その間に強力なプラズマが発生します。

要はそこで何かを反応を起こしたり、溶接したり、といったことができるのはないでしょうか?スケール感が私たちの感覚に近いのも重要なポイントです。私たち人間にとっても扱いやすいというのがメリットになるはずです。

実は上記に挙げたようなことは、ナノの世界ではかなり盛んにおこなわれています。これは目に見える光(可視光)をトラップして局所的に集めることができる金属ナノ粒子を使ったプラズモニクスと呼ばれています。

金属ナノ粒子の間の赤いエリアで光がトラップ=電場増強されている様子(Nanostructure-based plasmon-enhanced Raman spectroscopy for surface analysis of materialsより引用)

そこでは高感度の分子・ウイルス検出やナノワイヤー接合(ウェルディング)等が行われています。

もしかしたら、ブドウを使ったマイクロ波の操作技術もどこかの誰かが求めているかもしれませんね。

最後に

今回はブドウを使ってプラズマを発現する方法について紹介しました。意外と科学界では有名な現象なんですけど、改めて自分でも紹介してみるというのは面白いですね。

危険度がどの程度ものかわからないので、自分の家でやってみたことはないですが、安全に注意して実験してみたい気持ちもありますね。怖いもの見たさでしょうか

最後に簡単な思考実験というか妄想を語りましたが、これほど簡単に扱えるのに使われていないのはそもそも需要がないかなのかな?なんて思いました。

もしくはこの現象が明らかになったのが2019年だからまだあまり気づかれていないだけなのか?なんて妄想するのも面白いですね。

https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1818350116


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