ハチの巣を使って海水を真水に変える技術
日本ではあまり聞きなれないかもしれませんが、世界は水不足で困っています。
地球は青い惑星といわれるように見渡せば海が広がっていますが、我々人類が欲しているのは海水ではなくて、真水です。
そんな真水といえば、雨水がろ過されたものを利用するわけですが、やはりそれには限界があります。
となると、残された道は海水を真水に変えるしかないとなりますが、それが技術的にとっても難しいんですね。
今回は、そんな海水を真水に変える技術にハチの巣が使えるという驚きの研究を紹介したいと思います。
ハチの巣を使って真水に変える
そもそも海水=塩水から塩の成分を抜く技術というのは少量であれば可能です。しかしながら、それが生活用水となると話は別です。大規模な装置が必要になる一方、とても安価で使いやすくなくてはなりません。
そんな中で注目されたのがハチの巣です。いったいハチの巣にどんな能力があるのでしょうか?
奇妙な研究だと何やら難しい科学を使うのかと思いきや、基本的な原理は非常に簡単です。
ハチの巣がもつ高い吸水性を利用して塩水を汲み上げる→日光によって効率的に蒸発させる→蒸気を回収し真水として利用する、という方法です。
単純に日光を当てても微量の海水しか蒸発しませんが、それを超効率的に行うことで、塩と水を分離するわけですね。
そもそもハチの巣の大部分は植物性の繊維でできています。動物が作った住処とはいえ、自然に生えている植物とよく似ているわけですね。
この繊維性多孔質な構造は水を効率的に吸収する効果があります。これに着目して、研究グループはハチの巣を加工した蒸発装置を作製したわけです。
図を見てもらうとわかりやすいと思いますが、ハチの巣はいくつかの厚さのブロックに成型してその表面には黒いインクを塗布しています。
この黒いインクには太陽光を効率的に集めて、表面を加熱する効果があります。
最高効率を示す条件
このハチの巣を使った蒸発装置のために、ハチの巣を一度粉々にして水と混ぜて成型する必要があります。成型したブロック状の材料を真空ろ過という方法で、脱水し乾燥したブロックに仕上げます。
この時、粉砕混錬する時間というのが、このハチの巣ブロックの空隙率(孔の空き具合)に影響を与え、それが性能そのものに関わってくるそうです。
研究グループではこの粉砕混錬時間を5, 15, 25秒とふって、最も効率的な時間を調べました。その結果、15秒で混錬したハチの巣ブロックが最も効率的に海水を蒸発することができたようです。
やはり、単なるハチの巣というわけにはいかず、人間によるひと手間が面白い材料につながるんですね。
次に、研究グループは最も効率的な蒸発を実現するためのハチの巣ブロックの厚みを調べました。
その結果、最も効率よく水を蒸発することができたのは厚みが0.7mmの試料を用いたときでした。これは熱を効率的に水に伝えて、蒸発させるのに最適な厚みであると結論付けています。
どうやら0.7mmより薄いと水を十分に蓄えることができず、逆に0.7mmより厚いと水がハチの巣を通過するのに時間がかかり熱損失が大きくなってしまうそうです。
また研究グループはこのハチの巣を使った材料が繰り返し使用可能であることも調査しました。たしかに、どんなに効率よく水を蒸発できたとしても、1回しか使えなかったら意味がないですもんね。
最後に
今回は、現在進行形の水不足を解決するのがハチかもしれないという、研究を紹介しました。
私たちが身近に見かけるハチが人類を救ってくれるかもしれないって驚きですよね。そしてこの研究の大事なところは、ハチでなくても良いという点です。
冒頭にも述べたように世界中の大規模水処理施設にハチの巣を使うのにはさすがに無理があります。しかし、今回わかったハチの巣の特徴を他の動物や人工的に安価で作ることができれば、現実的な方法として期待できるはずですよね。
基礎研究はいつもないがしろにされがちですが、その積み重ねが大事です。それを皆が理解しれくれる世界になったら嬉しいですね。
参考文献
Environmentally Friendly and Efficient Hornet Nest Envelope-Based Photothermal Absorbers
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