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【リスクマネジメント】飛行機事故と医療過誤の意外な共通点

飛行機事故と医療過誤,この2つには大きな共通点と大きな違いがあります.

共通点は人命に関わるということ,一方で違いは失敗を分析してかということです.

これは先日紹介した失敗の科学という本に書かれていた内容ですが,この興味深い関係性はなにも本の中の話ではありません.

先日,学会に参加した際に非常に面白いセッションがありました.

学会は普段手術を行う医師が多く参加するもので,私はメーカー側として参加していました.

そこで,医療と全く関係のなさそうな航空機事故に関するセッションがあったのです.

今回は,そこで学んだ内容をざっくりと紹介していきましょう.

航空機事故は小さなミスの連鎖

日本の航空機事故史上最悪といわれた御巣鷹山墜落事故を覚えている大人は多いでしょう.私の世代はその凄惨な状況を親から聞いたことがある,ニュースで見たことがあるといった感じでしょうか.

それほど恐ろしい事故を引き起こしたと聞けば,飛行機に決定的な欠損があったのか,または機長があまりに愚かだったのかと想像してしまいます.なにか一つの大きな問題があり,そのために500人以上の死者を出したと思いがちです.

しかし,その実際は予想とは異なるものでした.

事故に至る大きな流れとしては

  • 大阪で着陸時にしりもち事故を起こした(死者なし)

  • ボーイングによる修理がずさんだった

  • 修理を監督・検査する人もいなかった

  • 飛行中に修理した部分が故障する

  • 機長がチェックリストを確認していなかった

  • 油圧が下がった際に適切な対応をとれなかった

ざっと見返しても,私たちが想像できるのは最後の飛行時のミスだけです.そのため,当時の機長はじめ乗務員に非があったと思いがちです.

もちろん,機長にも問題はあったのかもしれませんが,それ以前に飛行機が故障しなければ無事飛行できたはずです.

遡れば,ボーイングの修理チームが正しく修理していれば飛行時の破損は起きなかったはずですし,修理の際に監督者がいて間違いなく修理されていることを確認していれば,破滅的なミスを未然に防ぐことができたはずです.

なお,修理箇所を後から確認するのは難しい状態だったようです.そのため,その場で確認・検査する体制が整っていなかったことに問題があるといわれています.

そもそも,最初の大阪でのしりもち事故がなければ,ボーイングの修理を呼ぶ必要もなかったわけです.

もし,あの時こうしておけば…といってもきりがないですが,それでも歴史に残る悲惨な事故の背景には数多くのミスがあったわけです.

失敗の科学によると,海外の航空機事故は第三者専門機関によって分析されるようですが,日本の場合初動は墜落した土地の警察のようです.

当時,航空機会社に勤めていた講演者からすると警察の体質の問題もあったようですが,少なくとも事故を起こした航空機会社が調査を行うという形にはなっていません.

また御巣鷹山の事故も,後に専門機関も入って分析がされています.その結果,ボーイングが修理した箇所に異常があったこと明らかになっています.

リスクマネジメント

世の中にはリスクマネジメントという考え方があります.

リスクという言葉はいろいろな状況を含みますが,飛行機事故や医療過誤におけるリスクは搭乗者や患者に危害を与える事象が起こる可能性です.

つまり,そのような危害をなるべくゼロにできるように可能性を排除していくことが求められます.

講演ではスイスチーズモデルというものが紹介されました.これは穴の開いたスイスチーズを重ねたときに全ての穴をすり抜けたものが重大な事故になるというものです.逆に,どこかで穴がふさがれれば事故は未然に防がれるわけですね.

たとえば,御巣鷹山の事故の場合,航空機会社がボーイングの修理を正しく監督できていれば凄惨な事故は起きなかったわけです.意図的に行ったわけでない,しりもち事故や飛行中の故障を完全に制御することは難しいでしょう.

また航空機会社がボーイングの仕事の質を制御することも限界があります.しかし,ボーイングの仕事の質を正しく評価することはできたかもしれません.

後付けではありますが,ここでチーズの穴をふさいでおけば今も500人以上の犠牲者は生きていたかもしれません.

実は医療の現場も同様に複数の小さなミスが大きな事故につながります.たとえば,次のような事態は容易に想像がつきます.

  • 薬液瓶の表示がわかりにくかったため,看護師が間違った薬を投与してしまう

  • 患者の具合が悪くなりナースコールを押したがスイッチが故障していて連絡が届かない

  • 重体になってしまったので緊急手術を行おうとするも医師が間に合わない

これだけでも,薬液瓶の表示をわかりやすくする.ナースコールの機械が壊れていないか確認する.医師をはじめとする医療従事者の管理体制を整備する.といった対策が初めからとられていれば,重大な事故にはつながりません.

私が勤める医療機器の世界でもこの連鎖的なリスクのつながりを考えて製品を作っています.

もちろん医療を取り巻く全ての原因を排除することはできませんが,製品の故障による事故は起きないように,仮に故障してもすぐに次の策がとれるように考えています.

逆に,この辺りがきちんと考えられていない製品を世に出すことはできません.患者の命に関わるような医療機器を世に出すためには第三者機関(監査機関)の認証を受ける必要があります.

これは医療機器メーカーともユーザーである病院とも異なる医療機関や組織であることが多いです.(日本ではPMDA,米国ではFDAなどが該当)

最後に

今回は,航空機事故から考えるリスクマネジメントについて紹介しました.
医療の世界は航空機業界に比べてまだまだ予期せぬ事故が多いといわれます.

まったく異なるように感じられる異業種ですが,今回挙げたような共通点をもとに改善が進めば,もっと良くなるだろうなと感じます.

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