タンパク質から透明で柔軟な耐熱冷却フィルムを作る 後編

タンパク質というと食事のことか難しい医療のことなんかを想像するかもしれませんが、今ではこのタンパク質を使って機能性材料を作ってやろうなんて動きがあります。

今回はそんな特殊な機能を持っている化学メーカーもびっくり(?)のタンパク質素材についての紹介です。

さてさて、前回紹介したタンパク質フィルムには冷却機能があると書きましたが、それについてはまだでしたね。

ということで、タンパク質フィルムの実用性や冷却機能について見ていきましょう。


どんな材料にも使える万能フィルム

まず初めにフィルムといっても何か基板となる材料に張り付けなければ使えません。仮にサランラップに冷却機能があるよ!といわれても上手に取り扱わなければくしゃくしゃになってしまいますよね。

そんな理由もあってフィルムと基板の親和性なんかも大事になります。例えば、特別な基板にしか張り付かないなんて材料も普通にありますからね。

ところが、このタンパク質フィルムのすごいところは、どんなものにも張り付けるという点です。バクテリアのバイオフィルムや岩壁に張り付くフジツボのようにこのフィルムは素材を選ばずくっつきます。

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参考文献より引用

論文ではペットボトルに使われるPET、植物の葉、ガラス、シリコン、水晶、木材、金属であれば金、銅、アルミニウム、腕時計に使われるチタンなど実に多くの材料の表面と親和性が高い様子が見て取れます。
(他にもポリカーボネート、PDMS、ポリイミド、マイカ、ITOなんかも材料分野では有名なものですよね)

貼るだけで燃えなくなる

このタンパク質フィルムは機械的なダメージに強くて、何にでもくっつくことができる優れものですが、ここまではフィルムとして最低限の能力を示したまででした。

重要なのは、その本来の使い道である耐熱・冷却です。このフィルムが張り付いた材料は燃えにくくなるというのが面白いところです。

生物の体を構成するタンパク質でできているのにも関わらず、このフィルムは200℃ぐらいまで安定に存在し、燃えることもないようです。さらに温度が上がり235℃を超えるとタンパク質が劣化してしまうようですが、そこまで耐えられるというのがすごい点です。

例えばプラスチックなどは金属に比べずっと低い温度で融けたり燃えたりしてしまいますが、このタンパク質フィルムを難燃性コーティングとして使うことで、新たな機能を追加することも可能です。

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参考文献より引用

左はペットボトルの原料であるPET、右は理系におなじみパラフィルムです。どちらも上はコーティングなしなので、数秒で燃えてしまっていますが、コーティング済みの下の写真では燃えていないのがわかります。

さらにこのタンパク質フィルムをガラスにコーティングすると熱を奪い、室内の温度を下げるスマートウィンドウとして機能する可能性が見出されています。

通常ガラスは水を吸収したりしませんが、タンパク質は生体分子であり水との親和性も高く、空気中の湿気を吸収してくれるようです。ジメジメした日本の夏にはもってこいの材料かもしれませんね。


最後に

今回は、タンパク質でできた透明フィルムが素材の耐熱性を上げて、さらに周りの温度も下げてくれるスマートウィンドウとして働くという話を紹介しました。

世の中には新しい材料がたくさんあります。今の日本の技術力で良い素材を開発するのは難しいのかもしれませんが、このような新しい種から着想を得て面白い気付きができるといいのかもしれませんね。


参考文献

Biomimetic Amyloid-like Protein/Laponite Nanocomposite Thin Film through Regulating Protein Conformation

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