自然を真似して世界を変える その1
生体模倣(バイオミメティクス)という言葉をきいたことがあるでしょうか
生体模倣とは、生物の持つ特徴を真似することで工学的に利用して、私たちの生活に役立てようというものです。
よく似た表現として、バイオミミクリーやバイオインスパイアードなどと呼ばれることもあります。
ここでは、そんな生体模倣技術について、ネットで見かけるものから学会で発表されているものまで簡単に紹介したいと思います。
マジックテープの元ネタ
私たちが普段使っているマジックテープはオナモミという植物のフック上のトゲトゲが出た実が元ネタです。通称「ひっつき虫」ってやつですね(虫じゃないけど)。
このフック上のトゲが服の繊維に引っかかってくっつくことから着想を得て、マジックテープが生まれたといわれています。
今や生活の一部に入り込んだ生体模倣の例ですね。
画像はWikipediaより引用
ロータス効果(超撥水)
ハスの葉に乗った水滴が丸まって転がっていく様子を見たことがある人は多いでしょう。これはハスの葉の表面に微細な凹凸があるため、水がくっつきにくい(撥水)性質を持ちます。ロータスとはハスのことで、そこから名づけられています。
この微細な凹凸構造は様々な分野で応用されて、傘の表面やヨーグルトの内蓋といった水をはじきたいものに施されています。
汚れないカタツムリの殻(超親水)
ハスの葉の超撥水とは逆に、こちらは超親水です。
カタツムリの殻には凹凸構造があり、その溝に水が入り込みます。するとカタツムリの殻の表面に水の膜ができ、汚れてもすぐに水が流してくれるという仕組みです。なおかつカタツムリは雨の日に活動するからとても理にかなってますね。
すでに汚れない外壁タイルが商品として使われています。私たちの家がカタツムリに守られるようになるとは驚きですね。
モスアイ構造(低反射フィルム)
モスアイとは蛾の目を意味します。蛾の目をよく観察すると突起が無数に並んだ構造をしており、この特異な構造は光を効率よく吸収することができます。この無数の突起構造を真似することで、低反射フィルムの作成が可能になりました。
すでに多くの企業が着手しており、モスアイフィルムやディスプレイといったものが開発されています。
画像はhttps://asknature.org/strategy/eyes-are-anti-reflective/より引用
動植物の構造色
構造色とは光の波長と同じぐらいのサイズの微細構造が存在することで、光が干渉を起こし見る方向によって色が変わります。
構造色は非常に多くの生物の中に見られ、有名なものではモルフォ蝶、タマムシ、クジャクの羽、貝殻(真珠)、ハイビスカスなどが挙げられます。
これは色素や顔料による発色ではないため、微細な構造が維持される限り色あせることがありません。
現在は単なるメタリックカラーとして使われることが多いですが、素材に依存せずに色を変えることができ、色落ちすることのない自然にやさしい発色素材として注目されています。
ヤモリの手の粘着力
ヤモリは吸盤も粘液も使わずに壁や天井を上ることができます。
実はヤモリの手には小さな毛がたくさん生えており、1つ1つの微細な毛が分子間力という微弱な力を発生し、それによりガラスのようなつるつるした表面にも張り付くことができます。
分子間力は常に存在していますが、普段は弱すぎて感じることができません。一方、物のサイズが小さくなるとこの力が顕著になります。ヤモリの手に生えている微細な毛はこの力を効率的に利用しており、吸着力を発生させます。
この原理は接着剤のいらないテープなんかに応用されています。近々、壁や皮膚を傷つけないテープが一般的になるかもしれませんね。
セミの羽の抗菌作用
セミの羽には抗菌効果があるということが知られています。ここ数年の研究で、セミの羽には非常に小さな突起構造がたくさんあることがわかりました。この突起が細菌にとっては鋭い剣山のようになっており、細菌がそこに乗ると細菌膜が壊れて死んでしまうという仕組みです。細胞が串刺しになるのかなと思ってましたが、必ずしもそういうわけではないようです。とはいえ、薬剤なしに抗菌性があるという素材は貴重で現在は量産に向けて動いているようですね。
こんな羽に抗菌作用があるなんて驚きですね。
人工シルク
絹(シルク)の技術は昔から発展しており、絹の服はきれいで軽くて丈夫と知られており、素材の中でも高級とされています。
そんな素晴らしい繊維素材であるシルクですが、今では蚕だでけなくクモやミノムシが作る糸も非常に丈夫なシルクとして注目を浴びています。
現在では、このようなシルクを人工的に製造する技術が生まれ、医療用や衣類に使用されています。
もともと生物が作り出している材料なので環境にやさしく、かつ人体にも適用できるという素材として期待されています。
カワセミのくちばし
昔の新幹線はトンネルに入るとき空気が圧縮されて衝撃音がなったそうです。
その衝撃音を抑えるために参考にしたのがカワセミのくちばしです。カワセミは高速で水の中に頭からつっこんで魚を獲ります。この時の衝撃はかなり大きなものになるのですが、カワセミは衝撃をものともせずに狩りを行います。これはカワセミのくちばしが水の抵抗を減らす形をしていたためです。
これに目を付けた技術者が、カワセミのくちばしの形を新幹線の先頭(ノーズ)に応用しました。
ちなみにカワセミのきれいな青色の羽根は上記でも書いた構造色の1種ですね。
フクロウの羽根
新幹線は高速で移動するため、パンタグラフ(電車の上に付いている電気を取り入れる装置)が騒音を引き起こすという問題がありました。
そこで技術者が着想を得たのが静かに飛行できるフクロウでした。フクロウの羽根にはセレーションと呼ばれるギザギザ構造があり、このギザギザが空気を上手に逃がすことで音なく静かに飛べるそうです。
現在の新幹線はこのモデルではないそうですが、当時の最新新幹線を作るのに2種類の鳥を真似しているってすごいですよね。
まとめ
このように、自然界には人間が作りえない夢のような材料や機能があふれています。私たちが文字や技術を発展させていったのと同様に生き物たちも進化の過程で素晴らしい能力を獲得していったわけです。
流行りの人工知能とかロボティクスとかも面白いですが、自然がつくる構造を真似して環境にやさしい”ものづくり”を進めていきたいものですね。
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