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【スパイスの科学特別編】牛糞や木材から生まれるバニラの香り!人工香料バニリンのお話

前回、非常に高価なスパイスの一つであるバニラについて紹介した時、香りの主成分であるバニリンが登場しましたね。

人工的にバニラの香りを生み出すため、人類がバニリンの合成にかけた挑戦は長く、いかに私たちがバニラの香りに魅了されていたかがわかります。

そして、人類は人工的にバニラの香りを生み出すようになった現代でもまだまだ科学の発展をもってバニリンを作り続けています。

今回はそんなバニリンについて紹介したいと思います。

バニリンとは

バニリンはバニラの香りの主成分であり、カスタードのような甘い香りを持つ化合物です。人工バニリンから生まれたバニラエッセンスやバニラオイルはプリンやケーキなどのスイーツづくりに重宝されています。
詳細は以下のバニラについての記事を読んでいただければと思います。


なぜウイスキーは甘い香りを持つのか

ウイスキーを飲んだことがある方は経験があるかもしれませんが、ウイスキーは強いアルコールとともに甘みのある風味が特徴的ですよね。

実はその甘い香りはバニリン由来かもしれません。

ウイスキーはアルコールを樽に詰めて熟成させます。その際にバニリンを多く含むオーク材から樽の中のウイスキーへ香りが移るんですね。

樽に移してから最初の2~3か月でバニラの香りを感じられるようになり、その後2~3年がピークになると言われています。もちろん樽に使う材木によっても風味が変わるため、樽の移し替えをすることで様々な香りを付与することができます。

一般的には最初の樽が最も多くのバニリンを付与してくれるため、樽の移し替えを進めると徐々にバニラの香りが穏やかになっていくようです。

また、ウイスキーの樽は使用前に内側を焦がしたり熱したりすることでよりバニリンを抽出しやすいようにする工夫もされています。注意深く香りを嗅いだ経験は少ないかもしれませんが、お高いウイスキーを飲む際には一度バニラの香りがないか探ってみると面白いかもしれませんね。

牛糞からバニラの香りを生み出す

世の中にはとんでもない研究があるものです。そんなトンデモ研究だけど実は科学の発展に大きく寄与した研究に与えられる名誉あるイグノーベル賞の中にもバニリンの話題があるんです。

この研究は牛糞からバニリンを生み出すというもので、牛糞がバニラの香りを醸し出すというビックリするような研究です。

牛糞1gに水4ml加えて200℃で1時間加熱すると50μgのバニリンを抽出することができるという、驚きの技術が発見されました。

このときすでにバニリンの合成法は確立していたわけですが、牛糞から作り出すという発想が面白いところですよね。

この研究では食料品には向かないものの石鹸などの香料としての有用性はあるとのことです。

ちなみにこの研究を行ったのは日本人で、当時20代の若手女性研究者というのも驚きです。イグノーベル賞の会場では牛糞から抽出されたバニリンではなかったそうですが、バニラアイスがふるまわれたとか。おふざけが過ぎる団体で面白いですね。

ゴミを再利用してバニリンにする

樹木を使った新たな材料の可能性として、リグニンと呼ばれる物質があります。

これは樹木から採られる物質なんですが、近年化学修飾をした改質リグニンが機能性材料として注目を浴びています。

一方、リグニンは非常に複雑な構造を持つ物質であることから、素材としての品質基準に満たない改質リグニンも多くできてしまうそうです。

そこで更なる進化として、残念ながら品質基準に満たなかった改質リグニンを使ってバニリンを作り出すという研究がされています。

本来ゴミになる予定だった木材物質を改質し、さらにそこでもゴミになりそうだったものを香料にしてしまうという人類のリサイクル精神は本当に感動しますね。

最後に

今回はスパイスの科学のバニラの回から飛び出して、バニリンにフォーカスして紹介してみました。

バニラの香りが人を魅了して約1000年経ちますが、いまだに人類はバニラの香りを求めて研究を続けています。

この魅惑のバニリンの可能性はまだまだ広がりそうなので今後もウォッチしておくと面白い研究を見つけることができるかもしれませんね。

参考

https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/sip/sip1_topix_5-2-03.pdf









参考文献




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