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水をはじくのに吸着する?不思議な性質を持つバラの花びらを真似した新素材

水をはじくというと撥水スプレーや自然界ではハスの葉などが思い浮かぶと思います。実はバラの花びらは水をはじきながらも吸着するという矛盾するような性質を持っています。

今回は、とっても不思議なこのバラの特性を模倣した新しい材料の紹介をしたいと思います。

水をはじくのに吸着するとは?

そもそも水をはじくと吸着するというのは相反する現象のように思えますよね。しかし、厳密にはそうではないようです。

水をはじくというのは接触角と呼ばれるもので測ることができます。つまり、表面に水滴が落ちたとき、その水滴がまん丸であればあるほど接触角が大きい、水をはじきやすいという認識になります。

逆に水が丸い水滴ではなくてつぶれて広がったら、それは水をはじかない、撥水しないということになります。

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https://www.spsj.or.jp/equipment/news/news_detail_49.htmlより引用(Aは濡れやすい、Dははじきやすい)

一方で、水の吸着というのは、水滴がついた表面を傾けたときにくっついているかどうかに寄ります。

つまり、今回作製されたバラ模倣素材とは、水滴はまん丸になるけれど、傾けても転がってしまわず吸着してるという、一見変わった材料です。

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参考文献より引用

実際にひっくり返してもまん丸なのに落ちない!


バラ模倣素材の原理

この一見矛盾する特性を兼ねそろえた材料は2つの階層構造によって成り立っています。

1つはレーザーで作った周期的な穴ぼこ構造です。この構造は水滴を吸着するのに役立ちます。

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参考文献より引用

2つ目は、穴ぼこよりもずっと小さな網目構造です。画像では見えないですが、この網目構造には有機分子がきれいに整列してくっついておりその効果によって水をはじき、まん丸の水滴にすることができるんです。

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参考文献より引用


もう少し物理的にいうと穴ぼこ(クレーター)に水がフィットし、微細な構造と水の間に水を引き付ける引力(ファンデルワールス力)が発生するため、水滴は表面にくっついて離れません。

一方で、この微細な網目構造には水をはじく修飾がしてあり、なおかつ、網目の間を水が入り込めなため、表面を濡れ広がらずまん丸の球体の水滴を作ることができるようです。


ちなみに、このバラを模倣した撥水給水材料には比較的身近に存在るアルミニウムを使っているというのも重要な点です。やはり金や銀といった貴重な金属をたくさん使う必要がある場合は、一般利用から少し離れてしまいますからね。


バラ模倣素材の作り方

このバラの構造を模倣した表面を作るには、いくつかの技術が詰まっています。

1つ目はレーザー加工技術です。今のレーザー技術を使えば、周期的な穴ぼこ構造を作ることぐらいは朝飯前です。実際はレーザーを当てる前にアルミニウム合金に様々な処理を施したりしているのですが、ここでは割愛します。

次にさらにエッチングという表面を少し溶かす操作によって網目状構造を作製するという流れです。このエッチングというのは金属や半導体の欠陥(性能に悪さをする歪)を検出するときなんかにも使います。

そして、最後にDTSと呼ばれるあまり聞きなれない有機分子を使って、この網目の表面修飾します。この表面への分子の修飾がないと微細な構造を作っても水が濡れ広がってしまうのですが、この修飾のおかげで水はまん丸にはじかれます。

画像を見ると一目瞭然ですが、こちらはともに穴凹(クレーター)+網目構造までは同じです。一方、左は表面修飾がないもの、右は修飾があるものです。

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参考文献より引用

そうしてできたバラ模倣表面ですが、実際のバラの表面とは大きく異なります。つまり人間はバラと同じものを作らなくても、科学を使って同等の性能を持つ材料を作れるわけです。

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参考文献より引用(実際のバラの花びら)

今回見つかった構造というのは何もアルミニウム合金でなくても良いとのことです。当然、材料が変われば性質は変わるわけですが、重要なのはこの構造であり、他の素材で同じ構造を作ってもよく似た性質を持つだろうという未来のある研究でした。

最後に

今回は、直観に反するような水をはじくけれど吸着するという特殊な材料について紹介しました。個人的には、このような材料を作ることよりも、バラにそんな特殊な能力があったことに驚きました。

当然、そんな機構を模倣して材料を作り上げた研究グループもめっちゃすごいんですけどね。


参考文献

Biomimetic Superhydrophobic Surface of High Adhesion Fabricated with Micronano Binary Structure on Aluminum Alloy

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