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シャコは天然のサポーターで拳を守る:バイオミネラル最前線

シャコは想像を絶するパワーで魚や貝を殴って食べます。

テラフォーマーズでも有名になったシャコパンチですが、その破壊力は自らの拳を破壊してしまうほど強いと思われます。

しかし進化というのは非常によくできています。実はシャコは体にサポーターを持っており、これがシャコのとんでもないパワーのクッションとなっていることがわかりました。


シャコパンチの強さ

はじめにシャコパンチを見てみましょう。

https://www.youtube.com/watch?v=rpJNNZ0mwcc

容易に貝殻を粉砕して中身を食べています。早すぎてスローで見ても何が起きてるかよくわかりませんね。

シャコのパンチはとんでもないパワーを持っているわけですが、人間がこれを繰り出すと拳がぶっ壊れてしまいます。今回紹介する論文では、なんでシャコはケガをしないのかというのを調べた研究です。


シャコは拳に結晶でできたサポーターを持っている

研究がシャコの持っている特徴を調べてみるとかなり特殊な結晶がクッションになって、シャコの体を守っていることがわかりました。

一般向けの記事は、こちらがわかりやすくまとまってます。

いつもナゾロジーは面白記事を出してくれますよね。

でもでも、ナゾロジーは結晶についてあんまり知らないでしょう。私も偉そうなこと言える立場でありませんが、たぶん一般人よりは知っている方だと思うので、ここでは結晶についての考察を踏まえて紹介できたらと思います。


シャコのもつサポーターはナノ粒子

こちらのナノ粒子を調べてみると、スポンジ状のナノ結晶の隙間に比較的柔らかい有機物(キチン)が詰まっています。

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参考文献より引用

スポンジを形作っているのは我々人間も持っている骨と同じヒドロキシアパタイトでできています。(詳しくはこちらから)一方、有機物成分はザリガニとか昆虫の外骨格の主成分と同じキチンです。

ここで1つ思い出してほしいのが、生物がつくるスポンジ状(多孔質)の構造といえば、そうメソクリスタルです。
いやマニアックすぎて知らないよ、という方は、こちらの記事をご覧ください

シャコは非常に小さな骨(ヒドロキシアパタイト)とキチンの複合物質を大量に作り上げ、それを拳に敷き詰めてサポーター代わりにしています。


サポーターの仕組み

サポーターというとクッションのような柔らかいイメージでしょうか?
サポーターとして重要なのはいかに衝撃を吸収できるかです。

シャコの持つナノ粒子サポーターは強い衝撃が働くと壊れてグチャグチャになります。その代わり、シャコの拳は守られます。

この時、重要なのがメソクリスタル構造です。原子が規則正しくきれいに並んだ結晶なのにところどころ穴が開いたスポンジ状になっている構造のことです。

この構造ができる機構はいくつかありますが、よくよく見ると原子の並びが若干ずれているようです。ほんの少しのずれなので、普通に観察してもわかりません。しかし衝撃が加わるとわずかなずれのところで欠陥という大きめのずれが発生してより硬く強靭な構造に変わります。

このような欠陥形成により材料が強くなる現象はこれまでも結構知られた有名な話です。例えばダイヤモンドに欠陥を導入してより強くするという研究もあります。

シャコは知ってか知らずかこのような現象が生じるような構造を作ってサポーターにしているのです。これはスポンジ状の結晶(メソクリスタル)特有の特徴なのではないかなと思います。

ちょっと厳密な表現ではないので、詳細は論文を読んでほしいですが、少なくとも、この天然サポーターは、現在人工的に作られている多くの材料を凌駕するレベルの強さを持っています。


生物のものづくりは想像以上

いやいや、そんなこと言っても我らが人間の方が優秀でしょうと思う方もおられるでしょう。

確かに人間の知能は高くこのような不思議な現象を解き明かし利用してきました。
しかしシャコの天然サポーターはこれまで人工的に作られている材料よりも高い性能を示します。

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参考文献より引用

恥ずかしながら材料をやっているのに、このグラフは初めて見ました。学部時代に材料力学を捨ててしまったので、無縁なんですよね。

書いてあることを簡単にいうと右に行くほど変形しにくく、上に行くほど衝撃吸収しやすいといったところでしょうか(違ってたら教えてほしいです。)

そして、このグラフの雰囲気を見るに、変形しにくい物質は衝撃を吸収しにくく、逆に変形しやすと衝撃吸収はしやすいようです。このようなグラフは材料系ではよく見られますが、要は変形しにくく衝撃を吸収しやすい(グラフ右上にくる)ような都合の良い材料は少ないことがわかります。

そこでこのグラフをよく見ると分かるのがImparct region, Impact surfaceと書かれた領域が右上に位置していることがわかります。すなわち、今回研究に用いられたシャコの天然サポーターはこの世に存在する多くの物質の中でもかなり高い性能を持っていることがわかります。

この変形しにくく衝撃を吸収しやすいという、人間が研究の末に作り上げた材料と比べても遜色ないレベルの材料をシャコが進化の過程で取り入れたと考えると驚きですよね。


最後に

実は、去年の夏に著者でありPIであるキサイラス先生と同じセッションで発表したので、その時この先生を知りました。この先生はシャコパンチだけでなく様々なバイオミネラルの面白い研究をされています。

まあ同じ学会のセッションで発表するということなので、私の研究もこういうバイオ系の結晶研究と近いところにあるわけで、いずれ紹介できたらなと思います。

ちなみに、学会最終日で私の発表はスカスカでしたが、キサイラス先生の時は人が多かった覚えがあります。
知名度だけでなく、注目の講演なんですよね。しかも発表もユーモアあってかっこよかったです。

あんな研究者になりたいな~と思ってしまいますね。無理ですね...

参考文献

Wei Huang, Mehdi Shishehbor, Nicolás Guarín-Zapata, Nathan D. Kirchhofer, Jason Li, Luz Cruz, Taifeng Wang, Sanjit Bhowmick6, Douglas Stauffer  6, Praveena Manimunda, Krassimir N. Bozhilov, Roy Caldwell, Pablo Zavattieri and David Kisailus,A natural impact-resistant bicontinuous composite nanoparticle coating, Nature Materials (2020)

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