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結晶中の原子のずれを調べる~結晶PDF解析~

物質の最小単位と呼ばれる原子ですが、現在のX線の技術を用いると原子の位置をほぼ正確に調べることができるようになってきました。

特に原子が規則正しく並んでいる結晶において、原子のずれは非常に繊細な解析になります。

今回はそんな結晶中の原子のわずかなずれを調べるために注目されているPDF解析について紹介します。

PDF解析とは

PDF解析とは2体分布関数(pair distribution function: PDF)を用いた解析で、昔からアモルファスや液体といった原子が不規則に並んだ構造を調べるために使われてきました。

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もう少し簡単にいうと、ある距離にある原子のペアを探し出す関数(PDF)を使って、原子の位置を決定する方法です。(PDF解析では、原子間距離や隣り合う原子の個数などがわかります。)

例えばアモルファスの代表であるガラスでは、シリコン(Si)と酸素(O)の原子位置の関係性をPDF解析によって知ることができます。

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https://www.rigaku.co.jp/members/rj/1904_No111/J0501001TN1R.pdfより引用

ぱっと見ただけではジグザクなノイズにしか見えないような関数ですね。でもこれが大事なんです!


結晶の解析では、全体の構造として原子がどのように並んでいるか(結晶構造)は長らく調べられてきましたが、局所的なずれについては難しいことが知られてきました※。

今回は、アモルファスに使用されるPDF解析を結晶の構造解析に利用するというお話です。

結晶PDF解析

一般的に、結晶というと原子が規則正しく並んだ物質といわれていますが、それを原子レベルで見てみると少しだけ正しい位置からずれたところに配置していることが知られています。

このPDF解析では、広い角度域の情報が必要でしたが、これまでのX線回折ではデータを得る際に課題がありました。

しかし近年、X線や中性子線、電子線などの技術が飛躍的に向上し、多くの情報を得ることができるようになりました。その結果、放射光X線などを用いることで、この原子レベルのずれを調べることが可能になりました。

このPDF解析は、ずれがほどんどないきれいな結晶ではなく、わずかに乱れた結晶に対して使用されます

ここでは、結晶構造解析に使用するPDF解析の例を簡単に紹介したいと思います。


ナノ粒子のPDF解析

結晶構造解析では規則正しく原子が無限に並んでいるほうが好ましいとされています。
砂粒ぐらいの大きさの結晶でも100万個ぐらい原子が一直線に並んでいますが、ナノ粒子になると数十~数百個の原子が並んでいることになります。(原子総数はその3乗)

そのため、ナノ粒子のような小さな結晶では有限の原子が並んでいるとみなされ、X線回折の結果から原子のずれを精密に調べることが難しいとされてきました。

ここでPDF解析を適用すると、原子の局所的な構造の乱れを知ることができます

もう少し具体的に説明すると、はじめにX線回折の結果から、原子間の距離と隣り合った原子の数を表すPDFを計算します。ここでPDFとは、ある原子からどれくらい離れた距離にどれくらい原子があるかがわかります。

次に実際にモデルを作ります。ここで原子の微妙なずれや結晶の大きさなどもモデルに組み込みます。
ここで、原子のずれなど、いくつかのパラメータをいろいろ変えていったときに、もっとも実験結果のPDFと一致したものが最も信頼できる結果となります。

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https://www.rigaku.co.jp/members/rj/1904_No111/J0501001TN1R.pdfより引用

そもそも、そんな小さな原子のわずかなずれがわかったところで、何の役に立つのかと思われるかもしれません。
しかし、このような原子レベルの局所構造は触媒機能に関係があるといわれています。

もともと触媒は貴金属の表面で起こる現象であるため、表面積を大きくするためにナノ粒子にして使用されることが多くありました。ナノスケールになったことにより、一般的な結晶と異なるふるまいを示すナノ粒子の原子の位置を正確に知ることは触媒の研究をより発展させるようですね。

最後に

ちょっとマニアックなネタになってしましましたが、自分の研究に直結するので勉強してまとめてみました。
まだまだ知識が足りないので、もう少し文献を読んで研究に使ってみたいですね。

結晶構造解析は研究の歴史も古く、数々の手法が確立されています。
しかし現実はそう甘くなく、新しい材料が見つかれば、それに適した新しい手法が必要になったりもします。

私もちょっと変わった材料を扱っているので、使える手法を習得していろいろやっていこうと思います。


※当然、これまでも結晶のずれ(歪)については議論されていましたが、すべての原子から見た平均的なずれであり、局所構造についての精密な議論は簡単ではありませんでした。今回のPDF解析は数ある精密構造解析の新しい手法の1つとして提案されているようです。

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