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意識高い系のやりがい搾取共同体マーケティングとその不幸

昨今、昭和型生産至上主義的企業はどんどん潰れていき、若者の就職先としての人気は皆無となっている。

現在、若者の就職先としての人気とされているのは、ウェルビーイング的なセカイ系スタートアップ企業だ。

「されている」と書いたのは、雑誌やインターネットの著名人がそう言っているからだ。

やりがい搾取による空虚なブルシットジョブではなく、利益の追求一辺倒ではない社会や環境のためになる利他的なやりがいのあるジョブ。

カリスマ的な若手起業家が、一昔では「青臭い」とされていた『夢に向かって熱く語る様』を見せることでワンピース的仲間感を共有する「なかま」を引き連れてタメ口で働く、そんな企業が時代の潮流とされている。

最近では、雑誌やインターネットでこういう若手起業家・社会起業家なるものが、雑誌やインターネットでの著名人に煽てられながら『夢』を熱く語っている。

「社会のために」「環境のために」「未来の子どもたちのために」「過疎化した故郷のために」


非常に結構!

だが、彼らはあらたなやりがい搾取という最後のブルーオーシャンで青田刈りしているように見えてならない。

これは、信者ブランディング、カルト商法なんていわれている奴だ。

この正体は、『夢』のために集めた人々、呼び込んだ投資を、シリコンバレー式に注ぎ込んで何とか走り続ける暴走特急式商売である。

ウシジマくんにもこんなパターンが出ていたけど、ファンや信者を呼び寄せ、クラウドファンディングや無料奉仕させたり、あやしい連中のマーケティングという名の投資を受けている。

カルト商法に乗っかるこのあやしい連中とは、結局先程から頻出している「雑誌やインターネットの著名人」が人脈とメディアを駆使して生み出した共同幻想、要するに人脈商法だ。

胡散臭いこの著名人たちは、だいたい同じ顔ぶれがメディアに交代に出演して、新たな潮流を発見した様を熱く語り、「地元の後輩やねん」という感じで絶賛しながらメディアに紹介している。

この状況の胡散臭さが鼻についたのは、Amazonで売上一位に輝いていたこの本『プロセスエコノミー』だ。

カルト商法の成功例を並べ、雑誌やインターネットの著名人の名が並び、華麗なる人脈を駆使して色々なメディアで贔屓の若い衆を紹介しまくっている著者。

結局、新たな市場開拓と先行者利益で少額をかすめ取るメディア操作の巨大なパワーの先兵のような気がする。

この著者のようなインフルエンサーとその取り巻きに担がれて浮かれている社会起業家なる人達は、この流れを利用して『夢』のための資金稼ぎができると思っているのかもしれないが。


結局、このムーブメントは『意識高い系のやりがい搾取共同体マーケティング』でしかない。

だが、それで良いのだ。旧来の資本主義では邪道、儲からないとされていた商法だからこそ、社会や環境のためになるという逆説的な活用でもある。

だがしかし、これをワインに詳しそうな上級国民が自分たちのマーケティングとして利用するのは良いのか?

グレタ・トゥーンベリや齋藤幸平の枠に重ねることで、資本主義的なやりがい搾取に嫌気が差している消費者の目を向けさせるという「やりがい搾取」に陥る危険性が非常に高い。

『夢』は素晴らしいのだが、それに向けた事業継続のための資金作りという難題を一部の上級国民の人脈商法に利用されている自覚があるのだろうか?

とあるリンゴマークの社長ですら、奴等をうまく使おうとして追い出されたのである。


若者のチャレンジは素晴らしい、しかしカネがない。そこにかのメディア人脈商法に利用し利用される超資本主義的なセカイが待ち受けているというのはまさに不幸である。

資本主義を肯定するにせよ否定するにせよ、この構造こそが現代の問題であるのは言うまでもない。

これを大胆に行っているのがGAFAであり、我々はGAFAに牛耳られた世界で生きていることを自覚しながら不幸だとは思っていないことと同意だ。

GAFAの問題はNHKでもニュースにしているくらいだが、スマホを叩き割る人間はほぼいないだろう。

このガンディーばりの無抵抗主義で成り立つ搾取構造は、マトリョーシカのようにグローバル世界で展開している。

環境運動や政治運動がこの搾取構造によりカネで破壊されてきたのは、枚挙に暇がない。


こう書くと勘違いされそうなので補足しておくと、「意識高い系のやりがい搾取共同体マーケティング」やそれをさらに商売道具にしようとする人脈商法を否定しているわけではない。

「ブランドバッグなんてコスパ悪い」という奴に限って不幸なのだ。

人間は意識しようが無意識だろうが、ある共同体に属することを本能的に求めている。

現代の資本主義社会はそこを「商機」と名付けている。

外から見ればカルト商法でも、中にいる人が幸せであれば良い。その経営者が夢に猪突猛進していようが確信犯的に騙していようが、リスクを取って経営しているわけだから良い。

まして人脈の上で胡座をかいている先行者利益グループもそういう手法で資本主義社会を渡り歩いてきたのだから良い。

すべてはバランスであるからだ。バランスが読めなかったから、ソ連は崩壊し、中国はゴリゴリ資本主義国家になったわけだ。


だが、僕が思うに結局この流れは旧来の資本主義でしかないということだ。

資本主義否定派ではないが、新しい資本主義(最近陳腐になったね)的生活が生まれるのかもという期待があったのだが、どうやらキナ臭いと感じたわけで。

持続可能な資本主義とかSDGsとかウェルビーイングとか、まあそんなスローガン(これももはや消費財)で彩られる新しい生き方の展望をわずかに感じたのだが気のせいだった。

要するに、僕のような意識低い寝て酒飲んで好きなことだけしときたいだけの人間にとっては「あ〜またいつものか」で終わってしまいそうな気がするのだ。

意識高い系や上級国民は自己責任だと一笑に付すだろうが、プロテスタントでもないので天職概念すらなく、資本主義社会に適応できない働かない働きアリは一定数いるのである。

我々がいないと、意識高い系は意識が高いと言われないし、上級国民は下級のおかげで上級なのである。

彼らの間違った点はたった一つであり、視野が狭い事だ。

いくら綺麗事を言っても、結局は資本主義の奴隷である自分たちの境遇は一切疑問を感じずに、自分たちと同じスタートラインに立たない人間を断罪する。

我々は「何もしたくない」のだ。社会的成功は興味がなく、ヒエラルキーやイデオロギーなどどうでも良い。

他にも考えることが面倒過ぎて言われるがままでも平気という人間もいるし、山の中で誰にも合わず仙人のように暮らしたいという輩もいる。

意識高い系とは、「ブランドバッグなんて要らないと言っている奴に、ブランドバッグを買わせようとしている」に過ぎない。

ブランドバッグは確かに良いものかもしれないが、毎日の第3のビールじゃないビールで満足できる人間もいるのだ。


資本主義というのは競争原理だから、今の若者は潜在的忌避感があると思う。アメリカのミレニアル世代なんかそうだろう。

そういう人たちの財布の紐を引きちぎるために、手を替え品を替え商売をするのが資本主義だ。

バーニー・サンダースに投票する若者に、何を買わせることができるのか?

これこそ資本主義である。


よって「意識高い系のやりがい搾取共同体マーケティング」はそんな手を替え品を替えの一種であり、その不幸とはそれに群がり演出する人脈商法集団を含め、結局は旧来の資本主義経済という井の中の蛙であるという点だ。

僕は新たな小資本主義的生活ができる土壌が欲しいのだ。

例えばベーシックインカムでも週3日勤務でも良いから、少額で貧しくても好きなことしていきたいというライフスタイル。

じゃあやれば?と言われても、現状の社会では非常に困難であるのは明白だ。

それを自己責任で片付けるのは、強者の奢りである。そしてフリーライダー許さないシャーデンフロイデな人々である。

社会は多様性が大事だと言っておきながら、結局は一方通行の高速道路ではないか。

夫婦共働きで何とか子どもが1人か2人育てられるようなギリギリの社会において、自己責任原理主義のこの高速道路から降りるのは社会的な死を意味する。

それでは子どもなんか作るな!という社会だからこそ、少子高齢化の独身まみれになってしまったのだ。

現状の社会を維持しつつ、カネと時間を天秤にかけて好きに生きるというライフスタイルはかなり難しい。

一部の成功例で希望は生まれるが、その成功者がサロンとか開いて金儲けしているのは興ざめする。


個人的には、子どもの教育費が無償に近くなれば、挑戦者は増えると思う。

挑戦者が小さなコミュニティを作って、その小さな社会を増やしていけば、人生の選択の一つとして社会的に認知できると思う。

現状では、独身者か子どもに過剰な犠牲を強いて行うしかないだろう。

しかし、ネットで小銭を稼いだり、今までは不可能だった個人の芸術作品なんかを売りながら生存することが可能になったのも資本主義のおかげだ。

巨大化したメディアの影響力は日増しに低下しているし、日本の場合は空き地や空き家が増えているし、いろいろと選択肢が増えてきているのも現状だ。

多様な社会、選択肢の多い社会、許容量の大きな社会、それを手にするにはどうしたら良いのか?を考えながら、日々酒と本を片手に生きている。


ちなみに面白い本です。

著者をディスっているわけではなく、そういう商売の人だと思っているだけなので悪しからず。

そしてそういう商売を学びたい人には必見です。

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