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青の世界へ(Twitter300字ss企画)

 ひんやりとした水の世界をガラス越しに眺める。魚たちが調整された調和を謳歌する様を見つめる。その調和を乱す二本の足が、視界の隅に映った気がした。
 白い足。水族館スタッフがパフォーマンスで着るダイバー服ではない。この水槽は遊泳可能なのか。しかし慌てているのは私だけで、周りの観客は気付いていない。足の主は飾り気のないTシャツと短パン姿の少女で、水槽の中を気ままに泳ぎ、呆気にとられる私の目の前を回転して見せた。
 暫く魚と戯れた少女は、立ち尽くす私に気がついた。ようやく仲間に出会えたと言うような笑顔で、ガラスを突き抜けて手を差し出した。
 思わず握り返したその手は、水のようにひんやりとしていた。


《Twitter300字ss企画用に書きました。テーマは「泳ぐ」。299文字。惜しい、あと1字……。》

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