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55日間外出禁止中、シェフの夫は何を作っていたか。〜3月25日シチリアレモンのシトロナード

外出禁止の間には、ほとんど人に会わなかった。外に出ないのだから、当然といえば当然だが。基本は、夫と二羽の愛鳥だけですごす。唯一の例外として、たまに会ったのがうちの近所に住むジェイさんだ。ジェイさんは、夫の元同僚で、今は17区バチニョール地区のレストランでオーナーシェフをやっている。

 ジェイさんの店も、ロックダウンと同時に営業ができなくなった。他のレストランも同様だが、購入していた食材は、保存できるもの以外廃棄処分にせざるを得なかった。店によっては野菜など食材のみを販売したり、また従業員に持って帰ってもらったりしていたようだが。

 ある日、ジェイさんから「うちの店に、シチリアのいいレモンがいっぱいあるんですよ!」と連絡をもらい、いそいそともらいに行った。いただいたシチリアレモンは驚くほど大きく、香りもいい。イタリア直送とのことで、とても新鮮。料理に使うのもいいが、甘いものにも合いそうだ。そこで、シトロナードを作ってもらうことにした。

 シトロナードとは、レモネードのこと。フランス語では、レモンのことをシトロンという。注意すべきは、フランスにはシトロナードとリモナードがあるということだ。どちらもレモン果汁を使ったノンアルコールの飲み物である。調べたところ、両者の違いは、前者は炭酸なし、後者は炭酸あり、ということらしい。しかし、そうとも限らず、定義は実に曖昧。経験上でいうならば、前者は生のレモンを絞って水もしくは炭酸で割ったもの、後者は飲料会社で作られた無色透明なもの、という区別が正しいのではないかと思っている。フランスのカフェに行けばだいたい両方ともあるので、ぜひ確認してみてほしい。

 話を戻すと、わたしはシトロナードが大好きである。しかも、あまり甘くないほうが好みだ。カフェで「自家製シトロナードCitronnade maison」があると、つい頼んでしまう。真夏の暑い日に飲むシトロナードは、乾いた喉を潤すのに最高なのだ。

 おいしいシトロナードのレシピはないかとネット検索していると、御大アラン・デュカスのものが見つかった。御大のレシピ!どんな極上美味なんだ!と見てみると、要するにレモンとはちみつだけを使ったマーマレードを作り、それを水で溶かすというものだった。プロセスのアイデアだけをいただき、実際に作ってもらう。レモン果汁はフルに使い、皮の部分は2分の1ほど。それを好みの量のはちみつと少々の水を加えてグツグツ煮詰め、良い頃合いになったらミキサーにかける。少々時間はかかるが、間違いなくおいしいやつ。つまり、「シトロナードの素」である。

 口に含むと、酸はキリッと立っているのに、甘さはまろやかではちみつ独特のコクがある。これは、水や炭酸で割ったなら何杯でも飲めそうだ、と思っていると、夫が「ツイストにしようよ」という。フランスではレモン(またはライム)シロップをビールに入れたカクテルを、ツイストと呼ぶそうである。

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 よく冷えた1664(フランスではセーズと呼ばれる)250mlに大さじ1杯のシトロナードの素を入れて、軽くステアする。レモンの苦味とビールの苦味が層になり、また香りは爽やかに、そして甘みが加わって、実に喉越しよく、さっぱりおいしい。「ビールは生(き)のまま」を信条とするわたしだが、このシトロナードのツイストにはすっかりハマった。パリでもすでに酷暑が予告されている今夏、このシトロナードのツイストで乗り切りたい。


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