彼女とコーヒーゼリー
同じクラスのめぐはいつも怒ったみたいな顔をしていた。
ショートカットの髪に、色白の肌。ちょっとツンとして黒目がちな、猫みたいな子だった。
すごくかわいいのに口調がキツくて、男子からすると迂闊に声をかけられない存在だったみたいだ。
放課後、二人でよくベローチェに寄った。
大きなソフトクリームが乗ったコーヒーゼリー。
ゼリーはぷりっと固く、しっかりとコーヒーの苦味。ソフトクリームはピンと角を立てて、少しずつ少しずつ溶けていく。
「私、母親嫌いなんだよね」
本当に嫌なことを思い出したみたいに彼女が言った。
実の母親が、弟はかわいがるのに何故かめぐには冷たいらしい。
私は私で、少し複雑な家庭環境で育ったので
「ふーん、そっかあ」
くらいで、大げさに慰めたりしない代わりに、ずっと話を聞いた。
家に帰りたくない私たちは、夏休みになるとカラオケボックスで夜を過ごした。
話しては歌い、歌っては話して。ずっとそうしていられた。不思議なくらい飽きなかった。
真っ暗だった空が、青白く光りはじめて朝が来たことを知る。
「出ようか」
外に出た途端、もわっとした空気が肌にまとわりつく。
「あっちー」と言いながら手でパタパタ仰いで振り向くと
「○○(私の名前)みたいな彼氏がほしい。」
とめぐが言った。
俯いた彼女が、迷子になった小さな女の子みたいに不安げで。弱々しくて。
いつも口調がキツいのは、針を立てたハリネズミと同じ。うっかり傷つかないために自分を守っているのだと気づく。
めぐが泣かないように、私は大きく笑って
「バーーカ。何言ってんの。早く帰るよ。」
と、彼女の手をひいて歩き出した。
一緒に食べたコーヒーゼリー。ツンと冷たいソフトクリーム。
強気なめぐと、泣き出しそうなめぐ。暑い日にふと思い出す。
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