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映画みたいなそれ

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1本の映画をピックアップして書く映画エッセイ
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#エッセイ

Essay|本屋がなくなったら困る

少女漫画じゃないのだから、毎日を普通に過ごしていてワクワクが向こうから飛び込んでくることなんて、そうない。そうないけど本屋にはあるよなと、思う。 本屋を見つけるとたいして用もないのに、「何かあるんじゃないか」とふらり立ち寄ってしまう。昨日も本屋に立ち寄ってしまった。そこでは、正面入り口付近で科学フェア的な何かが催されていて、明らかに書店員さん達の手で彩られたカラフルな陳列に、まんまと引き寄せられてしまった。 見てみると「なにこれ。今の子どもたちはこんなに面白い児童書を読ん

Essay|ぱっつん前髪は眉下で

おもむろにハサミを取り出して鏡の前で前髪を切る。しかもかなりの目分量でザクザクと。愛用するのは、すきバサミとかのお洒落なやつじゃなく、本当に普通のハサミ。 これがわたしのストレス発散法だ。 この前髪との付き合いはかなり長い。今では「目よりも上で眉毛より下で」と言い慣れてしまった。幼稚園の頃のお誕生日写真も、ピアノを習っていた小学生時代も、バスケ部全員ショートカットだった青春の一コマも、どれをとっても前髪は眉下ぱっつん。頑固なものだ。 気まぐれに少しだけ伸ばしてみる。でも

Essay|夏が終わる前に

夏は、出会ってしまうものだ。 2022年の夏、私の中で大きな出来事の一つはサマソニでRina Sawayama(リナ・サワヤマ)のパフォーマンスを見たことだ。彼女の存在は、音楽好きな友達から聞いて知っていた。ただ、私の体内に流れ込んできたのは、確実にサマソニのMarin Stageで彼女の歌声を聴いた時だ。 赤い衣装に身を包み、登場からオーラが半端じゃなかった。音が鳴った瞬間、彼女から目が離せなかった。圧倒的なエンパワーメント。彼女の音楽の真ん中にはそれがあった。「今度発

Essay|忘れないようにするにはどうしたらいい?

「〇〇さん(←わたしの名前)ハフポストに記事が載ってますよね?」と商談相手から突然言われた。 取り出された記憶に、最初なんのことを言われているのか全くわからなかった。「ハフポストですか・・・?」と言葉通りキョトンとしてしまう。なんてことはない。5年ほど前に社内の女性マネージャーを特集する企画があって、それが会社の公式ブログに掲載されて、知らないうちにハフポストに転載されていたらしい(転載されるのなら教えておいてほしいものだが)。 そんなことがきっかけとなって、2016年に

Essay|東京で桜の開花が観測されました

例年より2週間ぐらい早く東京で桜が開花したらしい。連日、心穏やかでないニュースばかりをみているものだから、こんな平和で陽気なニュースにわかりやすく気分はあがる。 朗らかな日に気づいたらわたしは、ほぼ動画を見て過ごしてしまった。わたしのリビングは南向きで角部屋なので驚くほどに日当たりがいい。一番日の当たる場所に大きめのソファを置いている。ちょっとだけ日向ぼっこでもしようか、とまったりしていたら3時間ぐらいひたすら動画を繰り返しみる日曜日。 人には際限なくずっと見てられるもの

Essay|ゆっくり回復していこうじゃないか

そういう時はあるんである。 被災の様子を見てると情緒が不安定になって完全に寝不足で。そしたら反動で次の日は眠りすぎてしまうし、とりあえず食べてシンクにたまった洗い物を片付けねばと思うのだけれど放置してしまうこと。そういう時はあるんである。心は置いてきぼりなのに、生活だけがとにかく進んで、なんとなしにやり過ごしては、辛うじて人間の生活についていってるような時。 気づいたら雨が降っていて、出掛ける予定をしていたけれど、”あぁ面倒くさい”の頑ななやつが真ん中に居座っている。「雨

Essay|覚えておきたい残したい

時間は不思議だなと思う。 まったくもって興味の湧かない集いだと3分ぐらいの間に「何回時計見るん?」と思うほど時間ばかり確認してしまうこともあれば、毎月恒例のイツメンとのカラオケは3時間が本気で秒なんである。 年々歳はちゃんと一つずつ増えているけど、中身はいっこも変わらず、苦手なものは相変わらず苦手なままだし、ありふれたことを言うようだけど「子供の頃は、大人ってもっと大人と思ってたよな」と言う感じだ。 Twitterを始めたのは10年前の3月11日で、この日になるとセレブ

Essay|ホラーを乗り越えた先のハッピー

それはもう随分と前から始まっていたのだ。 うちの会社のテレワークが始まって気づけばもうすぐ丸一年になる。これまで毎年240日ほど会社に通ってたところがこの1年は恐らく50日にも満たない。それゆえ、日常に入ってくる声、情報、景色はまるで違う。 一番目にする光景は、我が家だ。そりゃぁもう我が家のあらゆるほころびが気になって仕方ない。逆に言うと帰っては寝るだけの日々だった頃は、こんなにも目の前にあった揺れをよくもまぁ素通りしてきたもんだなぁと我ながら思う。 気になりだすと人間

Essay|世界でいちばん好きな人

今日KANさんの弾き語りコンサートに行った。 会場に入るとまだ開演前だけれど、KANさんが舞台の上でピアノの音を確認していてお客さんはそんなKANさんに特段湧き立つこともなく(みんなマスクをして無駄に喋れないというのもあっただろうけど)、まるでKANさんがピアノのウォーミングアップをするのはいつものことみたいに心地よい雰囲気で始まるのを待っていて、それはそれは素敵なディスタンスだった。 緊急事態宣言がもう少し延長されそうな東京でのライブは、ひと席ずつ空いた開催で大声で歓声

Essay|ここには全部あって過不足などない

生まれてからこれまで動物と暮らしたことがない。 怖がりなのと割とな人見知りなせいか、犬や猫にもそれが発動されてしまって、おばあちゃんチにいたシーズー犬のゴンとは距離が空いたままだったし、親戚の家にいた猫には猫見知りしていた。唯一仲良くなれたのは、友だちの家にいためちゃくちゃ美人なオス猫だけだ。遊びに行くたびに少しずつ距離を近づけてようやく仲良くなれたわたしの動物遍歴。 そんな動物とはまるで縁のないわたしも映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしの作り方』を観て、とても

Essay|「ひな祭り展のチケットがあるよ」

誰もが覚悟する修羅場みたいな場面だった。 まだ2021年2月が終わったばかりだけれど、今年ナンバーワンの邦画なんじゃないかと思うほど『あのこは貴族』は、これまで描かれてきた女性たちの全ての描写をアップデートした。 主人公の華子と、その婚約者と付かず離れずの美紀が青木幸一郎をきっかけに出会うシーンだ。華子の実家は開業医をする東京・松濤に住むお嬢様で、婚約者の女友だちである初対面の美紀に封筒を差し出すという、時を戻したくなるような時間。これから何が起きるのかと、2人のやりとり