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Essay|ここには全部あって過不足などない

生まれてからこれまで動物と暮らしたことがない。

怖がりなのと割とな人見知りなせいか、犬や猫にもそれが発動されてしまって、おばあちゃんチにいたシーズー犬のゴンとは距離が空いたままだったし、親戚の家にいた猫には猫見知りしていた。唯一仲良くなれたのは、友だちの家にいためちゃくちゃ美人なオス猫だけだ。遊びに行くたびに少しずつ距離を近づけてようやく仲良くなれたわたしの動物遍歴。

そんな動物とはまるで縁のないわたしも映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしの作り方』を観て、とても理に叶った生態系と想像を遥かに超えた地球の神秘によって、都会暮らしのありきたりな思い込みは大きな風穴をあけられてしまった。

この映画は、料理家のモリーとその旦那さんのジョン(ジョンはこの映画の監督をしている)が殺処分されそうになった愛犬のトッドと一緒に暮らすために、農場を始めてから8年を追ったドキュメンタリーだ。いや、こんな説明では飛躍しすぎてよくわからないな。都会の狭いアパートでトッドが吠えてしまうから追い出されてしまって、これを解決するためには「広いところに引っ越せばいいのでは?」と思いついて、妻の夢だった農場を作ればトッドが吠えても怒られないんじゃない?ということから始まって、このビジョンに賛同してくれる投資家たちから支援を受けて、農園コンサルタントのアランと出会って、結果的に80万平米にもなる大きな大きな農場をつくってしまった。200エーカー(エーカーの単位全然ピンとこない)、つまり東京ドーム17個分ぐらい。もうその例えさえよくわからないな。とにかく広い。めちゃくちゃ広いのだ。

オーガニックな農園を目指した二人はアランと出会って「自然と同じ生態系をつくって循環させればいい」と教えてもらう。それがとてつもなく壮大なプランなのだけど、その凄さは映画を観てもらうとして、特筆すべきはその生態系のすごさだ。

ある年、農園に害虫が大量発生する。東京ドーム17個分の広さの大量発生だから、もう本当に大量発生。果樹園に被害が出てしまうから困ったなと、なったところその害虫を食べる動物を飼って、動物の糞が栄養になって、何年もかかって少しずつ再生可能な農業になっていく。その循環のありようにすとんと、ふに落ちたのだ。すとん。

資本主義のあり方に疑問を投じられて、ここ数年は世界中もう待ったなしの状況だ。人間が自然からどんどん離れて独自の世界を作れば作るほど不均衡が起きる。しかしこの生態系のあり方を見ていると地球には人間の発想を遥かに超えた原理原則があって、実は過不足などないことがわかる。全てのものに役割があって補い合ってつながっている。そりゃぁもう圧倒的な連鎖。

あれが足りないこれが邪魔だとすぐに言ってしまうけれど、実はもうここには必要なものだけがぴたっとあるのではないか、と思うわけです。


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