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【ウガンダ旅・7】コンゴで買ったアフリカンプリントで服を仕立てる話

2022年7月に10日ほど滞在したウガンダの旅日記です。よければこちらを先にどうぞ!
まえがき代わりの 前置き

ウガンダには、8年前のコンゴ旅でやり残した宿題を持ってきていました。

コンゴ民主共和国(以下「コンゴ」としますね)に行ったのは、類人猿のボノボをこの目で見るためでした(→【ウガンダ旅・0-3】)。

ボノボとの邂逅についてはいずれnoteで書けたらと思っていますが、今日の本題は「コンゴからの宿題――アフリカンプリントで服を仕立ててもらう」です。

コンゴから持ち帰った宿題

コンゴの首都キンシャサには、道端にたくさんの仕立て屋さんがお店を構えていました。布地屋さんで買ってきた布を持ち込み、自分の好きな形をオーダーすれば、仕立て屋さんはその場で客を採寸し、服を仕立ててくれるのだそう。

香港で既成の服を自分のサイズに仕立て直してもらったことはあるけれど、一からオーダーメイドで服を作るなんてやったことない。やってみたい! 

コンゴだけでなく、アフリカのあちこちで売られている綿のプリント布は色も柄も元気いっぱい。世界でも「アフリカンプリント」として親しまれ、いまやハイブランドも注目しています。

さて、勢いこんでキンシャサ郊外の布屋さんで布を買ったものの、残念ながらそこでタイムオーバー。仕立て屋さんに行く時間がとれなくなり、布のまま日本に持ち帰ってきたのでした。そして布は、箪笥の奥で長い眠りにつきます。

でも、わたしはここであきらめたわけではありませんでした。アフリカ布で服を仕立てる機会はきっとまた来る。日本でだってできるかもしれない。いつか再チャレンジするぞ、と。

布から服へ、仕立てるチャンスがやって来た!

8年後、ついに来ました。ウガンダに行く、という絶好の機会が。しかも、取材対象は、ウガンダの縫製業界で起業した仲本千津さんと、その工房で働く人たち。取材と宿題の両方が果たせる、千載一遇のチャンスです。

仲本さんに聞いたところ、町なかの仕立て屋さんも紹介できるし、仲本さんの工房で洋服を作る技術をもつスタッフもいるのでどうぞ頼んでみてください、とのこと。なんて…なんてありがたい!

布はたっぷりあります。取材としてもトライは多いほうがいい。町の仕立て屋さんに一着、工房のスタッフさんに一着、それぞれ頼むことに決めました。

どうやってオーダーする?

コンゴでは道端の店先に服のサンプルや写真が並んでいて、そこから選ぶという方式だったので、注文はシンプルです。

いっぽうウガンダでは、自分で持ってきた写真を見せるか、気に入っている自分の服を見本として預け、「これと同じの作って」と頼むとスムーズなのだそう。

見本を預けるのは簡単でいいけど、ちょっと物足りないような気もするなあ……。せっかくのオーダーメイドだから、自由にデザインを選びたい。

そこでわたしはPinterestで、アフリカンプリントで作られた洋服の写真を集め始めました。それがもう、楽しいのなんの。2時間、3時間、あっという間に過ぎていきます。

柄を見るだけでも楽しい。自分が持っている布の柄はどんな形の服だと映えるか、頭の中でシュミレーションを重ねます。

全体のシルエットはどんなのがいいか、袖の長さは、形は? えりぐりの形は? 開きの大きさは? 全部、自分の思うままに決められるのです。

わたしが買ってきた布は、はっきりしたオレンジと黒が基調。アフリカンプリントの中では色数が少ないので使いやすいかと思ったけど、オレンジが濃いので、服の面積が大きいと主張が強すぎて着られないかもしれない。

ならば、スカートやワンピースではなく、トップスにしよう。

綿100%だから、ふつうに作るとごわっとふくらんだシルエットになるかも。だったらウエストをきゅっと絞ろうかな。ゴムを入れるか、タックを入れるか……。

ね、楽しいでしょう? ふだん、服にあまり興味のないわたしですが、それでもこんなに楽しいのです。

最終的に絞り込んだのは左上のデザイン。

この中では上段の真ん中がもっともアフリカの人になじみのあるデザインかな。体にぴたっと張り付くようなデザインが好まれます。伸縮しない綿で仕立てちゃって、体型変わったらどうするんだろう…。

さらに、左上の服の襟ぐりを、ボートネックではなくスクエアネックにしたい。

スクエアネックは幅や深さによって印象や着心地が大きく変わるから、自分の服のなかから一枚みつくろって見本にしよう。

いざ、ウガンダの仕立て屋さん密集地帯へ

カンパラには、仕立て屋さんが軒を連ねる「仕立て屋街」とも呼べるエリアがあります。

そのあたりはあまり治安がよろしくなくて、スマホのひったくりが頻発しているので(その程度で済んでいるだけ平和ともいえます。コンゴの首都キンシャサならどこも危なくて一人で出歩くことすらできない)、のんきに町の様子を撮影というわけにはいかなかったんですが、まあ、圧巻でした。

仲本さんが連れて行ってくれたのは、腕がよく仲本さんもしばしば依頼していたグレースさんのところ。

古いビルに足を踏み入れると、中は仕立て屋さんのミシンで端から端まで埋め尽くされています。人々はそのミシンの間を縫うようにして前に進むのです。

一応、フロアは10平米ぐらいのスペースごとに部屋を区切ってあって、ひと区画にひとつの店、という想定で作られているのだけど、ほぼすべての部屋で、一部屋に4~5人の仕立て屋さんがミシンを並べ、ぎゅう詰めでそれぞれ店を構えています。

その部屋の中にお客さんも入って注文したり採寸してもらったり。完成した服やサンプルが頭上からみっしり吊るしてあって、水平方向も垂直方向も限界を超えた密集度です。

そして部屋に入りきれない仕立て屋さんは廊下にミシンを並べ、それぞれ勝手に営業しています。

店の中ではありません。これ廊下です。1つのミシンが1つの店。
部屋の中にも外にも店があふれる。奥に見える部屋はすっきりしているほう。

このビルにおいて廊下はまだ恵まれていて、なんと階段にも上から下までミシンがぴったりと並びます。階段一段では幅が狭すぎてミシンが置けないので、階段に対して横向きに、つまり数段にまたがって(しかも隣とぎゅうぎゅう詰めで)並べます。

もちろんそのままじゃミシンが斜めになっちゃうので、みんな、下方の階段にレンガやら板やらを積んでミシン台を水平に保ち、作業をしています。

まずは「見本服あり」のオーダー

桁外れの仕立て屋密度に度肝を抜かれ、オリジナルのデザインを頼む気力が出てこないわたし。ここは、日本から持ってきた服を預けてその通りに作ってもらう戦略に切り替えよう。そのための服も、一応、持ってきたのです。

とろみ素材の濃いめグレーなプルオーバー。アフリカンプリントで作るとどうなるか??

この服と、わたしが持ってきた布を見せ、「どう? 作れます?」と尋ねてみると、グレースさんは「できる」と即答。

「5日後に取りに来ようと思うんだけど、それまでにできますか?」
「Yes」

あまりに滑らかなやりとりに、これは海外でよくある「OKOK」と安請け合いしておいて、いざ、引き渡しの段階になると「まだできてない」とか「できなかった」ってなるやつじゃないか…?と不安がちらりと頭をかすめます。

でも、カンパラ暮らしの長い仲本さんのご紹介だし、きっと大丈夫だろう。

布とグレースと私。

グレースさんは、注文の内容や私の名前、連絡先や納期を、几帳面にノートに書いていきます。人気のテイラーさんらしく、ほかにもお客さんが来て、採寸してました。

「この布、使う分だけ切り取ってほしいんですけど。ほかで使うから」と頼むと、必要な長さを目分量で切ってくれました。よし、3分の2以上余ってる。もう一着、余裕でつくれるな。

「どの向きで作ります? 柄に線があるから、縦横ありますよね?」とわたしが尋ねると、グレースさんは一瞬考え、「縦にしましょう」と。うんうん、それがいい。ここで縦か横かを確認した自分に「Good Job!」と内心、親指を立てる。

できた!!

数日後、仕立て屋グレースを訪ねていくと、ちゃんと出来上がっていました。

布自体に張り感があって、見本としたとろみ素材とのシルエットの違いが面白い

その場でかぶってみます。ちゃんと着られる。ほつれもないし、ミシンの線もきれい。タックもきれいに入っています。さすが、腕のいい仕立て屋グレース。ほくほく。一着目、成功!

ウェバレー(ありがとう)、グレース!

二着目はフルオーダーメイド

さて、二着目は仲本さんの工房で、洋服制作担当のジポラさんに仕立てをお願いします。

今度は例の、Pinterestで見つけた黄色いブラウスの写真を見せて、「こんな風に作りたいんです。でも襟ぐりはいまわたしが着ているトップスのようなスクエアネックで」と頼んでみる。

実はその前、仲本さんから「写真で頼むならプリントアウトしていったほうがいい」とアドバイスを受けていました。たしかに、一瞬見せてあとは記憶でつくってねというのは無理があるし、写真データをやりとりするにも相手の通信状況がわからない。

しかしスマホの写真をプリンターから出力するのは日本ほど簡単ではなく、プリントアウトはできずじまい。そこで、写真をスマホの全画面に拡大し、それをジポラさんのスマホで撮影してもらう、という荒業で乗り切りました。

もう一人、スタッフさんが来てくれて、3人でわいわい言いながら採寸。肩幅を測り、ウエストを測り、「袖の長さは…どこまでがいい?」なんて聞かれたりしながら、オーダーメイド感を満喫します。

「明日には仕上がります」…そんなに早く?

「この布は全体にワックスのようなものが塗ってあるけど、単なる保護のための加工だから、洗濯して落としてから服を作りますね」

とジポラさん。たしかに綿布にしてはつやつや光ってるし、こしがあるなあと思ってました。

「明日には仕上がりますから」

…え? 洗濯して、干して乾かして、裁断して、縫製して、明日にはできちゃうの? 早くない?

聞き返してみたけど、ジポラさんはなんでもない顔でうなずきます。

「ええ、明日に」

まさかウガンダで「そんなに急がなくていいですよ」と思うときがくるとは。

このnoteではまだあまり書く機会がないけれど、ウガンダもほかのアフリカの国々同様、仕事はたいてい、のんびりです。

わたしが泊まっているホテルの朝食は、前夜に注文と時間を聞かれるにもかかわらず、その時間に行っても準備されておらず、席についてから30分待つこともしばしば。

朝ですよ? 出かける前に30分のロスって。

でもそのホテルではそれが通常運行なんです。受け入れるしかない。

そういうのに慣れていると、ウガンダにあって仕立て仕事の早さは驚異的です。日本でもそんな特急対応はやってないはず(あ、ベトナムとか香港の仕立て屋さんだと翌日仕上がりも多いですね)。

ジポラさんに「無理のないように~。楽しみに待ってます」と伝え、その日は帰りました。

できてる! お直しもその場で

そして翌日。工房に行くと…

できていました。事務局の机に、たたまれたオレンジの布が見えます。わたしの布。いや、わたしの服。

ジポラさんが工房内に見当たらないので、まずは着てみます。……むむ、ウエストを絞っているゴムがきつい。着られないほどじゃないけれど。

そういえば、数日前に会ったウガンダ暮らしの長い日本人女性の方も、こちらで娘さんのウェディングドレスを仕立てたら、ウエストが10センチもきつく出来上がってしまっていて作り直しになった、という話をしていたなあ…。そういうもんなのか。

仕上がった服を着て工房のテイラーズルームに行くと、それぞれミシンに向かって仕事をしていたスタッフの皆さんが、「あらー、いいのできたじゃない」と小さく歓声をあげてこちらを見上げます。

すると後ろから「どう?」とジポラさんの声がしました。「すごくよく似合ってますよ」と言いながら、仕上がりを確認している様子。

「実はウエストのゴムがきつくて…」

と言うと、彼女はウエスト部分をひっぱりながらたしかめ、

「うんうん、いま直すからちょっと待っててくださいね」

手早くウェストのギャザーを縫い直すジポラ

かぶりものなのでその場ですぽっと脱いで手渡すと、彼女は手際よくゴムをつけなおしていきます。20分後、「はい、どうぞ」と渡された服のウエスト回りは、きつ過ぎず緩すぎず、完璧でした。

ジポラ(左)と、仕立ててもらった服(右)

ハンガーにかけて撮るとこんな感じ。

この服を頼んだときは、布を縦に使うか横に使うか事前に相談するのを忘れ、柄は水平に。まあこれもありか。

グレースさんに作ってもらった服は横に張り出す感じがあって、色も柄も形も元気いっぱいという印象になったけど、こちらの服はドレープ多めですとんと下に布が流れるので、ちょっとエレガント。

ジポラさんは、「このデザインは、あなたの体型にとってもよく合ってると思う。だから、私も作ってて楽しかったです」と。なんてうれしい…。

「ありがとう。この服は、わたしの宝物になりました」と答えると、彼女はわたしの言葉をゆっくり吸い込むように自分の胸に手を当てて、にっこりほほえみました。

というわけで、二着目、大成功!

さて、お値段は?

あとはどれぐらい耐久性があるか(縫い目がほつれないか)を知りたいところですが、まだ何度かしか着ていないので、今後の検証にゆだねます。少なくとも、家で一回、ネットに入れて洗濯したぐらいではなんともなかったです。

そうだ。お値段も気になりますよね。布代と仕立て代をあわせて……一着あたり約2,000円といったところでしょうか。安い! 早くて的確で親切な仕立てに対して、そんなに安くていいのか!(いくない)

あ、でも、わたしはここに来るのに大枚はたいてるんだった。それを考えると、一着あたり……うん、考えるのはよそう。

ただ、これはお金と時間をかけさえすればできるわけではなく、カンパラの地理に詳しく、縫製の工房を経営している仲本さんのご案内とご紹介があればこそでした。単純にコストには換算できない、貴重な知見です。

それらを考えると、旅として、現地取材として、これほどリッチなアクティビティはなかなかないんじゃないかしら。

生まれて初めて、自分の着たい服を一から考え、作ってもらうという心躍る体験。

カンパラに暮らし、仕立ての技術をもつ女性たちが、どんな環境で、どんな風に仕事を回しているのか、注文客という当事者として関わりながら、その営みのごく一部を垣間見る取材。

仕立ての技術や作業時間への対価をウガンダの人はどう考えているか、アフリカで作られたものを日本人が(現地で・日本で)購入するときの価格に何が含まれているべきか、思いをはせる経験。

それに加えて手元には、作り手の顔も、注文のときのやりとりも、完成した服に袖を通した瞬間の高揚も鮮やかによみがえる、2着の服が残っています。プライスレスって、こういうことだ。

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