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【10】ダメ出しの悪魔

一カ月ぶりにnoteに戻ってきました。このひと月は、タイトルにある「ダメ出しの悪魔」にメタメタにやられていました。悪魔の攻撃をしのいで生き延びるだけで精一杯で、ここで何かを話せる状態じゃなかったんです。今日はその話を。

前回の「仲本ウガンダ本」執筆プロセスはこちら(↓)。

一通り最初から最後まで書き上げた第一稿に、編集者さんから山盛りのフィードバックをいただき、訂正や調整を進める段階に入りました。自分で何度も読み返していて気にならなかった文章でも、編集者さんの目から見て気になったポイントを指摘されると、粗がくっきり見えてきます

ときには「おっしゃる通り」と頭をたれながら、ときには「おっしゃる通りだけど、ここはこのままでいきたい」とつぶやきながら、ごりごりと別の表現に変えていきます。

わたしは書籍編集者出身の書き手なので、基本的に推敲プロセスは好きです。原稿が一通りできた、と思ってからが勝負。そこからどれだけ「もっといいもの」に変えられるかが勝負。と思ってきました。そのプロセスが後にあるとわかっているからこそ、第一稿を「とりあえずこれで終わり」と手放せるわけです。

しかし。

自分の原稿の粗とひたすら向き合っていたら、奴が出てきてしまったのです。わたしが呼ぶところのダメ出しおばけが。

ちょうど先日、このダメ出しおばけと同じで名前が違うだけの「ダメ出しの悪魔」がtwitterで話題になっていて、「これだよ」と思いましたね。

新人コピーライターが取り憑かれがちな、ある「悪魔」の話(1/2)
うえはらけいた|漫画家 @ueharakeita

誰かにダメ出しされているうちはまだいい。無茶なダメ出しじゃなければ、それがブラッシュアップのきっかけになるし、ダメ出しの適否を(精神的に弱ってなければ)自分で判断することもできる。

ただ、ずっと自分の書いたものとひとりで向き合ってると、聴こえてくるんです、内なるダメ出しの声が。

「せっかくいい題材を得ていい取材させてもらったのに、こんな浅い原稿で面白く読める人なんているかな」とか「こんな貧しい表現力じゃ、読者も読んでて飽きちゃうよ」とか。

どうあがいても、すごくよくない文章をギリギリまずくない文章に書き換えているだけで、読み手の心に届く文章にはなっていない気がする。全体のトーンも構成もありきたりで工夫がないように思える。

先のうえはらさんの漫画の一コマにこうあります。
実力よりも先に目が肥えてきた人に 彼らは取り憑いてくる

書籍の編集者として育ったわたしはたぶん、本の原稿を見る目が人より厳しい。自分の原稿に対する評価も手厳しくなってしまうのかもしれません。それはおそらくわたしの強みでもあるけれど、同時にダメ出しの悪魔も大きく育ててしまう。

この本の原稿の推敲をしながら、ライターとしてご依頼をいただいて書く原稿もやっているんですが、そっちの原稿にまでこの悪魔が顔を出すようになってしまった。自信がない状態から書くものだから、最初から最後まで自信をもてない。つらい。というのがこの一カ月間でした。

twitterで話題になった「ダメ出しの悪魔」にとりつかれちゃった新人コピーライターに先輩がかけた言葉は、

・悪魔の言葉を全力で無視して、ひとまず完成させること。

・そうやってできあがったものがダメでもいいから人に見せること。きっと、ダメなところだけじゃなくていいところも見つけてくれる。

・クリエーターを続ける限り、悪魔は居座り続ける。だから飼いならすしかない

の3つでした(引用したtweetの短い漫画を見てね)。

そうなんだよね、悪魔祓いはできない。悪魔に負けないほど、自分の実力が飛躍的に上がることもそうそうない。

私には社内の先輩や上司はいないから、「ダメかもしれないけどとにかく見てください」というのはできないけど、精一杯やったところで「どうですか?」と恐る恐る編集者さんに提出してみるしかない。

一カ月間、歯をくいしばって悪魔の攻撃をやりすごしながら、「原稿をお届けします!」を繰り返していたら、少なくとも実務の山は減っていた。本の原稿は編集者さんに戻すことができ、依頼されていた取材記事も大半は納品できた。

精神的にはとくに何かを克服したわけではなく、悪魔の攻撃を受け流せるようになったわけでもないけれど、「渡さなくてはいけない原稿をとにかく渡した」という事実が積み上がったことでようよう、下ばかり向いてた顔をあげられるようになった。

わたしの視界の中では色がなかった空が、青く見えるようになっていました。

推敲の旅はまだまだ続きます。ダメ出しの悪魔は連れて行きたくないけれど、悪魔は自分の心の中に生まれてきたものだから、置いていったつもりでもきっとまたよみがえってしまうでしょう。しょうがない、つきあい方をもう少し模索しよう。



「仲本ウガンダ本戦記」なので、苦しんでるところも見せるのが「戦記」だなと思って、今回はメンタルな沼もさらけだしてみました(←苦手科目)。次回からは通常運行に戻ります~

(【10】終わり)

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