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万博と仏教


高島屋資料館の「万博と仏教」を見てきた。

万博と仏教とは


万博と仏教とは、万博と仏経の関係を説明する展示である。
万博とは、万国博覧会の略で、世界各国から参加してひらかれる、国際的な博覧会のことである。2025年、大阪でやることが決まっている。

2023年ではさも当たり前のように大阪で予定されているが、万国博覧会、いわゆる万博は、キリスト教の国で行われるのが当たり前だった。仏教はそこで、オリエンタリズム的なものとして扱われていた。
オリエンタリズムとは、直訳すると「東洋趣味」という意味だが、転じて「東洋的なコンテンツを使って、東洋に対する侮蔑的・差別的思想を流布すること」という意味も持つ。例えば昔のアメリカ映画には「アメリカ白人男性がアジアでヒーローになってその土地のヒロインといい感じになる」というストーリーのものがあるが、それはその土地のヒロインが白人男性にほいほい惚れると思っているという点でオリエンタリズムと言える。


オリエンタリズムとしての仏教


大阪万博以前のの万博では、仏教は「なんとなく東洋っぽいもの」という認識で扱われていた。宗教としての中身も、あまり省みられることはなかった。
西洋文化はキリスト教ありきで回っていた。多少宗教権力が小さくなっても、まだよその文化を受け入れる素地がなかったのだろう。
仏教文化の違いもわからないまま、東洋の文化のかっこいいところや美しいところをうわべだけ紹介する。それこそオリエンタリズムであろう。

オリエンタリズムを利用する日本


仏教文化が本当の意味で理解されない中で、日本はオリエンタリズムを批判していた……とは限らず、商売道具として使っていた。
日本は、仏教的なものを積極的に輸出していた。例えば仏像、お寺っぽい建物など。
特に五重塔は、日本でも海外でも仏教のシンボルとして扱われた。五重塔が描かれたグッズや、置物などの立体物が売られている。「万博と仏教」でも、「日本万国博記念切手ケース」を始めとする塔のグッズが展示されている。
今でも外国人向けになんちゃって日本のグッズを売っているので、それと同じような感覚かもしれない。
というか、五重塔のグッズは今でも京都に行けばあるな……。日の丸や芸者とともに、日本のアイコンのようなものになってしまった。


1970年の大阪万博での仏教


商業主義と偏見でできた万博における仏教だったが、1970年の万博で、仏教の表現は変わることとなる。
仏教が、東アジアの共通文化として、韓国、中国産、カンボジア、アフガニスタンなどのパビリオンで紹介されたのである。
それぞれの仏像には、賽銭箱が設けられ、観客は信仰の対象として見ていたことがわかる。
目を引かれたのはアフガニスタンの展示についてのパネルだった。タリバン政権が破壊する前のバーミヤーンの大仏を、アフガニスタンは日本に紹介していた。アフガニスタンはイスラム教の国ではあるが、好きなくとも1970年当時はバーミヤーンの大仏を文化財として扱っていたということだろう。
時の流れの残酷さを感じ、パネルの前で考え込んでしまった。

また、国内の僧侶にも、万博の思想に共鳴し、協力した人々がいた。
長野県の昭和寺は、大阪万博のラオス館を引き取って移築し、戦没者を慰霊する施設とした。
国を越えて仏教を大切にしようという意識を感じる。
ただ、この感想を書いた2023年8月に調べたところ、移築されたラオス館は大分痛んでしまっていて、手入れする余裕もないようだ。
歴史的な由来があるだけに、きれいにして保存してほしいが、地元民ではないしお金を出せるわけでもないので何とも言えない。誰かの思いが風化していくのは寂しい。

仏教のいま


私自身は信心が強い方ではないが、宗教はその土地の人間の倫理観や価値観に深く根差しており、完全に取り去ることはできないと思う。
以前紹介した大阪歴史博物館の展示「異界彷徨」でも、似たようなことを考えた。
オリエンタリズムを演じていた時代から、東アジアの日常の中にある仏教を海外に発信するようになったのは、多様性の点ではいいことなのだろう。
ただ、宗教から逃れることができないとしても、宗教が家父長制に乗っかって都合のいい家族観を示し続けてきたのは事実ではある。宗教団体に差別されるLGBTの問題や、宗教二世の問題はそれはそれとして語っていかければならない。
いいところであれ悪いところであれ、宗教を語ることによって宗教をやっていくというのは大事なのではないだろうか。
企業がやっている展示のせいか、展示の中には現代における万博や仏教への批判はなかった。でも、実際のところ、悪いところも含めて開示していく方が、将来のためになると思う。

本題以外に気になったところ

最後に感想の本題以外に気になったところを述べて終わる。
この展示は君島綾子氏という宗教学者が監修・キャプションの文面を担当している。
調べてみると和光大学で教鞭を取っている方らしい。

ここまではっきりキャプションを書いている人がわかるのは珍しい気がする。誰が言ったか判明しているのは展示としてもわかりやすくてよい。

写真OKの展示は一部だけだが、その一部の写真OKエリアが独特のデザインになっている。空間デザインが好きな人は楽しいと思う。
和風の庭園をベースに、モダンな要素も取り入れられていて美しい。

色々な意味で尖った展示だった。こういう展示を企業ミュージアムがやってくれるのはうれしい。

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