見出し画像

事業承継を経験してみた今、思うこと



 えぽっくの若松です!今回はタイトルにもある通り、事業承継について書いてみたいと思います。


 〇どうして事業承継したのか?
 〇実際にやってみてどうだったのか?
 〇事業承継について、率直に思うこと



 などを綴っていきますので、事業承継に興味のある方は読んでみてくださいね!


■実は飲食店経験なし!それでもイタリア料理店を事業継承した理由


 3年ほど前、イタリア料理店【ベイカナーズ】を事業承継しました。学生時代のアルバイトでも飲食店経験のない僕ですが、なぜこの事業を引き継いだのか。


 それは、僕自身が事業承継をやってみたかった、というのも理由の一つですが、「大廃業時代がやってくる」という、これから起こり得る社会問題もまた、大きな理由の一つになっています。


 数年前から大廃業時代がやってくると囁かれていますが、これにはもちろん理由があります。


 ある試算によると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業経営者は約245万人。そのうち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)の経営者は、後継者が未定なのです。


 高齢化が進む日本。それはもちろん、経営者も例外ではありません。後継者がいなければ廃業せざるを得ないため、国内の大多数の企業が失われ、それに伴い雇用も失われる…ということが問題視されています。えぽっくでは中小企業の支援もしていますから、この問題は当然、無視できないものです。


 実際、経営上は毎年黒字で問題がないのに、後継者がいないために会社がなくなってしまうという実態があることも聞き及んでいたので、その度に僕は、もったいないなと感じていました。それと同時に、「自分で事業承継ができたら、おもしろいんじゃないかな?」とも思っていたのです。


 そんなことを考えていた2018年。インターンの受け入れ先として関わらせていただていたある企業で、経営されていたホテルの経営者が変わり、方針が変わり、ホテルを廃業することが決まったのです。


 書いてしまえばたった数行で済んでしまう出来事なのですが、身近なところで起こるそれは僕にとってそれなりのインパクトがあって、「会社って、やっぱりなくなったりするんだ」というシンプルな実感をもたらしました。


 実をいうと、僕が育ったのは自営業の家ではないため、継ぐべき家業というものがありません。体験がないために家業を継ぐことの苦労などもわかりませんでした。そういった意味でも、事業承継は良い経験にもなると思いましたし、これまでに自分が経験してきたことを生かすという意味でもまた、自分自身のスキルアップになるんじゃないか、との想いもありました。


 副業やインターンなど ”働く” を考える日頃の仕事の場面で、相談を受ける企業さんに対して「こうしたら上手くいくんじゃないかな?」と思うことがあっても、なかなか相手の意向や方針などもあって挑戦できないこともありますが、自分が経営者だったらそれを検証できる良い機会にもなります(えぽっくのテーマでもある『実験』ですね(笑))。


 こうして、僕自身がまず事業継承をやってみる、ということを決意し、本格的に動き始めました。


 2019年に入って事業承継の勉強をし始めたのですが、その少し前から地方の小さなお店などがインターネット上で事業承継できるサービスが出始めました。今思えば、こうした事業承継サービスの黎明期がこの頃だったのでしょう。こうしたプラットフォームの出現からも、事業承継の本格化という時代の流れを感じ始めました。


 当時、インターネット上で案件を見ていたのですが、案件はかなり少なかったです。老舗の小さなお店などだと高齢の方が一人で切り盛りされてきたでしょうから、ITに不慣れな方も多かったのだと思います。そういった背景もあって、承継できそうな会社を自力で探すのは難しそうだな…という印象でした。


 しかし勉強していく中で、各都道府県に【事業承継・引継ぎ支援センター】が設置してあることを知りました。そこへ行って問い合わせてみたところ、なんと条件に合う会社が10件ほどあり、うち飲食店が3件出てきました。(補足:現在はどうかわかりませんが、法人は照会してもらいやすかったようです。)


 僕はこのとき、何かを仕入れて売るお店よりも、独自商品を出せる飲食店のほうがおもしろそうだなと思ったので、飲食店3件に絞りました。そしてご縁があったのが【ベイカナーズ】でした。


 一代で築かれたお店で地元の方の知名度がとても高く、30年近く続けてこられたイタリア料理店です。他にもお店を持たれている社長さんで、最初に創業した【ベイカナーズ】を続けたい気持ちを持たれていましたが、大きいお店でパワーが必要なので他の人に任せたい、と事業承継を希望されている状況でした。

 交渉していくうちに、当時の社長が僕とご近所だったり(笑)、積極的に地域のイベントを開催したりと地元に貢献されてきた方で、共通の知り合いも多くいることがわかりました。共通点が多かったことも後押しとなり、2019年の春に交渉が始まりました。月に1回のミーティングで経営の状況や種々の契約関係などの現状を把握・整理し、スケジュールの調整など引継ぎの準備を進め、2019年11月に正式に事業承継しました。



■実際にやってみて感じていること



 率直に感じていることは、「むずいな…」です(笑)。


 具体的には(これは事業承継に限らず副業などでも当てはまりますが)、企業文化、あるいは風土などの違いをいかに整えるかが、とても重要で大きな課題です。よくあることではありますが、このカルチャーマッチングという点において、いかにそのギャップを解消し、落としどころを見つけていけるかはポイントだと思います。


 特に従業員を抱えている会社を承継するときは、従前の経営者との関係性ももちろん大切ですが、その後も働いてくれる従業員の方々との関係性もまた、とても大切です。経営されてきた中でそこにいる人たちが大切にされてきたことへの共感も必要だと思いますし、また、新しい価値観を受け入れてもらうという努力も必要です。


 不慣れなところやコロナ禍など課題はありましたが、【ベイカナーズ】ではありがたいことになんとか今日まで経営させていただいております。しかし家業や他の事業を承継したタイミングで従業員と折り合いがつかず、大変な思いをした、という話はよく聞きます。事業承継にせよ副業や移住にせよ、誰かが築き上げてきたものを引き継いだり、あるいはその中へ入っていくというときには、やはり互いのギャップを埋めることへの努力は必須だと、改めて気づかせていただきました。


 セミナーなどでもお伝えしているのですが、事業承継するときに大切なポイントがいくつかあります。たとえば、従前の経営者が何を大事にしたいのかをきちんと確認することです。お金のことかもしれませんし、承継するタイミングかもしれません。既存の従業員の雇用を最優先にしてほしいかもしれませんし、想いを受け継いでほしいのかもしれません。これまでのお店の名前を残してほしい、ということだってあります。これまでの取引先との縁を切らないでほしい、ということもあります。

 大切に経営を続けてこられた会社を承継するということは、経営者の方にとって大きな決断です。ですから、何を大切にしたいのかをきちんと確認して、継承する側も誠意を持って事業を引き継いでいきたいですね。


 逆に、事業承継で簡単だったことを一つ挙げると、コスト削減です。これは思った以上に簡単でした。


 たとえば、家賃の交渉。もちろんすべてのお店の事業承継で当てはまるとは言えませんが、僕の場合でいうと30年近く経営されてきたお店で、ずっと家賃を支払い続けてきたわけです。当然、30年もあれば社会は大きな変化を遂げているわけで、地価にも変動があります。周辺の不動産情報をかき集めて検証した結果、周辺の状況と比較して、家賃が相場よりも若干高かったのです。適正な価格ではないと判断したため大家さんに交渉し、家賃を少し下げてもらいました。


 また、今は電気などの自由化も進んでいるので、契約を見直してシミュレーションしてみると、案外簡単に光熱費も下げることができました。飲食店の場合、あの酒屋さんのお酒を仕入れる、のように、古くからの付き合いがあったりします。そういったご縁を大事にされてきたのであればできるだけ継続してあげれば良いのですが、今はもうあまり使っていないのにリースし続けている物や、効果を感じられない宣伝広告費などは、現場でヒアリングして状況を把握すれば、見直す対象はたくさん出てきます。

 いろいろ試してみて、僕の場合は年間で100万円以上の経費削減に成功しました。これは経営の経験の有無に関わらず、一人暮らしの経験などで家計の見直しをやってみたことがあれば、きっと誰でもできます。ちなみに削減した分、何をしたかというと、フルタイムで働いてくれていた方2名を正社員として新たに雇用し、社会保険等に充当しました。

 事業承継をしてみておもしろいなと思うのは(これは飲食店を承継したことも大きいのですが)、地域おこし協力隊の方や副業をされている方の中で飲食関係を希望されている方にアドバイスをしたり、トレンドやノウハウの話を対等にできるようになったことです。つまり【ベイカナーズ】での経験が、普段のえぽっくの仕事でも役立つようになったのです。


 とくに地域おこし協力隊などではカフェの経営など飲食のお仕事に従事されている方がとても多いので、「うちではこうやっていますよ」のようなアドバイスができることもありますし、時にはこちらが教えていただくこともあり、勉強になっておもしろいです。


 もちろんまだまだ経験は浅いかもしれませんが、飲食店でアルバイトすらしたことがなかった僕からするととても良い経験になっていますし、飲食店をされている方の想いへの共感、みたいなところも深まってきたように感じています。家業を引き継いだことで出てくるお悩みにも、前より実感を伴って共感できるようになりました。


 事業承継に挑戦してみた今でも、後継者がいないというだけで消えていってしまう事業や会社がこれから増えていくことに対して、やはりもったいないと感じています。一方で、挑戦してみたことでわかったことは、事業承継はまだまだ広がるにはハードルが多い分野だということです。


 コーディネートしてもらって承継しようとすると費用面で負担が大きかったり、法律の面でも複雑になるケースがあります。インターネットでマッチングできるようになってきてはいるものの、たとえ承継したい人がいたとしても、経営者が高齢の場合、「子どもも継がないし、誰かに引き継いでもらうより自分の代で閉めたほうが良い」と判断される方もいます。このように経営者側の事情なども含め、まだまだ表に出ていない情報がたくさんあると思いますし、掘り起こしが必要な分野だと思います。

 「大廃業時代がやってきてしまう」というと、とても深刻に聞こえるかもしれません。正常な危機感は持ちつつも、「この会社、事業がなくなったらもったいないな」と関心を寄せる人が増え、ますます事業承継が広がっていく流れがこれからもっとできていけばいいなと思います!



■イタリア料理店【ベイカナーズ】




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?