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いつかの下書き。没の供養。

去年書いてあった掘り出し物


「5月、朝5時、手を振りながらわたしを見送った眠そうな彼の顔が頭にこびりついている。いつも雨が降っていたのにあの朝だけは晴れていた。あれから何度も何度も、洗っても擦っても削っても落ちない。どうやら無理やり剥がすしかないみたい。でも無理やり剥がしたりなんかしたら、わたしの一部も一緒に剥がれて、彼の形をした凹みができるのは分かりきっている。どちらにせよ痛みは残るし、忘れることはできない。という事実はどうしようもなく、痛い。とはまた違う。
彼を忘れて軽やかに過ごしていても、受け取る言葉や色によって、彼の記憶がふわっとわたしを包み込む。甘く、柔らかく、温かい。だけど息は苦しい。もはや後遺症のようなものなんだろう。彼に恋をした余韻と残された記憶に酔っている。大抵の場合は時間が解決してくれるけど、わたしの場合、時間はなんの役にも立たない。どこで間違えた?わたし。どこで間違えた?あの日かな?あの言葉?記憶を巡る。聖地巡礼なんかじゃない。地獄巡り。いつまで経ってもわたしはそれを繰り返している。答えもないし、ゴールもない。途中退出口もない。ただ死ぬまでそれを繰り返すだけ。」

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