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【小説】Day(s)break

 海はいつの日も同じ様相を見せる。

 俺もそうだろうか。あの頃から何も変わっていない。だからこそ、またここに来れば何も変わらずに日向に会えると根拠も無く思っているのだろう。石はまだ役目を残しながらも、光ることは無い。

 1月4日。夜の海岸はただ只管ひたすらに寒い。

***

 「そういえばさ、私初日の出って一回も見たこと無いんだよね。今年一緒に見に行かない?」

 いいけど日向朝弱いじゃんと言うと、だから見たこと無いんだよねーと笑った。17歳の聖夜、映画館を出てすぐのこと。最後水平線がさーとか俳優の誰誰君がさ―とかそれまではしゃいでいたのに、寒さのせいか日向の顔は赤かった。

 まあ、じゃ1日の朝早くに俺の家の前集合なと言ったのに大晦日に1通。言い出しっぺから風邪ひいたから4日でお願い、との連絡。あんな寒かったのに足出して外出たからだろーなんて軽く返しつつ、少しがっかりしていた所もあった。

 そうして4日の早朝。日向ふっかーつ!なんて言っているのを聞きながら合流して、30分程歩くと小さな浜辺。4時を過ぎた頃。

 「月はこういうの知らないんだもんねー。私は最初っからこれ目当てだったんだよ!」

 偶然だろうなと思う俺の横で日向は得意そうにしていた。流星群。その時までそれほど間近で見たことは一度も無かった。

 両手を組んで何かを願う日向。俺もそれに合わせて胸の内を、星に。

 「……ね、何お願いしたの?」

 目を開けると間近に俺の顔を覗き込んでいた日向。気恥ずかしくなって適当に誤魔化すと、1つの石を手渡してきた。自分も同じ大きさの石を手に。

 「これさ、ここに来た記念の流れ星っていうことにしようよ。叶ったらここにまた返しに来るの。ね、なんか良くない?」

 日向もそういうこと考える年なんだな―と茶化すと、幼馴染で何を言うか!とわざとらしく怒った素振りを見せた。白みだす空。日の出は綺麗だったけど、お互いさっきの後ではという感じだった。

***

 ……あの時日向が願ったことは、俺と同じだったんだろうか。俺にもう少し勇気があれば、今はどう変わっていたんだろう。

 大学進学を機に上京する俺と、両親のことを考えて地元就職を選ぶ日向。曖昧な関係をどう続けていいか分からなくなって避け続けた結果、曖昧に関係は壊れていった。卒業式の日の彼氏作ったよという見え透いた嘘。最後のサインは、1年間ずっと見逃したまま。

 帰省する度にこうやって後悔するんだろうな。いつの間にか流星群はあの日のように降り注いでいて、もう終盤。滲む視界に、輝きを失った石の放物線。

 「……ねえ。どうしてここにいるの。月。」

 背中が、暖かい。

 「日向……。……願い事、叶ったのか。」

 「ううん。でもきっともう叶うからいいの。」

 そっか、じゃあ俺ももういいか、と言って同じように石を放り投げる。白みだす海。水平線の上に、役目を終えた流れ星は日の明かりを反射した。

(1200字)


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