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【小説】大禍時

或る小さな村の情報を聞き付け
いの一番にネタを奪取せんと俺は、
海の見えるその地域へと車を急がせた。

煙突が見えてくる。
「大きさ66mの村のシンボル!」
観光ガイドブックに載っていた通りだ。

記事にしたいのはもっとも、そんなものではない。
国で行っている小学生の学力テストの
結果がなんと、

国語において圧倒的であったのだ。
さあ他のライバル社はと言うとこの事実を
歯牙にもかけない様子。なんと10年連続というに。

澄ました顔で俺行ってきていいですか、と。
先輩の「その村には触れるな」の忠告に
そっぽを向き、

煙草片手に飛ばしてきたという訳だ。
地図によるとお目当ての場所はここから真っ直ぐ
突き当たり。

手には3ヶ月前に買ったメモ用紙。
飛び切りのニュースを持ち帰って
「何だこの記事は!」のあの顔に叩きつけてやる。

2時に出てきて3時間半。アポ無しは流石にどうかと
拭えぬ不安も多少はあったが、

「ね、この村が今より注目を浴びれば財政も…」
の一言で何とでもしてやると気楽に考えることに。

春もこの時間になると少し寒い。
ヒートテックを肌着にしてきて正解だったと
ふふっと笑い、車を停め校門辺りまで歩を進めた。


「へぇー!おにいちゃんきしゃさんなんだ!」
ほっと一息。何だかんだ緊張もあった俺は
丸い笑顔で駆けてきた少年と打ち解けていた。

「みんなは国語が得意って聞いてきたんだけど、
村の子みんな得意なのかな?」

目に映る僕への眼差しはしかし、この質問で
耄碌しているのかとばかりに急に転換した。

「やっぱりお兄ちゃん早く帰った方がいいよ。
いっぱい喋れたのは偶然だったんだね。
ゆっくり帰って、ここには触れない方がいい。」

「え?」

様子がおかしい。何かおかしなことを言ったのか?

「ラッパ。この時間帯は特に駄目なんだよ。
リンゴ。大禍時。彼らに食べられてしまうよ。
ルール。一言も話さず、真っ直ぐ帰って。」

「ごめん、僕が何かおかしいこと言ったなら
謝るからさ。」

「レモン。記者さん、さようなら。
ローカル。最後に一つだけ答えてあげる。
ワイン。この村の大禍時は本当に逢魔するんだ。
ゐぬ。ルールを知ってから来て欲しかった。」

上に現れた細長い腕は俺を思い切り引きちぎった。


ゑんとつの高さは67mに伸びていた。

をしまい。

ん。

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