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【小説】クリスマスのせい

「共感覚」を頭に、空白の後、「つ」。
すると「辛い」や「疲れる」と出てくる。
やっぱりな、と何回だろうとほっとする。

ところが間違ってでも「な」など入れてしまうと
「なる方法」だの「なりたい」だの出てきて
酷く鬱陶しい。こんなもの消えてしまえばいいのに。

溜め息なんかついても今日は12/24か。
受験間近の3年の教室は勉強とイブとで
特異な空気感だ。自称進学校はどこもこうなのか。

ピンク色が若干多く映って気持ちが悪くなる。
まあ別に俺はもう指定校推薦で受かったから
勉強に差支えはないけど。ご自由に。

「ぅあーい、じゃあHRホームルーム始めるぞー!席に着けー。」

竹中先生、赤いなぁ…。
補講でピリピリしてんのにその相手連中が
こんな浮かれてるんじゃそれもそうか。

「今日はクリスマス前っていうこともあってだか
知らんが授業中に頭に変な被り物してた奴いたなぁ?
ウチのクラスじゃなかったが、いいか、
受験は団体戦だぞ?直前にこういった空気を
乱すようなことは決してしないようにな?」

いたいた。廊下で見ました。
あと俺基本個人戦だったんで、
団体の組に入れんといて下さい。

「じゃあ明日から冬休みに入るが、
この期間は徹底的に​──────

2日に1回同じ話。
先生もちょっと飽きてるじゃないすか。赤みうっす。
お、カラスめっちゃ喧嘩してる。

「​──────じゃあ、号令!」

「起立!礼、さようなら!」

「「「さようなら!!!」」」

明日っから何すっかな…。
入学後の準備みたいなのは
ある程度先週終わったしな…。


​───────​───────​───────


23:59。あと1分で忌まわしい日が来る。

5、4、3、2、1…はぁーい。憂鬱な日。
クルシミマース。

慣れた動作でSNSを開いても、
全く見慣れた雰囲気のタイムラインじゃない。
面白い、バズってるやつなんかいつもの半分に見える。

彼と出会って何年目だの、幸せカップルだの、
一緒に迎えましただのマジで嫌んなるから
やめてほしい。

…水野、今頃まだ付き合ってんのかな…。
今でも思い出すから苦しくなるんだろうな。
あれが中3の頃だからもう3年経つのか。経つのに。

「ごめん、私、想助そうすけのこと好きなんだけど、
でも、なんでも分かっちゃうの、やっぱり怖いよ。
ごめんね。もう別れよう。誰か素敵な人と会ってね。」

そう言った水野は確かに明るい黄色だった。
素敵な人と会ってね、と言うのはきっと本心だと。
分かっていても、薄いピンクも隠しきれていなかった。

クリスマスツリーをぐるりと囲む人混みの中、
追いかけた先に別の男が居た時にはもう、
心の何かがめしゃっと潰れていた。

これが同級生とかなら食ってかかったかもしれない。
だが、明らかに柔道かなんかやっている
高校生か大学生だった。

「水野、伊藤くんと付き合ってるのにあの
背ぇ高い人とも付き合ってんの?」

たった1度、廊下で耳にした言葉が顕になったことも
あった。サブリミナル効果ってやつだったのだろう。
たった一瞬の記憶というのも馬鹿にはできない。

…下手にSNSを開いたせいで感傷に浸ってしまった。
全部、クリスマスのせいだ。

ただ、あのツリーも上京したら
来年からは見られなくなるのか…。

…。

今日は午後から1度だけ見に行こうか。
俺が生まれた年から駅前に飾られ始まった縁もある。
ツリー自体は嫌いじゃないし、
それまでは毎年見に行っていた。

さぁ、そうと決まったら寝よう。
ぅお、0:33。嫌なことぐるぐる考えてると
なんで夜って時間経つの早いんだろうか。


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ひゃー、さっむ。
電飾は流石にまだまだ点かないか。
3時過ぎたばっかだしな。

…それにしても、気持ち悪い通りだなぁ…。
そこもかしこもピンク色だ。雪が桜色にすら見える。

逆にめっちゃ嫉妬してる人もいるのはなんか…、
なんだろうなぁこの気持ち。紫めっちゃ濃い。

とりあえず向こうの本屋寄っ

「ったっ。」

「あっ、ご、ごめん。大丈夫?」

「っと。はい。大丈夫です!ありがとう。」

…え?

「あー、っと。じゃあ、ごめんね。」

「はい!」

どういうことだ?

…。

え、どういうこと?
振り返って見ても離れてるから
気持ち悪がられないよな?

…。

…?あ、やべ目合った。こっち来るし。
逃げ…るのも変か。

「どうかしましたか?」

「あっ、いやー、その…まだライトアップは
しないんだなーって。」

「ふふっ。そうですね。
ライトアップ、楽しみなんですか?」

「あっ、まあそうですね。来年から俺大学生で、
ここ離れるんすよ。」

「それは寂しくなりますねぇ。
最後に見に来ようって感じだったんですか?」

「ええ、はい。」

「んー…じゃあ、夜まで時間ありますよね?
その間、私と付き合って貰えませんか?」

「へっ?あっ、あー…はい!じゃあ、お願いします。」

「やった!じゃああそこの喫茶店行きましょう!
ずっとここにいたので寒くて。」

「はい、じゃあ行きましょうか。」

どうしてだろう。この人、色が見えない。


​───────​───────​───────


「あっ、だからもう
地元離れるの決まってたんですね〜!
めっちゃ頭いいじゃないですか!」

「いえいえ、そんなことないっすよ。
星野さんも地元ココに就職するんですよね?
それも凄いと思います。俺なんかやりたいこと全然。」

星野恵さん。

黒のロングに深緑のダッフルコートで、
背丈は大体俺と同じくらいの、同い年。

よく笑うし、話はちゃんと聞いてくれるし、
ちゃんと回す。

だけど、色が全く見えない。
こんなの初めてだ。人が何考えてるか分からないって
こんなに不安なのだろうか。

「恵でいいですよ〜!
…想助さん、何か考え事でもありますか?
さっきからなんか遠い目してますよ?」

「えっ、いやいやそんなことないですよ。
それより、えっと…あれ、すいません
就職の話でしたっけ?」

「ほら!やっぱりぼーっとしてる!
何かあるなら相談乗りますよ?
これでも私、人の頼みとかすっごい聞くので!」

「…えー、…いや、まあその、
確かにあるにはあるんですけど、
あんまり人に言うことでもないって言うか…。」

「えっ、宇宙人とか?」

「違いますよ!違うんですけど、
確かに普通の人と違うっていうのは、
合ってるかもしれないです。」

「…厨二…の方…?」

「それも違います!…共感覚ってご存知ですか?」

「あー、あの数字とか色とかで
なんか色々読み取れるってやつですよね?」

「それです。俺も、その、小さい頃から
人の考えてることとか、大体色で読み取れる…
らしくて。」

「えー、それってめっちゃすごくないですか!?
私今何考えてるかわかっちゃいます?」

「言うほど凄いもんでもないですよ。嫌なことも…。
ただ、その、なんでかほ…恵さんの考えてることが
色に出てこなくて、こんなの初めてなんで不安で…。」

「なるほど…。
つまり私が純粋無垢過ぎるわけですね…!」

ふっ。

「なんですかそれ。人が本気で相談してるのに。」

シャキーンと指を顎の下に構えている。
元々綺麗な顔立ちの人が子どもっぽいことをしていると
なんだかとても愛らしい。

「ごめんごめん。
でも、だったら逆に楽しいんじゃない?」

「楽しい?」

「そうそう。別に私は想助くんのこと
嫌いじゃないけど、本当に嫌いじゃないか
今から探ってみてよ。面白そうじゃない?」

「…そんなの、初めて聞きました。」

「純粋無垢過ぎた私にしか言えない言葉だね。」

腰に手を当てて胸をそらす姿が、やっぱり愛らしい。

「かもしれないですね。じゃあ、そうします。」

「うむ!よかろう〜。じゃあコーヒー飲み終わったら
向こうの服屋さん行こう!折角だから
連れ回しちゃうよ?」

「えー、お手柔らかにお願いします。」

「だめ!あ、あと挑戦権獲得のためには敬語抜き!
わかった?」

「はーい。」

「…わかった?」

「は…うん、分かった。」

「よろしい!じゃあ行くよ!」

この人、不思議な人だなあ。
なんだか、ずっと前から知っているような、
一緒にいるとそんな落ち着きがある。


​───────​───────​───────


「えー、み…いや、ひだー…りー…。」

「どっちがいーのー?」

「どちらもお似合いですので、
彼氏さんも迷ってしまいますよね〜。」

「かr…そうですね〜。」

無言の圧力が「彼氏じゃないです」を止めてくる。
にしてもどっちも本当に似合うんだよなぁ。

「じゃあ3・2・1で指さした方ね!はい、3、2、1…

「えっ、あっ、じゃあこっちで!」

「えへへ、やっぱりこっちがいっか!」

「お似合いだと思いますよ〜!
では、お会計の方にお持ちしますね〜。」

茶色のチェックの方も良かったんだけど…。
無難な黒のキャスケットでもよかったのかな。

「はい、こちらお会計1978円になりまーす。」

「…えっ、あ、はい!」

払うの俺なの!?と思ったあたり、
やっぱり女性慣れしてないところがあるんだろうなぁ。
…人慣れかな。頼み事とかの時の緑が見えない。

「ありがとうございました〜!」

もうなんだかんだ5時半か。
ゆっくり戻ってライトアップに間に合うくらいかな。

「いや〜、ごめんね〜コーヒー代といい今のも〜。」

「いやいや、大丈夫。でも大丈夫だった?そっちで?」

「いーの!どっちも良かったんだから、
想助に決めてもらった方が良い方なの。」

「そっか。」

「でもすーごい迷ってたね〜。
いっつもだとああ言うのもぱっと顔色とかで
わかっちゃうの?」

「んー、そうだね。でもなんか、
こういうので迷うのってなかったから
楽しかったかも。」

「え〜、本当?じゃあ彼女が出来た時とかも
こんな感じで出来たら楽しそうだね〜。
…あっ、だから分かっちゃうのか。」

「あー、そう…だね。」

水野の顔が、浮かんで消えた。
…恵さんが彼女になってくれたらいいのにな。

「じゃあそろそろライトアップの時間だから、
行こっか!」

「うん。丁度俺も言おうと思ってた。」


​───────​───────​───────


「ひゃー、混んでるね〜。」

「クリスマスだから、カップル連れとか
多いからね〜…。」

「やっぱりなんかカップル色みたいなの
いっぱい見えるの?」

「ピンクかな。すごく見えるよ。どこ向いても。」

「そっか。…あ、ごめん。
ちょっと私、お花摘んでくるね。」

「おは…、あ、はい!どうぞ!」

ライトアップあと1分で始まるんだけど…。
まあ、点く瞬間じゃなくても後からでも見れるけど。

…でも、よく考えたら恵さん、顔立ち整ってるし、
本当は彼氏待ちとかだったんじゃなかろうか。
ライトアップに合わせて待ち合わせ、とか。

…お腹痛くなってきた。
カウントダウン。5、4、3、2、1…

「…ぉお…!」

久しぶりに見た。
こんなにここのツリー綺麗だったっけ。

っていうか、周りがなんか一気に真っ白になったから
余計綺麗に見える。え、何なんか愛冷めたとか?怖。

…うすけ!

あ、恵さん戻ってきたかな。なんかホッとしてしまう。

…うすけ、そうすけ!想助!違う、後ろじゃない!
ツリーのてっぺんのとこ!見て!

ツリーのてっぺん?
っていうかなんで遠くから話しかけてくるんだろ。

あ、ちょっと黒く剥げてるけど綺麗な星の飾り。

剥げ…さっき買ってもらった帽子なんだけど?

…え、嘘?頭の中に的なアレ?なわけないか。
どこだろ。

それ!そうそう、頭の中に的なやつ!

…クリスマスで頭おかしくなったのかな。
恵さん早く戻ってこないかな…。

…!…周り見てみ?想助の共感覚っていうの
消えてるでしょ?

いや、まあ、そうなんだよ。そうなんだけど…。

星のお恵みだよ。クリスマスの私からの贈り物。
帽子のお礼。

…じゃあ、本当に…?

本当だってば!
じゃなきゃこんなの有り得ないでしょ?
それきっかけで水野って子にもフラれてたじゃん。

え、なんで知ってんの?

ずっと見守ってきたからだよ。私とあなたは同い年。
同級生ってなんか意識しちゃうじゃん?
…しばらく来てくれなくて寂しかったんだから。

…じゃあ、今日会ったのも?

そう。先週かな。今年も来ないのかなって思ってたら、
駅で合格したんだな〜ってほっとした顔してたから…。
もう会えなくなるのかな、って思ってたら、
会えちゃった。

そっか。

うん!今日はだから、すごく楽しかった。
…さ、くよくよせずに、家に帰りな。
もう想助を縛るものなんか何も無いんだから。

…ありがとう、恵。

私も、ありがとう。

じゃあね、また、今度は彼女を連れてでも来るよ。

おー、言うじゃん。
…ごめん、最後に1個だけ、
わがまま聞いてもらってもいい?

?いいけど。わっ、電飾

…。

ありがとう、想助。

…金属の味がしたよ。
突然明かりが消えたら周りも驚くだろ?

えー、そこは柑橘系の味にしてよ〜。ムードないなー。

あはは。…じゃあ、またね。

うん。またね。ハッピークリスマス!

明るく黄色にだけ光る恵。

クリスマスの精に会った今日は、
きっとこの先ずっと忘れられないんだろうな。


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おはようございます、こんにちは、こんばんは。
又ははじめまして!えぴさんです。

今回はこちらの企画に参加して
書かせていただきました〜!

既に沢山の応募がある中5000字をせめるんじゃねーよ
見んの大変だろなどと思いつつ。

ウオオオオアアアアヽ(`Д´)ノアアアアアッッッッ!!!!!
という感じで勢いに乗って作らせて頂きました。
ギリ5000くらいです。めっちゃ楽しかったです。

…といいつつまたこの企画に寄せて
書かせて貰えたら、などと思っています。
期限は24日。その際は何卒よろしくお願いします。

それでは改めまして
お読み頂きありがとうございました!

またお会いしましょう、以上えぴさんでした!

創作の原動力になります。 何か私の作品に心動かされるものがございましたら、宜しくお願いします。