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【小説】涙のプレゼント

なみだがほしいです。

うーむ、どうしようか。サンタは困りました。

毎年、色々な事情でプレゼントを貰えない子ども1人を
くじ引きで選び、当選した子どもの元には
プロのサンタが訪れることになっています。

今年選ばれたのは小学2年生の優太。

優太は幼い頃から両親の仲が悪く、
人の顔色を読むことは得意でしたが、
その代わり自分の心にはとても鈍感な子でした。

なので自分が本当は傷付いているのだと気付いたのは
両親が離婚をし、2ヶ月前に引き取り手の城一の元に
落ち着いてからのこと。

しかし、気付いたところで彼にはそれを治す方法が
分かりません。

1ヶ月の間共に生活し、少しは信頼を置いていた城一に
どうしたらいいか尋ねようとしましたが、

「アイツも昔は良い奴だったんだけどなぁ…。」

ある日零した彼の一言に優太は小さな不信感を
抱いてしまいました。本能のようなものです。
城一は実の父の、大学時代の友人でした。

彼はそれに気付いてから一言も父の話を
出しませんでしたが、1度失った信頼は
中々取り戻すことが出来ません。

たとえ今は父との交流が無くとも、
たとえ優太の本当の父のようになろうと
決心していたとしても、です。

優太は家に来た時のように
ニコニコする時が偶に現れるようになりました。
その笑顔は彼の心をずっと締め付けています。

そんな家にも、クリスマスはやってきます。

彼は優太に何か欲しいものはあるかと
聞こうとしましたが、
前の家のご近所さんの話を思い出し、やめました。

「去年のクリスマスの日にねぇ?
前の年までプレゼントなんて聞いたことも無かったのに
優太!父ちゃんのプレゼントだ!なんておっきな声。

それで何貰ったのかなーなんて次の日、
その子見たら顔にまあるく火傷の痕があったんだよ。」

優太が貰った唯一のプレゼントは父親の根性でした。
それがもし思い出されることになったのなら。
とてもじゃありませんがクリスマスなど
口に出せませんでした。

しかし、大人の事情はなんのその。
子どもはそれでも無邪気に、クリスマスだと
学校ではしゃぎます。

もちろん、優太もその中にいました。
プレゼントという言葉に少し震えながら。

そうして教室の陰の方にいると、
友だちのダイちゃんが声をかけました。

「ゆー!おまえ、ぷれぜんとなにがほしーんだ?」

ほしいもの。優太は困りました。
ただ、口をついて心が出たのでしょうか。

「きずをきれいにしたいの。こころのきず。」

小学生には少し難しい表現でした。
聞いたダイちゃんどころか、言った本人すらも
どういうことかわかりません。無意識でした。

「んー、よくわかんないけど、なくとすっきりするぜ!おれもころんでいたいときとか、ないておわってると
すっきりする!」

なく。なるほど、それはやったことがない。
話すだけでも叩かれるのに大きな声で泣くなど
前の家では出来ませんでした。今も、少し不安ですが。

それでもサンタさんなら叶えてくれるかもしれない。
転校前から聞いていた願いを叶えるという謎の人。
あったことはありませんでしたが、
お願いをしてみることにしました。

そうして、この願いは生まれたのです。
だからこそ、サンタはどうしようか、
とても困っているのでした。

これは私の手には負えないことかもしれない。
それでも、子どもの願いを叶えるのが私の役目だ。
頭の中でぐるぐる考えます。

すると、サンタの元に暗闇を割く一筋の光が。

そうか、なら大丈夫だ。でも失敗したなぁ。
だったらくじに入れなくても良かったかもなぁ。

サンタはそう思うと、
優太の願い事が書かれた紙に
一言書き加えてこっそり去っていきます。

翌日、優太が起きると紙には
見覚えのない字が書かれていました。

なみだがほしいです。

優太くんへ
外を見てごらん。優太くんの代わりに、
空が綺麗な涙を流してくれているよ。
君のことをサンタはいつも見守っている。
メリークリスマス!

外を見ると真っ白な雪が降っていました。
確かに綺麗です。それでも、涙は出てきません。

そうか、僕はもう泣くことが出来ないんだ。
だから代わりに空が泣いてくれたんだ。

優太は寂しくなってしまいました。
それでも、前の家より痛くないし、
もうプレゼントは使い切ったのかな。

いつものように城一と無言で朝食を食べ、
彼より先に学校へ行く準備をして
玄関へと向かいます。

すると、「待って!」と何やらバタバタして
城一が玄関へと来ました。

後ろから優しく包むようにして優太の手に
何かをくれます。手ぶくろでした。
でも、なんだか編み目がごちゃごちゃです。

「優太くん。俺からのプレゼント、
上手く出来なかったけど、つけていって。
いつでも、これからは俺が守ってあげるから。
じゃあ、行ってらっしゃい。」

プレゼントは正直ほつれもあって、暖かいかといえば
市販のものには遠く及びません。

それでも代わりにその手ぶくろは、
優太の目元を暖かくして、涙がちゃんと
流れるようにしてくれます。

城一サンタが贈ったものは物だけではなく、
優しい愛と、涙でした。


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おはようございます、こんにちは、こんばんは。
又は初めまして!えぴさんです。

一昨日昨日に引き続き本日もこちらの企画に
参加させて頂いています。

改めまして、お読み頂きありがとうございました!

それではまたお会いしましょう、
以上えぴさんでした!

創作の原動力になります。 何か私の作品に心動かされるものがございましたら、宜しくお願いします。