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【Sansan, freeeから学ぶ】効率よくお金を回すことのメリット

今回の記事では、運転資本(ワーキング・キャピタル)の効率化について、Sansanを例に説明したいと思います。


Sansanは非常に効率よくお金を回している

Sansanの2021年5月期の売上高は161億円で、前年同期比21%増加(前年同期は133億円)。一方で、営業利益は前年と同じ7億円でした。

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営業利益は、レンジで出していた予想数字よりもわずかに下回っただけですが、業績発表後は「順調な収益拡大を期待して買いついていた個人投資家には失望感が広がって」いたようで、株価は大きく下げていました(個人的にはめちゃくちゃ順調で想定通りの決算だと思うんですけどね)。


次に、営業キャッシュフロー(営業CF)を見てみます。

Sansanの2021年5月期の営業CFは30億円でした(ちなみに前年の営業CFも28億円あります)。営業利益7億円と比較して大きくプラスになっています。

つまり、Sansanは、利益ベースでみるとあまり利益を出していませんが(営業利益率は4.5%)、キャッシュベースでは、非常に効率よくキャッシュを獲得している(売上高の約20%)ことがわかります。


そして営業利益と営業CFの差のうち、14億円は「前受金の増加」によるものです。

Sansanの2021年5月時点の前受金は67億円あります。これを売上高と比較すると約5か月分の売上高に相当するので、半年分に近い将来の売上をすでに顧客から回収しているということを意味しています。

顧客から早く回収する。当たり前ですが、これがSansanが効率よくキャッシュを獲得している一番の理由です。

■補足説明:売掛金と前受金について
売上のタイミングよりも後にお金を回収する場合は「売掛金」が発生し、売上のタイミングよりも前にお金を回収する場合は「前受金」が発生します。
サブスクリプションモデルで月額固定料金でサービス提供している場合、通常、契約期間にわたって毎月一定額を売上計上しますが、前もってお金をもらう場合は、入金時に「前受金」が発生します。


freeeの投資フェーズはもう終わった?!

ほかの会社もいくつか見てみましょう。同じSaaS企業でも会社によって、前受金の金額は大きく異なり、結果として、営業利益と営業CFの差も会社によって異なっています。

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freeeは、売上高102億に対し、前受金残高は49億円あり、実に半年分の売上に相当するお金をすでに回収しています。

PLだけ見ると、営業利益が△24億円なので、まだまだ成長のための投資フェーズに思えますが、早期回収が実現できている結果、営業CFはほぼトントンなので、ほとんど追加でのお金を必要とせずに成長していることがわかります。

一方で、ラクスは営業利益率は非常に高いですが、前受金は大きくなく、営業利益と営業CFに大きな差はありません。利益率がすでに非常に高く、資金も潤沢ですが、仮にラクスが多少のディスカウントをしつつ年払いに切り替えた場合、営業CFはとんでもなく大きくなりそうです。


運転資本(ワーキング・キャピタル)という視点

運転資本とは、「通常のビジネス活動を行うために必要な資金」であり、多ければ多いほどより多くの資金が必要であることを意味します。

運転資本(ワーキング・キャピタル)
=売上債権(売掛金・受取手形)+在庫-支払債務(買掛金・支払手形)

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こちらの図が視覚的にわかりやすかったので参考にしています)

キャッシュフローにおいて、売上債権が増えるということは、まだ現金化できていない額が増えているということです。

売上債権は「将来お金に代わる資産」なので増えるのは良さそうに思えますが、お金そのものではないので、売上債権を介さずに、直接現預金が増える方がいいに決まっています。また、売上債権が増え続けることは回収できていない現金が増えているということです。

負債が増えるというのは、まだ払わずに済んでいる額が増えているということです。

一般的には、商品販売やサービス提供を行った後に顧客からお金を回収します。在庫を持つような製造業などでは、お金を払って原材料を仕入れ、在庫として保有し、販売・請求してからやっとお金が回収できるため、売掛金や在庫が仕入債務よりも多くなるので、上の図のように、運転資本が必要になります。


一方で、サービス提供(=売上計上)よりも早く多くのお金を回収できているSansanでは、理論上の運転資本はマイナスになっており、以下の図のようになっています。

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(前受けビジネスを行っている会社の運転資本には前受金も入れます)

多くの企業では、支払や売上よりも入金が遅いので、売上が増えるほど、「事業を回すために必要な資金」も増えていきますが、Sansanの場合は、売上より先行して多くのお金を回収できているため、売上が増えるほど「必要資金」ではなく「お金」自体がどんどん増えていきます。


効率よくお金が回っていると何がいいのか

SaaS企業はいかに早く成長するかがカギであり、売上拡大のために先行的にマーケティングや営業等に多くのお金を投下します。

「効率よくお金が回っている」ということは、顧客から早くお金を回収し、すぐに新規顧客獲得などのために再投資しやすいということを意味しており、新規顧客をとればとるほど、お金が増え、さらに顧客を獲得のために投資ができるという良い循環が生み出せているとも言えます。


また、運転資本の改善は、フリーキャッシュフローにもプラスの影響を与えるため、理論上、運転資本を改善すればするほど企業価値は高まり、その結果さらなる成長のための資金調達もしやすくなります。

■フリーキャッシュフロー
EBIT(1-税率)+減価償却費-設備投資-ワーキング・キャピタル増加額


お金は早く回収し、支払はできるだけ遅くする。会社経営では当たり前ではありますが、本業から効率よく資金を増やす仕組みは非常に魅力的です。

サブスクリプションのサービスでは、月払いと年払いで比較すると年払いは結構なディスカウントが得られることが多いです。もともと1年以上契約する前提では、単純に得した気がしてしまいますが、当然そのディスカウント以上のメリットをサービス提供側は享受できるわけです。

PLの利益や損に目が行きがちですが、キャッシュフローをいかに効率的に回すかは、会社の成長や企業価値向上につながる点で非常に重要な視点です。

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今回の記事は以上です。このnoteでは、ビジネスモデル(SaaSなど)の分析記事や、企業分析等を定期的に発信しています。
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