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【フェーズ別】SaaS企業が追うべきKPIと必要な財務数値

こんにちは!
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今回は、「SaaSのKPI」に関する記事です。

■今回の記事の大枠
会社のフェーズ毎に追うべきKPIと、KPIを出すために必要な財務数値の紹介

SaaSって本当にいろんな指標(KPI)がありますね。。
そもそも、どんなの指標があるのか知りたい方はこちらをどうぞ。網羅的で非常に勉強になりますし、まずボリュームをまとめられて頭が下がります。

他にもSaaSの指標が紹介されている記事やIR資料などはたくさんありますが、SaaS企業の経理や経営企画の方々は、様々な指標が載った記事を経営者からシェアされて、「うちもこれを追いたい」とかいう要望を受けているのかなと想像します。


ただ、会社のフェーズによって、重要なKPIは当然異なります

実際に様々な指標があり、優良SaaS企業が(自慢かのように)開示しているのを見るとどうしても気になりますが、その結果、そもそもプロダクトの満足度もまだ高くない段階で、ユニットエコノミクスがどうだとか、ネガティブチャーンがどうだとか言われ、指標を追う体制が先行することもあり得ます。

また、経理や経営企画からすると、あらゆる指標を計算するために、そもそもどんな財務数値をトラックすればいいのか混乱するかもしれません。

したがって、今回は、SaaS企業がそのステージ毎にどういったKPIを追うべきかと、経理または経営企画は、どういった財務指標をトラックすればよいのかをまとめました
(個人的な見解なので、おかしな点があればご指摘いただけると嬉しいです)


【フェーズ別】追うべき主なKPI

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まずは、追うべき主な指標を、会社のステージに合わせてる形で、「Startup」「Small」「Middle」の3段階で分けてみました。
(それぞれの中でも重要そうな指標を太字にしています)

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■簡単な補足:詳細の説明は割愛します
・MRR:月のストック売上高
・ARPU:顧客平均単価
・CAGR:(売上高の)年平均成長率
・Net Retention Rate:既存顧客からの増額 vs. 解約&減額 
・Unit economics:顧客獲得効率の指標(LTV vs. 顧客獲得単価(CAC))
・Magic Number:顧客獲得効率の指標(売上の増加 vs. 顧客獲得費用)
・Runway:どれくらいお金が持つかの指標(月のキャッシュアウト vs. 現金)

 Startup(目安:シード期)

このフェーズは、いわゆるPMF(Product Market Fit)の前段階。
販売する「プロダクト」に自信が持てるか。まずは、効率云々よりも顧客の「プロダクト」に対するの満足度が高いかどうかが重要です。

この時の一番の重要な指標は、顧客の継続率ないし解約率(Churn Rate)だと思います(もし契約期間後の解約がまだわからない場合は、顧客の健康状態がわかる手前のKPIがわかると望ましいでしょう)。
顧客がどれくらい満足してくれるか、継続してくれるかを把握し、解約率をどう下げるか試行錯誤を繰り返すフェーズです。

新規顧客が順調に獲得できていても、解約率が高いのであれば、短期的には売上高が伸びても、早い段階で頭打ちになる可能性があります。

また、ビジネスモデルとして、労働集約的ではなく(カスタマーサクセスの人数がめちゃめちゃ必要とかではなく)、ビジネスとしてちゃんとスケールするか見極める意味でも、粗利率は把握すべきでしょう。

ただ、仮に足元の粗利率があまり高くなくても近い将来に70~80%程度まで持っていける算段があるのであれば良いと思います。
(参考:この記事では売り上げ全体では80%、サブスクリプション売上単独では90%と書いてありますが、上場企業をみていると70~80%が多そうです)

そして、一般的にSaaS企業はプロダクト開発や営業費用が先行するため、資金ショートをしないか、あとどれくらい資金がもつのかを把握することはとても重要です。資金調達をする際も、ぎりぎりに行うと条件があまり良くなくなる可能性もあります。その点で、今のコスト水準(キャッシュアウト水準)で、会社がどれくらい生き延びられるかを示す「Runway」は安全性の指標として重要となります。


❷ Small(目安:シリーズA)

次に、「プロダクト」がある程度市場のニーズを満たすことがわかったら、どれくらい「再現性」をもって売上高を伸ばせるかが重要になります。
この段階では、いわゆるマーケティング、インサイドセールス、(フィールド)セールスと呼ばれるような体制で、あたかも工場の生産ラインのように、継続的かつ再現性をもって新規受注を積み上げていくことが重要視されます。

そのため、ある程度、解約率が抑えられ、お金をつぎ込んだ方が良さそうなタイミングでは、営業効率を示す「Unit economics」「Magic Number」といった指標を見ながら、どこでどれくらいアクセルを踏むべきかを考える必要があります。

なお、解約率をある程度抑えられる自信がある場合、アクセルを踏んだ方がいい理由はこちらの記事をご参照ください。

もっとも、顧客獲得効率は、顧客のLTV(Life Time Value:その顧客から生涯でどれくらいの売上を上げられるか)によって、使える金額も変わってくるため、解約率は引き続きとても重要です(というかこれはキモなので一生重要です)。


❸ Middle(目安:シリーズB~)

そして、ある程度軌道にのってきたら、必要に応じて追加で資金調達をしながら、引き続きマーケティング・セールスに力を入れつつ、営業効率の指標を追いながらお金をつぎ込み、新規獲得を図ります。

場合によっては、TAMやSAM(要は、狙える市場規模)を広げるために、プロダクトを増やしたり、将来的にはM&Aをしてプロダクトポートフォリオを拡張していくことも有効な選択肢でしょう。

この段階では、継続的に、高い年成長率が期待されるため(SaaS企業が立ち止まることをマーケットは許しません笑)、キャッシュポジションと売上高成長率が重要な指標となりそうです。
(参考:米国において、年間これくらいの売上であれば、これくらいの成長率が欲しいというライン(Mendoza Line))

また、単に解約率が低いだけでなく、既存顧客からの増額(アップグレードなど)で、解約額を相殺できるような状態(ネガティブチャーン)になっていると理想です。MRRに関しても、顧客の属性や契約開始ごとの推移を示すようなコホート分析があるとさらに力強いでしょう。

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(「Sansan株式会社 2020年5月期第3四半期 決算説明資料」より抜粋)


【フェーズ別】トラックしておくべき財務数値

上記の指標を追うために必要な財務数値の紹介です。

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こうして並べると思ったよりシンプルになりましたが、最低限これらの財務数値を月次で把握していないと追いたいKPIが追えません。

SaaS企業の特徴として、営業費用は、①売上原価、②S&M費用、③R&D費用、④G&A費用の4つに分けるのが一般的です。
以前、簡単にこちらの記事で説明したのでご参照ください

一旦集計の方法さえ決めてしまえば、トラックするのはそこまで大変ではなさそうです。論点がありそうなのは、面倒なのは、「売上原価」と「Sales & Marketing 費用」の範囲くらいでしょうか。

むしろ、経理や経営企画は一度これらの集計方法を決めた後は、財務数値と、現場で追っているKPIとの整合性を取り、マーケティングからカスタマーサクセスまで(本当は入金まで)工場”全体でどこがボトルネックなのかを探り、適時に示すことが大事になりそうです。


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