経理こそ”会社の成長に貢献する”という”意思”が必要だと思う理由
みなさん、”経理”ってどんなイメージですか?
偏見かもしれませんが、一般的には、ちょっと地味で真面目で少しお堅いイメージでしょうか。もしかしたら保守的で融通が利かないイメージもあるかもしれません。
また、「バックオフィス」とか「コストセンター」とか「間接部門」いう言葉からも、なんとなく会社の中でも脇役感や縁の下の力持ち感がある気がします。
ためしにGoogleで「間接部門」を調べると、思った以上に世の人の不満がたまっていそうです。。。
もっとも、経理の代表的な業務は、決算業務、請求書の発行や債権回収業務、支払い業務など、会社の日々の活動の成果である数字を集計したり、お金の支払や回収に関わる業務であり、会社の売上獲得に直接貢献するような部署や、顧客へのサービス提供に直接関与している部署でもないため、なんとなく脇役感があるのも理解はできます。
ただ、ぼくは経理のこういったイメージがすごく嫌いです。
なんか悔しいというか、もどかしいというか、とにかく経理も会社の花形部署の一つとして会社の成長にゴリゴリ貢献したいし、して欲しいし、できると思っています(もちろん経理がめちゃくちゃ活躍している会社もあるのは理解しています)。
経理だから、バックオフィスだからといって、会社の”成長”に貢献しなくていいわけでは全くありません。経理であろうが(今回は経理に絞りますが、総務であろうが、法務であろうが、労務であろうが)会社で存在感を出し、会社の成長に貢献するべきだと思っています。
では、なぜ一般的に「経理」は冒頭に書いたようなイメージがあるのでしょうか?
その原因は、経理業務の範囲を制限する”マインドセット”にあるのではないかと思います。
すべての部署の目的は、会社の”成長”への貢献
ぼくは、たとえバックオフィスと言われる部署であれ、すべての会社の部署の目的は「会社の”成長”への貢献」だと思っています。
経理業務は、先ほど例であげたような代表的な業務を”守り”の業務、数字を見ながら経営陣へ提言するような業務を“攻め”の業務みたいに言われることがありますが、個人的には、”守り”とか”攻め”といった表現はあまりしっくりきません。
例えば、月次決算業務でも、一日でも早く経営陣や会社のメンバーの意思決定に影響を与えるために、業務の優先順位を変えたり、提供する情報の頻度を増やしたり、内容を変えたりすることは”守り”でしょうか?”攻め”でしょうか?
請求業務でも、売上資金の回収を早めるために、多少ディスカウントをしてでも早く回収し、マーケティングや営業に再投資するようことの経済合理性を検討し、複数の回収条件を提案することは”攻め”でしょうか?
内部統制のような会社のチェック体制の強化のような話でも、その目的が、IPOによる将来の成長資金の確保なのだとしたら、”守り”でしょうか?
このように、“守り”か“攻め”かというのは、主観的で、わかるようで実はとても曖昧です。
したがって、ある特定の業務をすればいいという話ではなく、会社の成長のために主体的に考えて行動しているか? どれくらい前のめりで考えられているか?の方が重要だと思います。
すべての部署の目的は、会社の成長に貢献することであるとすると、そのために主体的に考えて行動しなくていい部署なんてないはずです。部署や業務に関わらず、主体的に行動したほうがよいに決まってます。
これからは「攻めの経理」が必要だとかいう論調は、普通の経理業務は「会社の成長に貢献しない」と考えている裏返しにも聞こえます。
「”守り”の業務だけではなく”攻め”の業務もやろう!」ではなく、単純に、会社の成長にどう貢献するかを、主体的に考えて行動することが重要だと思います。
経理は“受け皿”ではない
ただ、会社によっては、経理が会社の経営陣や他の部署がやりたいことの”受け皿化”(他部署からの要望を「受託」することに終始している状態)しているケースがあります。
イメージはこんな感じで、必要最低限のことと他部署等に依頼されたことが基本的な業務範囲です。
ぼくは、ギラギラしたCFOのインタビュー記事を見るのが好きなんですが、「自分は、CEOがやりたいことをできるようにサポートする」とか「CEOの無茶ぶりになんでも応える」みたいなことを言っている人を見ると、ちょっとがっかりします。
もちろん実態はわかりませんし、会社のフェーズによって求められる役割が変わりうるのは理解していますが、なんかこうもっとファイナンスのスペシャリティを活かして、会社をリードしましたみたいな、インタビューの方が個人的には好きだし嬉しくなります。
もちろんCEOや他の経営陣をフォローするときもありますが、CFOにも経営陣の一人として、目をきらきらさせながら、やりたいことを語ってほしいし、今後どうリードしていきたいか、その意思が聞きたいんです。
CFOが進んで“受け皿”化するのは楽かもしれませんが、経理・財務のトップであるCFOが会社の成長のために主体的に考えることを放棄したら、その部署は会社の中で単なる“受け皿”になります。
これが自分の役割だ!という方がいるかもしれませんが、CEOから見ると、助かってるけど物足りないという印象があるかもしれません。
経理は、他の部署のやりたいことの”受け皿”ではありません。
他の部署同様に、経理の業務の目的は会社の成長につながっているべきであり、意思をもって会社をリードすべきだと思います。
「ルーティンが多い」「忙しい」「自分の役割ではない」は言い訳?!
こういう話をすると
「本当はやりたいんだけど、忙しくて考える時間がない…」
「社長や役員の思いつきにいつも振り回されてて…」
「そもそも経理業務はルーティン業務が多く、考える余地が少ない…」
みたいな声が聞こえてきそうです。
ぼくもスタートアップの経理にいたことがありますが、特にスタートアップでは、会社の状況も変わるし業務範囲も広かったりするので、こういう現場の声も理解できます。
一方で、この状況が続くと、この状況自体を、経理が能動的に考えて動かなくていい免罪符みたいに使うことができてしまいます。
会社によって部署や人の役割が違いますし、それでも十分うまく回っているのであれば、今はいいのかもしれませんが、不確実性が高くなっている昨今の事業環境において、変化に柔軟に対応するためには、経理も含めたすべての組織が能動的・主体的なマインドセットが必要だと思います。
能動的に動けないもっともらしい理由をまとめてみました。
能動的に動けないもっともらしい理由
❶ 考える余地の少ないルーティン業務が多い
❷ 役員や他部署の突発的な依頼に振り回されて忙しい
❸ 経理の役割ではない
❶ 考える余地の少ないルーティン業務が多い
経理は、たしかに請求業務や入金の確認、支払い業務など、いわゆる「ルーティン業務」が多いかもしれませんが、ルーティン業務が多いことが、企業の成長への貢献を主体的に考えられない理由にはなりません。
また、「ルーティン」は組織が進化するための阻害要因ではなく、むしろ必要条件であるとも言われています。
「ルーティンの充実した組織は、認知キャパシティに余裕が生まれ、サーチ、行動がしやすくなり、新たな知を受け入れられるようになる。結果として組織の認知の幅を広げ、そこから学習し、進化できるのである」
(『世界標準の経営理論』入山章栄氏 より抜粋)
「ルーティン」には、放っておくと硬直するという特性があるため、改善やイノベーションのための思考が停止するリスクがありますが、考えるための脳みそ の余裕は増えるため、能動的に考えて行動するためにはむしろプラスに働く可能性があります。
❷ 役員や他部署の突発的な依頼に振り回されて忙しい
これは、先ほどの”受け皿”化の話と重複しますが、特にまだルールやプロセスが整備されていないフェーズの会社や、新しい取り組みを行おうとしている会社では、役員や他部門からの要望に振り回され、能動的に考えて行動する時間が取れないことがあります。
忙しい時期があるのは理解できるのですが、それがずっと続いている場合は、もしかしたら考えられていないだけの可能性もあります。
また、忙しい原因が役員や他部署からの突発的な依頼であった場合、常に後手に回っていると、コントロールできないことにストレスを感じたり、検討に脳みそや時間を持ってかれますが、前もって能動的に考えられていると、突発的な依頼にたいしてすぐに対処できることもよくあります。
❸ 経理の役割ではない
部署ごとに業務内容や役割が明確に決まっていて、外部環境の不確実性もあまり高くない場合は、こういう方が効率的かもしれません。
ただ、いざ会社の置かれる環境が変わった場合、このような組織の場合、環境の変化に対して、柔軟に対応することができない可能性があります。
また、自分の会社の業績が悪くても、他部署で問題が発生しても、対岸の火事のように映り、自分の会社のことが他人事に思えてしまうかもしれません。
自戒も込めて言います。
「ルーティンが多い」「忙しい」「自分の役割ではない」という理由はもっともらしいですが、気づいたらそれらが能動的に考えて行動しなくていいことの言い訳になっている可能性があります。
その場合、この言わば「コンフォートゾーン」から抜け出さなければいけません。
“会社の成長に貢献する”という意思があれば、売上にでも貢献できる
経理が他の部署よりも持っているものがあります。それは、会社全体の数字に関する「情報」です。
情報は人の意思決定・行動を変えることができます。
したがって、経理は、より能動的に情報を収集し、分析し、適切なタイミングで提供・発信することで、経営陣や他部署のより適切な意思決定を導き「他人の行動を変える」ことができます。
例えば、将来の業績を予測した結果、今よりも半年後に売上高が30%増える可能性があるのであれば、人が足りなく部署の採用方針について、早急に人事と話さないといけないかもしれません。
PMF(Product Market Fit)に手ごたえがあり、マーケティングや営業への投資を踏み込んだ方がいいタイミングであれば、そういった提言をしてもいいですし、どれくらいが合理的な範囲かの検討やKPIの設計にも関与したほうがいいかもしれません。お金がボトルネックなのが見えている場合は、率先して調達を検討すべきかもしれません。
もちろん、「会社の成長に貢献する」=「リスクをとる」ことではありません。
売上高を増やすために、ただやむくもにマーケティングや営業にお金をつぎ込もうというのは、思考をしていないことと同じです。
特に、営業部署が成果である受注や売上のみを追っている場合、コストについての認識がどうしても甘くなります。
売上を伸ばすことは重要ですが、企業のリソースは限られているため、その使い方も同時に考えないといけません。そして、その戦略にこそ経理が主体性を発揮できる領域だと思います。
会社の成長への貢献を考えるうえで持つべき視点
・ 売上を伸ばすこと
・ 費用対効果(ROI)を良くすること
経理は、会社の成果と費用対効果(ROI)を可視化することができます。
会社の売上高を事業やサービスごとや期間ごとに比較もできますし、部署ごとのコストも集計することもできます。目的のために新しいルールをつくることで、今まで見えていなかった情報を見える化することもできます。
経理は、すべての従業員の努力の最終的な結果である数字を扱っています。経理がきちんと現状を分析し、将来の絵を見せてあげることで、他の部署がより合理的な意思決定をとることに貢献することができます。
その点で、経理は、会社の成長に「直接」貢献することを期待されていないかもしれませんが、「間接」的には大いに貢献できる部署です。
会社全体の数字を扱っている経理こそ、情報の手綱を握り、積極的に発信すべきであり、これは経理の役割であり使命だと思っています。
CFOや経理部長はもちろん、これからステップアップしたい経理の必須要件は”意思”
人によって働く目的は異なります。
その会社に入った理由も様々で、求めることも違うでしょう。
出世に興味がないし、考えること自体が得意ではないからしたくない。
早く帰って他のことに時間を使いたいという考えも理解できます。
なので、すべての人が、能動的に行動しなければならないとは思いませんし、淡々と効率よく仕事をこなしてくれる方も会社には欠かせない重要な戦力です。
とはいえ、経理という組織・チーム単位では、「会社の成長への貢献」に対して主体的な意思を持つべきだと思います。
その点で、CFOや経理部長が持つべき一番重要な要件は「意思」だと思います。一定程度のスキルや経験、マネジメント能力やコミュニケーションスキルなどももちろん重要ですが、経理部門のトップのマインドセットがチームのマインドセットに大きく影響するからです。
会社の”受け皿”になるのではなく、「経理」が会社の成長をリードする。
そんな会社が今後どんどん増えてきたら嬉しいです。
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