見出し画像

【美術展】五感であじわう日本の美術/三井記念美術館

仕事柄、三井記念美術館の招待券を頂ける。今の勤務先を退職しようと思っているので、そんな有難い特典もこれが最後。


Ⅰ. 味を想像してみる

「伊勢海老自在置物」高瀬好山こうざん 19~20世紀・明治~昭和時代初期
伊勢海老を違う角度から

銀で作られた伊勢海老を見て味を想像するのは、私には無理だったが( ;∀;)、技巧の素晴らしさは伝わってくる。

伊勢海老では難しかったが、これらには私の幼少期の味覚が蘇った。

「染象牙果菜置物」安藤緑山 20世紀・大正~昭和時代初期
枝柿

私が幼少期の頃から現在に至るまで、実家の庭には果物の木がたくさんある。甘柿、渋柿、無花果、キウイ、ブルーベリー、ザクロ。これらの木が今でもすべてあるわけではなく、今はブルーベリーだけになってしまった。甘柿は、私でもちょっと木に登って取れば、すぐに食べられた優れもの。渋を抜いた渋柿より、実がしまって私は大好きだった。

無花果

売り物でもない、家族が食べるだけの果物なんて手入れもさしてせず、毎年実がなるに任せるだけ。その程度だから、毎年ザクザクなったキウィはひたすらすっぱいだけだった。家族に不評だったキウィはその内一掃されてしまった。
しかし、無花果だけは違った。ともかく美味しかった。しかし、木が枯れてしまい、私が上京する前にはもう家の庭からなくなっていた。無花果は今頃からお店に出始めるが、幼少期に大好きだった無花果の味が忘れられず、買って食べた時の驚きと言ったらなかった。
美味しくない、のである。
甘いことは確かに甘い。しかし、私が家の木からもいで、手を白い汁まみれにしながらかぶりついた無花果とは、実のプリプリ感が全く違った。家で適当に生らせた無花果の方が美味しいなんて、衝撃だった。
何度、買っても同じである。買って食べる度に「うちの無花果」の甘味を、食感を、悲しく思い出してしまう。最近は、買わなくなってしまった。

茄子

店頭で並んでいたら、間違って買ってしまいそう。


「鶴亀絵平皿」円山応挙画・竹翁ちくおう書 1789(寛政元)年・江戸時代

円山応挙に私がなにを言うだが、構図が完璧だと思った。完璧なものはずっと見続けられ、見ていて飽きない。

丸い皿の上部にふちの形に合わせて三日月状に羽を広げる鶴を描き、下部には亀を配置している。長寿で縁起がよいことを願う文様。裏面には江戸時代中期に活躍した画家・円山応挙の署名があり、鶴と亀が応挙によって絵付けされたことがわかる。

三井記念美術館


「黒塗一文字椀」伝 盛阿弥せいあみ 16~17世紀・桃山~江戸時代

蓋の上が平らになっていることから一文字椀いちもんじわんと呼ばれる。千利休の塗師といわれる盛阿弥の作とされる。茶の湯における懐石料理で、ご飯や汁物を入れる。利休は黒を好んだが、黒い椀も利休が用いたとされ、それまでは赤い椀が普通だったらしい。

三井記念美術館
私が作る料理でもこういったお椀に少量をもって供すれば、味もそれなりに思えるんじゃないだろうか( *´艸`)


Ⅱ. 温度を感じてみる

雪中松せっちゅうまつに鹿図屏風」岡本豊彦 19世紀・江戸時代

画面の外への大きく伸びる松の幹と、何かの音に気付いたのか、そっぽを向く鹿とが並んで配されている。松の根元は雪に埋もれているのか、それともまだほの暗い朝なのかは分からないが、余白を大きくとることでシーンと静まり返った、冬の風景が演出されている。

三井記念美術館
「雪中松に鹿図屏風」部分

生き物が描かれていると、その表情に目がいくことが多い。この鹿の表情もなんとも愛らしく、そしてこの絵で面白いと思ったのが、口ものと髭や顔の毛並みや耳毛?!。こんな筆使いが、絵に生き生きとした躍動感を与えるんじゃないだろうか。

「滝に亀図」円山応挙 1788(天明8)年・江戸時代

ザーッと流れ落ちる大きな滝を、こうら干しのために岩を登ってきたのか、亀が見つめている。滝は和紙の白さをそのまま活かし、筆で直線を素早く、かすれさせながら引くことで、流れ落ちる水が表現される。床の間にかければ、まるでそこに小さな滝が現れたかのよう。岩や亀の少し水にぬれた様子もまた、涼やか。

「滝に亀図」の亀のアップ。表情が漫画チックでカワイイ。ポッと頬を染めているかのよう。


Ⅲ.香りを嗅いでみる

「水仙図」円山応挙 1783(天明3)年・江戸時代

手折たおられた一輪のスイセンが、透明感のある色彩によって優しく描かれている。本作品は、作者の円山応挙と深く交わった、北三井家4代・高美たかはるの一周忌に描かれたもの。香りが強く、現代ではあまり仏前に供えることがないスイセンだが、すうっと消え入るようなはかなげな姿からは、その香りもまた風に乗って、すっ。。。。。。と故人の元へと届く様子が想像される。

三井記念美術館
水辺すいへん白菊図」土佐光起 17世紀・江戸時代

白菊が川面をのぞき込むように咲き、水鏡みずかがみにはその姿が映っている。白い花弁は絵の具で、水面に映る花は絹の地色じいろを残すという、同じ花の姿をそれぞれ異なる描き方で表した作品。

三井記念美術館
「水辺白菊図」部分
絹の地色を利用した水面に映る花の様子がよく分かる。描かれた当時、地色は清らかな美しい「白」だったことだろう。


Ⅳ.触った感触を想像してみる

重要文化財「黒楽茶碗 銘 雨雲」本阿弥ほんあみ光悦こうえつ 17世紀・江戸時代

江戸時代初期の文化人・本阿弥光悦が、自らのたのしみのために余技よぎ的に作った黒楽茶碗。濃淡をつけて塗られた釉薬うわぐすりの景色を、黒い雲の間に降りしきりる雨脚に見立て、「雨雲」と命銘めいめいしたらしい。丸みを帯びた腰や、へらで鋭く切られた口は、光悦ならではの造形。

三井記念美術館

茶道を嗜まない私は、茶器は「へぇ~、ほぉ~」しかない。


Ⅴ.音を聴いてみる

「栗と虫」小林古径 20世紀・昭和時代

音を想像してみるコーナーだが、私はその取り合わせと色がよかった。

「昆虫自在置物」高瀬好山 19~20世紀・明治~昭和時代初期
学芸員の方はこれらを展示するときに、実際に触れるのだろうが、足や羽が動かせるのを体験できるのだろうな。羨ましい~。


この展覧会に既に行かれた方がご紹介することが多いのがこれ。見た瞬間、おぉ、これ、これ、だった。

勝絵かちえ絵巻」15世紀・室町時代

お坊さんたちが「おなら」を矢のように操り、戦っている。おならを描く、迷いがなく鋭い直線からは「プーッ!」という高い音が聞こえてきそう。おならで烏帽子が吹き飛ばされた人もいる。この時代、烏帽子が落ちて頭が見えてしまうのとても恥ずかしいことだった。おならと落冠らっかんという、二大恥ずかしいハプニングの組み合わせに、当時の人々も笑みを浮かべたことだろう。

三井記念美術館
「や~ん、臭い~」な声も聞こえてきそう( *´艸`)。


狐狸こり図」永樂保全 1854(嘉永7)年・江戸時代

月夜の下、腹太鼓を打つタヌキと、お坊さんに化けたキツネが描かれている。タヌキのお腹は、視線の先にある、弓形の輪郭線でさらりと表された月のようにまん丸。キツネの絵に描かれたススキからは、サラサラと秋風に揺られる音が想像される。

三井記念美術館
相変わらず私がフォーカスしてしまうのは、動物の表情。これなどもとても漫画チック。


Ⅵ.気持ちを想像してみる

日本画をよく見るようになって、このモチーフに出会うことが増えた。日本人って好きよね、義経。判官贔屓ほうがんびいき。この言葉もそもそも判官の職にあった源義経にちなんでいる。

「雪中常盤図」浮田一蕙いっけい 19世紀・江戸時代

笠を被った常盤御前が赤ちゃん(源義経)を抱き、彼女の他の二人の子、今若、乙若と雪道を進んでいる。義経の父・源義朝が平治の乱で敗れ、一家ともども命を狙われたため、奈良へ逃れていく。

「皆を守るべく太刀に手を添える長男・今若の姿はいじらしく、それを見つめる常盤御前の目もどこか、悲しげ」

常盤御前の雪中の逃避行は、大倉集古館でも見た。

【ランチ】

三井記念美術館は、日本橋室町というキラキラしたところにあるので、ランチも選択肢はたくさんあるのだが、私はいつも「文明堂カフェ」に行ってしまう。奇をてらわない安定した美味しさ。

特製粗挽きハンバーグ
週替わりのソース、この日はタルタルソースだった。ドリンク付きで1,200円。
ここで忘れてならないのは、+200円でカステラを付けること。

会期終了間近の土曜日、2024年8月17日(土)。この規模の展覧会は、終了近くの週末でも激混みにならないのがいい。美術館の大きさも見て回るのに、息切れしない程度。大きさも、見学者の静けさも心地いい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?