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墨堤(ぼくてい)の桜が、ちらほら咲きはじめ、あたたかな日差しが降りそそいでいる、三月の…
埜瀬治之警部が、警視庁にもどると、刑事部捜査第一課の神保(じんぼ)課長から呼ばれた。 …
上野・不忍池は、すでに午後の陽が傾きはじめている。埜瀬警部は、検視医とともに、弁天島の…
一か月ほどまえ。 東京に名残雪が舞った日、ピアノリサイタルの準備に忙殺されていた和乃…
咲良が、不忍池で、凶器と思われる和かみそりを発見したころ、埜瀬警部は、保安課の課長から…
津田源一郎は、他の同僚たちとともに、不入屋から八回、金を借り、借用証文を渡していた。そ…
事件の容疑者は、陸軍省の軍人や事務方だけでも五十人近い。そのなかから、殺人犯を見つけねばならない。 一睡もせずに朝を迎えた彦四郎が、おしまの敷いてくれた寝床に入ろうとしたとき、小文たちがやってきた。 「眠いのだ。出直してもらってくれ」 おしまに言いかけたところへ、廊下から足音が聴こえてきた。 部屋の前で、数人の足音がとまり、廊下から、小文の声が、聞こえてきた。 「彦四郎さま、お見せしたいものがあるのです」 来客は、小文、咲良、小吟と玉喜だった。 彦四郎の眼は、半
彦四郎が、鍛冶橋の司法省警保寮から、浅草にある屋敷へもどると、家人の桐戸半蔵が、 「神…
同じころ、政府の太政官正院に所属する監部という密偵機関でも、極秘に「おとき殺害事件」の…
二日後。午前十時をすぎている。 本所深川にある武蔵屋藤兵衛の別宅まえで、二台の人力車…
仇討(あだうち) ある晴れた、九月初旬の早朝。東京市・本所深川大和町。平久(へいきゅう…