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通訳者の勉強方法(Part 3: タスク管理編)

ようやくPart 3までたどり着きました、「通訳者の勉強方法」シリーズ!
ラストとなる今回は「通訳者の英語学習タスク管理」についてです。

ちなみにPart 1とPart 2の記事は、この記事の最後に貼ってありますので、まだの方はそちらもぜひ読んでください!

さて、通訳者になって以降、私が英語学習のタスク管理に使っているのは、手帳でもアプリでもなく一枚の紙です。A4の紙に印刷した「タスク表」です。どんなものかというと…ドロドロドロドロ(ドラムロールの音)…… ジャジャ〜ン!これです!

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なんだこれは〜?ですよね。私は、1ヶ月間この一枚だけで英語学習の管理をしています。私にはとても有効な方法です。以下、細かく説明していきますね。


1)タスクとは何か

タスクとは、通常「仕事」のことを指すが、私は「英語力向上のためにやるべき課題」の意味で使っている。

英語を勉強していると、自分に足りないところが嫌という程見えてくる。オンライン英会話を30分やっただけで「言いたいことが言えなかった。語彙が足りないな〜」とか、「先生が何言ってるかわからなかった。リスニング力が足りない…」とか、「発音が悪い」「文法が間違ってる」「課題を読むスピードが遅い」等、もうウガ〜ッと叫んで走り出したくなるくらい自分のダメなところが見えてくる。

でもいくら叫んでも走っても、英語力は伸びない。やらなければいけないこと(=タスク)を自分で分析して、一つずつ潰していくしかないのだ。
そのタスクを書き出して、一つずつ○をつけて潰していく。それがタスク表の役割である。

タスク表を作ることで「自分に必要なタスクの可視化」と「タスクの実施率の可視化」を行うことができ、タスクを効果的に管理していくことができる。


2)タスクの設定の仕方

英語力と一口に言っても、スピーキングやリスニング等、色々なスキルに細分化される。

タスクは自分に必要なスキルを伸ばすために設定する。何が必要なスキルなのかは、目標や夢によってそれぞれ異なる。
例えば私は、トップレベルのフリーランス通訳者になるのが夢である。そのためには通訳者に必要なスキルを磨く必要がある。

通訳者に必要なスキルは何だろうか。色々あると思うが、次の6つに絞ってみた。
① L(リスニング)
② R(リーディング)
③ S(スピーキング)
④ W(ライティング)
⑤ V(ボキャブラリー)
⑥ Retention(記憶保持)

タスクを設定する時に、そのスキルを伸ばすためにどんなタスクに取り組めば良いかを考える。でもこれは案外難しい。
なので、私がやっているのは、今取り組んでいることをタスクで考え、そのタスクがどのスキルを強くするのかを考える。

例えばTEDを1日に1つずつ聴いているとする。
しかし、実際にはリスニングだけでなく、聴きながらメモ取りをし、聴き終わった後はトランスクリプトを精読して単語と発音を調べ、表現ノートに使えそうな表現を書き写し、そして最後にサイトラしているとする。
つまり、TEDを聴くことで「①リスニング、②ノートテイキング、③スクリプト確認、④単語確認、⑤発音確認、⑥表現ノート作成、⑦サイトラ」という7つのタスクを実施していることになる。つまり、TEDを1日に1つ聴くという一見1つに見える課題だが、以上のことを実施することでタスク表には7つのタスクを設定することができ、1日に7つ○をつけることが出来る

この7つのタスクを行なった場合に強化することができるスキルは何だろうか?一例を下に示した。

Final タスク設定TED

このように、リスニングはL(リスニング)だけでなくV(ボキャブラリー)も強化することができるし、トランスクリプトの単語確認はL/R/S/W/V全部を強化することができる。

大切なのは、自分が今やっている勉強が何を強化するのかを意識し、その強化点を伸ばすために努力すること。強化点を自覚しているかしていないかで、進歩のスピードが違ってくる。

毎月タスクを設定する時に、タスクの横に強化するスキルを強化点として書く。該当スキルを全部強化しようとしなくても良い。その月に何を強化するか、取捨選択して書く。下のタスク表の赤い線で囲んだ部分である。

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3)タスク表でのタスク管理のルール

タスク表でのタスク管理ルールは簡単。
① 5分以上で○をつける。
② 時間ではなく内容の切れ目で止める。
③ 気がついたら即追加し、月に一度全体を見直す。

この3つである。以下にもう少し詳しく説明する。

まず一つ目のルール。「タスクを5分以上実施したら○をつける」

5分というのは短すぎると思うかもしれない。実際短すぎる。でも、元々やりたくないから苦手になっていることなのに、10分やらないといけないと思うとメチャクチャ気が重くなる。でも5分だったらとりあえずやってみようという気になる。すると、何という事でしょう!実際にやり始めると5分だけのつもりだったのが、10分、20分と続けてやってしまう。また、一日5分でも、一週間実施すれば35分になる。なので、5分以上実施でOK、マル!とした。


二つ目「タスクは時間ではなく、内容の切れ目で止める」

「5分経ったからおしまい」と考えない。やっている課題、例えば音源を聞いてメモ取りの練習をしているのならばその音源課題が1つ終わるまでは止めない
実は、途中で止めたくなる課題は苦手分野のことが多い。嫌なものほど、とりあえず最後までやる。途中で止めるとやり終えた満足感がないし、次回再開場所を探したりして無駄が多くなる。
あまりにも長い課題でどうしても途中で終えなければならない時は、段落の切れ目、もしくは問題の切れ目までギリギリまで頑張る。できれば最後までやる!


三つ目「不足しているタスクに気がついたら即追加し、月に一度全体を見直して、不必要なもの、実施できていないものを削除する」

毎日英語を使っていると、自分に足りないものが見えてくる。足りないものに気がついたら、即タスク表に鉛筆書きで追加してその日から実施する。スペースがない時は不要なタスクに線を引いて削除し、必要なものを追加する。

毎日、何個○がついたかを数えて記録する。10個タスクを設定しても、10個全部できることはまずない。でも、少なくとも5個、何が何でも0個だけは許さない、という形で日々のモチベーションを保つ

月末に全体を見直す
その月の合計○数を計算し、前月と比べる。「今月は先月と比べて頑張ったな〜。エライ私!」なんて感激していると、30日の月と31日の月の違いだったりするので要注意。前月の自分と競争することでモチベーションを維持できる。

スキルが強化された実感があれば、そのタスクはもう要らないと判断して削除する。また、全く○がつかないタスクがあれば、そのタスクはやりづらいという事なので、同じ効果が得られる別のタスクに置き換える

例えば「ノートテイキング(メモ取り)」タスクに○が全くつかない時は、わざわざメモ取り練習だけするのが難しいということだ。その場合は、昼休みにリスニングをしてついでにメモも取るようにし、タスク名を「リスニング/ノートテイキング」とハイブリッドにすればOK!

ここで、実際にどのようにタスクを見直していたか見てみよう。これは同じ年の7月〜10月のタスク表のタスクメニューだけを並べたものである。

Final trim_kiritori4ヶ月分

わかりやすいように、7月から10月のタスクの変化を表にしてみた。

Final 4ヶ月表


8月は7月のタスクから「シャドーイング/数字」「DAC音読/レシテーション」を削除し「ニュース日英比較/数字」「6時間睡眠」を追加
9月は8月のタスクの「TALリスニング&スクリプト確認」を「リスニング&スクリプト確認」に変更
10月は9月のタスクから「ニュース日英比較/数字」を削除し「数字英⇆日」を追加

よく見ると、鉛筆で線を引いて書き直しているところがある。気がついたら即追加。全体は月末に見直すことで、その時に必要なタスクをもれなく実施することができる。

タスク表を変えていくことを恐れてはダメ。自分の英語力が上がっていくとともに、タスク表も進化しないといけない。子供が成長するに従って服がどんどん着れなくなっていくのと一緒である。タスク表が変化していくことは、成長の証なのだ。



4)タスク以外

さて、実はもう一つまだ触れていないことがある。どこでしょう?そう、タスク合計の下の部分である。ここにはタスク以外の、日々のアクティビティを記録している。

例として、とある7月のタスク表を見てみよう。

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赤い線で囲んだ中には、「会社通訳」「体調不良」「Skype session (Morning)」「Skype session (Evening)」と書いてある。

「会社通訳」は、会社で通訳をした日。◎は3つ以上の会議に出た、もしくは一人で長時間通訳をして負荷が高かった日。この日は自動的に「逐次通訳」もしくは「同時通訳」のタスクに○がつく。

「体調不良」は、文字通り体調が不良の日である。この頃頭痛に悩まされており、それを記録するために書いていたと思う。タスク的には関係がない。

私が一番大切と思うのは
「Skype session (Morning)」「Skype session (Evening)」の欄である。

HBR、TAL、ISRといった謎のアルファベットが並ぶが、これらは当時参加していた、Skypeを使用したオンラインの英語勉強会の名前である。
例えば「HBR」は「Harvard Business Reviewを読む会」、「TAL」は「This American Lifeを聴く会」である。全部無料の、学習者による自主勉強会だった。

このタスク表によれば、当時私は朝と夜、合計5つの勉強会に参加していた。これはこの時だけのことではなく、私は常に何かしらの勉強会に参加している。今でも3つの勉強会に参加している。

「私は、勉強会で英語力を伸ばした」と言っても過言ではない。

個人差はあると思うのだが、私はオンライン勉強会は英語力を伸ばす一番の近道だと思っている。
英語力を向上させたいという同じ思いを共有する仲間と出会えたことは私の人生の宝物だし、インターネットは世界に直結しており、世界という大海の中では自分の英語レベルがいかに低いか、という事実も突きつけられる。そして勉強会を通じて、仲間と試行錯誤し切磋琢磨して上へ上へと登っていくことができる。

みなさんも、自分にあった勉強会を見つけることをお勧めします。とは言っても、営利目的の勉強会や、何かの勧誘目的の勉強会はダメですよ!お金を払わなくても、上質な勉強はできます。自己責任で、良い自主勉強サークルを見つけてください。


では最後に、皆さんがご自身のタスク表を作る時の参考に、タスク表作成方法を簡単に書いておきますね。

【具体的なタスク表作成方法】

●用意するもの:白紙のタスク表(エクセルで作成、もしくは紙に手書きでもOK)、メモ用紙、鉛筆、ペン
●方法:自分の英語力向上に必要なタスクを設定し、タスク表に書く

自分が今やっている課題(問題集、購読雑誌、オンライン英会話等)を全部メモ用紙に書き出す。長いタイトルのものは、短くする(自分が理解できればOK。)

上記「2)タスク設定の仕方」を参考にし、自分が今やっている課題が各スキル(L/R/S/W/V/Retention)の内、どれを強化するかを考えて該当スキル(強化点)に○をつける。(強化点は自分のニーズに合わせて取捨選択する。例えば、通訳者でなければRetentionは不要。)

③ タスク設定をする。自分が強化しないといけないスキルを今やっている課題がカバーしているかを考え、足りない時は新しい課題を追加し、同じスキルだけを強化している時は取捨選択し、本当に必要なものだけ残す

無理のないタスク設定が終わったら、その月のタスクと強化点を白紙のタスク表にペンで記入する(もしくはエクセルに記入し、プリントアウトする。)

*タスク設定のポイント*
全てのスキルを満遍なく強化しても良いし、今月はスピーキングを集中的に強化すると決めて、S強化のタスクだけを設定しても良い。
大切なのは、自分が今やっている勉強が何を強化するかを自覚し、その強化点を伸ばすために努力すること。強化点を自覚しているかしていないかで、進歩のスピードが違ってくる。

④ タスク以外の日々のアクティビティも必要であれば書く。

*日々のアクティビティのポイント*
「4)タスク以外」で勉強会は「日々のアクティビティ」に入れると書いたが、勉強会の準備、本番、復習等の学習事項は今やっている課題としてタスクに落とし込む。
勉強会を「日々のアクティビティ」に入れている理由は、タスク表がカレンダーをベースに作られているので、いつまでに準備をしなくてはいけないか、日程と進捗がわかりやすいからである。

「3)タスク表のルール」に従って、タスク管理を行う。全部のタスクに○がつくように日々頑張る!


ということで、今回はタスク管理にのみ焦点を当てて説明しました。
タスク表を作ることで「自分に必要なタスクの可視化」と「タスクの実施率の可視化」を行うことができ、タスクを効果的に管理していくことができます。ぜひ、やってみてください。

また、英語学習を継続するには日々のスケジュール管理も大切なのですが、それについては今後、別のトピック内で書きたいと思っています。

とりあえずこれで「通訳者の勉強方法」3部作は終わりです。
「ロード・オブ・ザ・リング」3部作(それもスペシャル・エクステンデッド・エディション版)に匹敵するくらい、と〜っても長くなってしまいました。読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

P.S.
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「通訳者の勉強方法:Part 1とPart 2」はこちらです。


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