新川帆立『元彼の遺言状』(毎日読書メモ(311))
第19回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作の新川帆立『元彼の遺言状』、宝島社から単行本が出たのが2021年1月、そして僅か9ヶ月で文庫になったので(その時点で同じ作者の第2作『倒産続きの彼女』が発売されたので、旧作は文庫で売っていこう、という方針になったのだろう)、とりあえず買ってみた。そして娘たちが先に読んで、わたしはなかなか読めないでいる間にフジテレビの月9になる。メインキャストに大泉洋が入っていて、本を読んだ娘たちは、大泉洋の立ち位置にあたるキャラが原作にはいなかった、と話していたが、読んでみて、大泉洋の役名見てなるほど脚色されたのね、という印象。
(でもドラマは見ない)
読んでの直感的感想は、複雑すぎ、ということ。これは「このミス」の特徴なんだろうか。ミステリー好きの人たちをうならせるには、こんなに複雑な仕掛けを破綻なくまとめないとダメなのかなーと。
「このミス」受賞作で読んだことのある作品を思い返すとみんなそんな感じ。海堂尊『チーム・バチスタの栄光』、中山七里『さよならドビュッシー』、岩木一麻『がん消滅の罠 完全寛解の謎』、どれも、謎をこねくり回して、思いもかけない(それは読者が想像できない=ちょっとカタルシスが得にくい)結末でえいやっと終わらせる、そんな小説(わたしが読んだ過去の受賞作で、深町秋生『果てしなき渇き』だけはちょっと風合いが違ったか)。『がん消滅の罠 完全寛解の謎』なんて、どんな話だったっけ、とネタバレサイトでストーリーをさらっても、何がなんだか、って感じ。
主人公剣持麗子のキャラは、冒頭が一番強烈で、本人のモノローグが続けば続くほど、普通の人に近づいていく。拝金主義を豪語しているんだけれど、先祖代々のお金持ちの家に育っていないからこその小ささを逆に感じる。お金は勿論あればあっただけその人を自由にするんだと思うが、逆に不自由になることも多いのでは、というのが、麗子の言動をみていると感じられる(指摘すればすぐに否定されるだろうけれど)。
この小説のキャッチコピーは、麗子の元彼が亡くなる前に書いた遺言状「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」だが、何しろ主人公麗子(そして作者の新川帆立さん自身も)は弁護士である。こんな穴のある遺言状、実効性がないことは最初からはっきりわかっているだろう。その中で、遺産の行き先を捜査しようと右往左往する人々。
死んだ栄治の一族の中での揉め事とか、会社自体が持っているトラブルの火種とか、色々な要素が作用して、最後に、この変な遺言状が本当に意図していたことがあきらかになる。そのために身を張る麗子。身を張っている時点でもはや麗子じゃないよ、って感じ。最後いい人になりすぎで、冒頭の麗子と同じ人じゃないようだ。
他の登場人物たちの性格描写も、麗子目線での描写なのでやや単調。
麗子の中で評価が上がると好意的に描かれる、みたいな感じ。
小道具として面白かったのはマルセル・モース『贈与論』。ポトラッチ(競争的贈与)、という概念も初めて学んだ。文化人類学の勉強もしてみたくなる。
初めて知ることが多かった、という意味では面白かったけれど、「このミス」はこねくり回しすぎ、という印象も深まった、そんな1冊だった。
人物造型がもっとしっかりしてくると、きっともっと面白くなる作家だろう、と期待。
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