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色々なものごとの真ん中にいることを意識している人生を垣間見る:温又柔『真ん中の子どもたち』

温又柔『真ん中の子どもたち』(集英社)を読んだ。

温又柔さん。おんゆうじゅう、とルビがついている。本の表紙にはWen Yujuと書いてある。えーと、WikipediaではWen Yourouってなってる。
1980年、台北市生まれ。3歳の時に家族と東京に引っ越し、台湾語交じりの中国語を話す両親のもとで育つ、と奥付の前のページのプロフィールに書いてある。
作者のプロフィールは作品鑑賞に必要か、と言われると本当はそうではないのかもしれないが、作者がこの作品を書こうと思ったモチベーションを知ることは、この作品の場合は結構重要かもしれない。

主人公のミーミーは、父が日本人、母が台湾人、台湾で生まれて、日本で育つ。父は中国語が流暢で、母は日本語が少し苦手。
ミーミーが上海の漢語学院に短期留学したときのルームメイトのリンリンは、父が台湾人、母が日本人。家の中では中国語を使うように教育されたので、ミーミーより中国語が上手。
漢語学院でリンリンと同じクラスになった龍舜哉は、両親とも日本に帰化した日本人で、日本育ちだが、中国語もそれなりに喋れる。

夏の上海で、中国語(でも上海語ではなく、普通話と呼ばれる、北京の言葉を標準とした標準中国語)を学ぶ日本人たち(ミーミーのクラスメートたちはビギナーだけれど、モチベーションはそれなりに高い)の姿は、断片的だけれど、夏の光の輝きが、文章の中から伝わってくる。

そしてプリミティブな恋愛のかたちが提示され(身近にいて、押しが強いのは恋愛の王道である)、その初々しさにも心を打たれた。

自分がどこに所属するのか、ということを意識せずには育ってこられなかった人たちが、それぞれの立ち位置について、語り合い、中華人民共和国、中華民国、日本、それぞれの歴史とか、言語の在り方とか、そういうことを考える。否定せず、受容する、という結論が、世界にあまねくゆきわたればいいのに、と思わずにいられない。

温又柔さんは朝日新聞の書評委員をされていて、著作を読むより前に、書評やその他の記事で名前を見ることの多かった方だが、初めて読んでみて、とても感じがよかったので、また別の作品も探して読んでみよう思う。


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