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毎日読書メモ(226)『漫画サピエンス全史 人類の誕生編』

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(上下、柴田裕之訳、河出書房新社)は読んでいないのだが、たまたま、『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、 ダヴィッド・ヴァンデルムーレン著、 ダニエル・カザナヴ著、安原和見訳、河出書房新社)を手に取る機会があったので一気読み。A4サイズ246ページの大著だが、当然、テキストとは扱える情報量が違い、『サピエンス全史』上巻に収められた第1部 認知革命、第2部 農業革命、第3部 人類の統一のうち、第1部 認知革命の部分のみを扱っている(続巻『漫画 サピエンス全史 文明の正体編』も既に刊行されている)。
『サピエンス全史』の目次のうち、漫画「人類の誕生」で取り上げている部分を引用すると
第1部 認知革命
第1章 唯一生き延びた人類種
不面目な秘密/思考力の代償/調理をする動物/兄弟たちはどうなったか?
第2章 虚構が協力を可能にした
プジョー伝説/ゲノムを迂回する/歴史と生物学
第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
原初の豊かな社会/口を利く死者の霊/平和か戦争か?/沈黙の帳
第4章 史上最も危険な種
告発のとおり有罪/オオナマケモノの最期/ノアの方舟
となっている。原典を読んでいないため、どの程度忠実に原文の主張を再現しているかはわからないが、エッセンスの部分を伝えることに成功しているのではないかと思う。
外国人の描いた漫画なので、風合いが普段読み慣れている日本のコミックとは違う。アメコミとも違うんだけど、どっちかというとそちらに近い印象。歴史的な部分の描写はざらっとしていて、狂言回しとなるユヴァル・ノア・ハラリと、姪のゾーイと、生物学者サラワスティ先生はシンプルな線でのっけられている感じ。

歴史、というか人類学的な部分から始まっているので、あんまり考えたことのない要素がてんこ盛り。歴史が物理学で語られた時代(ビッグバン~)、化学で語られた時代(原子や分子の誕生)~生物学の時代(生物の発生)と来て、人類が文明を興して、歴史学で語られる時代が来る。これが約7万年前。ハラリが「認知革命。物語の発生。歴史の始まり。サピエンスがアフリカの外へ進出」と言っている時代だ。
ヒト以外の生物は色んな種がいるのに、ヒトはホモ・サピエンスしかいない。今はホモ・サピエンスしかいないが、昔は6種位いた。ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)は知っていたけど(そうだ、昔『大地の子エイラ』という小説を読んだよ、ネアンデルタール人とクロマニヨン人が共存していた時代の物語だ)、それ以外にもホモ・エレクトス(これも歴史の教科書に出てくるね)、ホモ・ルゾネンシス(フィリピンにいた)、ホモ・デニソワ(シベリアにいた)、ホモ・フローレシエンシス(インドネシアにいた。身体が小さい)、そしてホモ・サピエンス。種が違っても若干の交雑はあったので(進化の結果完全に違う種になる以前の時期に)、現在のホモ・サピエンスの遺伝子にも、ネアンデルタール人などのDNAが若干は混じっているが、種として存続したのはサピエンスだけだった。
アフリカに発したサピエンスは一度アフリカから出たときには他の人類との戦いにかなわなかったのが、7万年前、二度目のアフリカ脱出時には圧倒的な力をもって、他の人類を地球上から駆逐してしまった(単純な戦争とかではないので、何千年何万年もかけて徐々にだけど)。最初は巨大な肉食獣に敵わなかったサピエンスが食物連鎖の頂点に立つのは、コミュニケーション能力の発達(それも、親族でない、見知らぬ人と情報を共有し、ともに行動する力を持てたこと)、そして物語を作ることが出来るようになったことが大きい。共通の神話を信じる力を得たことでサピエンスは共同して同じ目標に進むことが出来るようになった。宗教も、企業の利益追求も、手に取ってみることの出来ない幻想を信じ、それを実現しようとする力によって推進される。

サピエンスは協力しあうのが得意なんだ
特異なコミュニケーション能力を持ってるからね。ライオンや人間の話だけじゃなく、架空のライオン人間の話をこしらえることさえできるこれはみんな、特殊な認知能力、つまり創作や記憶や学習やコミュニケーションの能力のおかげなんだよ
この認知能力が登場したのは7万年ほど前で、これを「認知革命」って言ってる
それ以来、サピエンスは二重の現実を生きてるんだ
(中略)
言葉を紡いで想像上の現実を生み出す能力のおかげで、人間は大勢の他人と協力してやっていける

『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』pp102-103

家族論とかアニミズムと古代の祭祀とか、文字の残っていない時代のサピエンスが何を考え、何を信じ、どのように共同していたかは、明白なエビデンスのないことで、残された遺跡や化石などを研究しても、推察以上に踏み込むことは出来ない。しかし、この本の中でハラリが様々な学者との対話を通じて、様々な可能性を提示している論点はどれも興味深い。歴史観が広がる、というか、この本の中ではまだ文明と呼べるところまでも到達していないので、この先の歩みの長さに圧倒される。狩猟採集民の知性の高さ、ワークライフバランスについても思いをはせる。

この本の最後の章で、サピエンスは虐殺者か、という裁判の形式をとった論考がなされる。サピエンスはアフリカに発し、ヨーロッパ~アジアと進み、海を渡ってオーストラリアへ(約5万年前)、シベリア方面から海を渡ってアメリカ大陸に達するが(約1万6千年前)、オーストラリアとアメリカでは大型動物相が絶滅する。これはサピエンスの仕業なのか? 氷河期が理由ということはないのか?
アフリカやアジアでは大型動物は残っているではないか、という反論もありうる。
サピエンスの進化の過程で、サピエンスは徐々に食物連鎖の頂点に達した。アフリカの動物たちは徐々に殺戮能力をあげていったサピエンスに対し警戒心を持ち、対抗したり逃げたりする能力を自分の種の進化の中で身につけていった。それに対し、新大陸に到達したサピエンスは高い殺戮能力を持った状態で、無防備な動物たちと相対しているため、大型動物たちはサピエンスの知恵と力に敵わず、警戒心が遺伝子に刷り込まれる前に徐々に滅びていったのである、というのがこの本の付けた結末。19世紀のモーリシャスでドードーが絶滅したようなスピードでは勿論なく、人間の歴史の単位では測りにくい長い時間を要してはいるが、早回しすれば、サピエンスの到達により動物たちが絶滅していったのは間違いないようである。

読みながら頭のなかでへぇボタンを押し続ける(古いね)、そんな読書だった。原典も読みたくなった。

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大昔に読んだが、これも面白かったよ!

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