岸政彦『図書室』から派生して、小松左京へ。小松左京のSF魂はんぱねぇ。

昨年末、岸政彦『図書室』(新潮社)を読んだときに、一緒に収められていた「給水塔」という自伝的エッセイの中で小松左京の「少女を憎む」という短篇について触れていて、なんだか気になったので、図書館で、この短編が収められている本を借りてみた。ジャストシステムから刊行されている「小松左京コレクション」という全集の『4 短編小説集II 結晶星団/飢えなかった男 他』。ジャストシステムが出版事業をしているのも知らなかったよ。1995年刊行。
で、読み出してみて、打ちのめされた。読むきっかけとなった「少女を憎む」だけちょっと風合いが違ったが、残りの作品はすべて、バリバリのSFであった。読んでいて血沸き肉躍った。すげーよ。最初の「結晶星団」はバリバリのスペースオペラ。初出は「SFマガジン臨時増刊号」だしさもありなん。「氷の下の暗い顔」は「野生時代」、「飢えなかった男」は「問題小説」、「生きている穴」は「推理ストーリー」、「凶暴な口」は「ミステリマガジン」、「岬にて」は「野生時代」、「お糸」は「SFマガジン」、「とりなおし」は「SFアドベンチャー」、「大坂夢の陣」は「オール読物」、「写真の女」は「小説サンデー毎日」、「少女を憎む」は「別冊文藝春秋」、「オルガ」は「オール読物」、と、SF誌、ミステリ誌、中間小説誌、と初出は色々だが、どれもSFだった。読んでいて泣けた。SF者だった自分を久々に思い出した。ご無沙汰していてごめん、と頭が下がった。
Wikipedia見ると、「星新一・筒井康隆と共に「SF御三家」と呼ばれ」と書いてある。星新一は、中学生の時の家庭教師(芝浦工大の数学科に行っていた大学生で、星新一以外の本は殆ど読んでない人だった)から当時刊行されていた本をあらかた借りて読んだ。SF入門編だね。そして、そのちょっとあと位に筒井康隆に耽溺、中学や高校の定期試験の前日に麻薬のように筒井康隆に手を出している自分に嫌気がさして、七瀬シリーズ以外の筒井本をすべて捨てたりしたこともあったが、勿論筒井康隆は今でもわたしの読書ライフの通奏低音。それに対し、小松左京は、やや通俗に過ぎる印象が当時既にあって、なんだか手が出ず、まともに読んだのは『さよならジュピター』、『首都消失』位ではないか。『日本沈没』は読んでいないが筒井康隆の「日本以外全部沈没」は読んでるよ、みたいな。
でも、どこを切ってもSF、わたしが一番SFに馴染んでいた時代のSFそのもの、スペースオペラ、生物学系SF、タイムトリップもの、どれもどれも読んでいて愛おしい。いつだって、すぐそこにあるのに、自分だけ勝手に遠ざかっていたのかしらん、と思えた。今から眉村卓とか高千穂遥とか、そういうところを読み進めたっていいんじゃん、と、今回小松左京を読んでみて思ったなり。
そして、今回の読書のきっかけとなった「少女を憎む」、これは、自己意識強すぎ男子が初めて出会った女子との出会いを、年を取ってから打ち砕かれる経験をして、その結果として年若い女子を憎みたくなったというのがネタバレとなる物語だが、その前提は、戦後すぐの生きるだけで死に物狂いの時代の世相にあり、終戦時14歳だった小松左京がどんな闇を見つめて成長したか、ということを考えさせられる作品であった。わたしの父とほぼ同世代の小松左京が、何故ここまでの描写をするに至ったか、と考えてしまうと、未熟な作家論になってしまいそうなので、突き詰めないようにしておく。
ワープ航法とか、未来の人間の生物的進化とか、過去にタイムトリップした人間の歴史改変パラドックスとか、色々な事項について、当時の最新知識を駆使してきちんと考察されていて、特に「とりなおし」「大坂夢の陣」のシリーズで扱っている、タイムトリップで歴史上の有名な事件の現場にテレビクルーを送って、戦争や事件の生中継を行うテレビクルーの物語については、撮影方法、編集方法なども含め、予想以上に古びていなくてちゃんと2020年の現実に寄り添った描写になっていて、小松左京の博覧強記ぶりに頭が下がる。
ありがとう小松左京。この世の中にはまだ読み残している本が沢山あると教えて貰えて、岸政彦にも感謝。
岸政彦『図書室』は、中編小説「図書室」で、中年女性が自分の子ども時代に通った図書室とそこで出会った少年の思い出を語る。静かな小説だが、妙に説得力があり、自分がその少女または少年になっていたかも、と思わせられる。そして、何故、小説のカップリングが自伝的エッセイだったのか、編集の都合がよくわからないが、「給水塔」では、作者岸政彦が名古屋に生まれ育って、大阪の大学に進学した経緯と、大阪での暮らしを地名に紐づけて語っている。作者が自分と同世代であるということもあり、バブル時代の振り返りについては、共感するところがあり、若い人の感想で散見されたみたいな拒否反応は全くなく、興味深く読めた。
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