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毎日読書メモ(111)門井慶喜の美術探偵・神永美有シリーズ

宮沢賢治を、父の視点から描いた『銀河鉄道の父』で直木賞をとった門井慶喜、近年は史実に題材をとって大胆に解釈した小説が多いが(『銀河鉄道の父』もそうだったし、『家康、江戸を建てる』とかもすごく面白かった)、初期は美術館や図書館をテーマにした小説が多かった。そんな中、シリーズ展開されていたのが、美術探偵・神永美有シリーズ。やや若書きでこなれていない感じの部分もあったが、題材の取り方が独特で、唯一無二の作風、立ち過ぎたキャラに笑いながら読んだ。もどかしい気持ちになる読後感だったが、その後、ぐんぐん完成度をあげていったのに驚かされた。今、神永美有シリーズの続きを書いたらどんな作品になるだろう、とちょっと期待してしまう。

『銀河鉄道の父』の感想はこちら

神永美有シリーズはこの3冊。それぞれの感想も。

『天才たちの値段』(2006年9月 文藝春秋 / 2010年2月 文春文庫)
収録作品:天才たちの値段 / 紙の上の島 / 早朝ねはん / 論点はフェルメール / 遺言の色

図書館・美術館ものに強い門井慶喜の神永美有シリーズを読んでみる。本物を見ると舌に甘みを感じる、という謎の天才神永美有と、語り手の佐々木先生の付かず離れずの不思議な関係。どのエピソードも落としどころが中途半端でややモヤるのだが、「本物」というのは、芸術作品の真贋だけではない、という視点が面白い。神永も佐々木も変な人だが、エキセントリックに変なイヴォンヌが、必要以上に場を引っかき回す。素材は面白いが、物語の詰めの甘さがちょっと気になる。(2016年2月)


『天才までの距離』(2009年12月 文藝春秋 / 2012年8月 文春文庫)
収録作品:天才までの距離 / 文庫本今昔 / マリーさんの時計 / どちらが属国 / レンブラント光線

神永美有シリーズ2。佐々木は京都の大学に移り、神永と会う機会が減る。貧乏研究者が、収入謎な美術コンサルタントが、どうやってお互いに会う機会を作るかの面白さ。平福百穂の切り絵の謎解きはちょっと強引過ぎ? 神永の天才性は伝わるが、ミステリーとしては、やや強引であれあれ、という話が多いかな。とりあえず続けて読んでみます。(2016年2月)


『注文の多い美術館』(2014年11月 文藝春秋 / 2017年8月 文春文庫)
収録作品:流星刀、五稜郭にあり / 銀印も出土した / モザイクで、やーらしい / 汽車とアスパラガス / B級偉人 / 春のもみじ秋のさくら

相変わらず頼りない佐々木先生、そして舌だけでそんなに美術コンサルとして出世できるのか謎な神永美有、引っかき回すだけのためにいるイヴォンヌ。何かかみ合ってない3人組で、銀印だの、榎本武揚から貰った刀だの、北極星のモザイクだの、ペリーの蒸気機関車だの、美術品損壊ぎりぎりというか一線越えちゃってる乱暴なみちゆき。素材の見つけ方は面白いけれど、色々な無理や人間関係のたどたどしさにイライラする部分も。(2016年5月)

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