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毎日読書メモ(80)『坂の上のグミ屋敷』(岡野薫子)

2006年の日記を読み返していたら、図書館で岡野薫子『坂の上のグミ屋敷』(岩波書店)を借りてきて読んだときのことが書いてあった。これはもはや図書館で読むか、古書店で探すしかない本なのだろうな。いい本だったので、残念。

『坂の上のグミ屋敷』岡野薫子・岩波書店。1972年に刊行された児童書。わたしはどうやら刊行直後に母に買ってもらったらしい。特定の地名として出てくるのは目黒川、東横線など。作者のあとがきに、昔住んでいた大田区に行ってみた、と書いてあるのと、国電の駅もそんなには遠くないように書かれているのとで、具体的にどの辺かまではわからないが、城南の、下町とお屋敷街が共存した地域の物語らしい。
大きな木の生い茂る広い土地におじいさんとおばあさんが暮らしていて、おばあさんの死後、そこにマンションが建てられる。高度経済成長の時代に、古いものが喪われつつある郷愁、新しいものへの期待、それを坂の上のグミ屋敷が象徴している物語。30年以上前に既に作者は町の大きな変容に驚き、寂しさを感じていた訳で、世紀をまたいだ今、物語の中の子ども達はどのような大人になり、当時のことをどのように覚えているんだろう、と、思いを馳せてみたりする。
子ども達がおじいさんおばあさんと親しくなって、緑豊かな庭で思い思いに遊ぶ夏の話は、今読んでもワクワクする。ケヤキとかタイサンボクといった木の名前も、この本で知った記憶がある。
開発に対する違和感を描きつつ、でも一方的に否定している訳でもなく、時代の変容を、不本意ながら受け入れて、生きていく、そんな物語。
この本は当時は色んな図書館で読まれていたようで、図書館のコンピュータで見たら、各区に1冊ずつくらいは在庫があった。貸し出しカードのポケットの残った本が、リクエスト出したらすぐやってきたが、この先この本は何人くらいの人の手にとられるんだろう、とちょっと淋しくなったりもする。

(2006年6月の日記より)

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