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毎日読書メモ(180)『凍』(沢木耕太郎)

今日のNHK「ニュースウォッチ9」で山野井泰史さんのインタビューが放映されていた。今年、ピオレドール生涯功労賞というフランスの賞を受賞した、というのを何日か前の報道で聞いていたが、それにちなんでのインタビュー。

この記事によると、「生涯功労賞(The Lifetime Achievement)とは、長年にわたりアルパインクライミング界で目覚ましい活躍を見せ、その業績が後世のアルピニストたちに多大な影響を与えた人に対して贈られる」ということで、山野井さんが13人目の受賞者。

功績の一部として「2002年のギャチュン・カン北壁登攀後に悪天候につかまり、一時的に視界を失い、雪崩に流されながらも生還」と紹介されているが、このギャチュン・カン登攀について、山野井泰史・妙子夫妻から話を聞いて書かれたのが、沢木耕太郎『凍』(新潮社、現在は新潮文庫)である。

読書メーターの記録を遡ってみたら、2009年1月に読了しているという記録は残っていたが、感想が書かれていなかった。しかし、ハイキングに毛が生えた程度の登山しかしたことのないわたしには想像を絶する、厳しく、しかしやむにやまれぬ憧れを抱く世界があることを知り、大きな衝撃を受けたことは忘れられない。

あんまりこの部分を強調するのもなんだとは思うが、夫婦で挑んだギュチャン・カン(『凍』ではなかぐろなしのギュチャンカン)で、下山中、嵐と雪崩に巻き込まれ、重度の凍傷により、泰史は両手の薬指と小指、右足の全ての指ほか計10本を切断している。妙子に至っては結婚前に別の登山で手の指を第二関節から十本すべてと、足の指を八本失っているが、その状態でギュチャンカンにも挑んでいる(妙子は山頂には到達していないが)。『凍』では、彼らの日本の家での生活の様子も描かれていて、山に行くための費用を稼ぐためのアルバイトのこととか、指先がない状態で家事でもなんでもこなしている様子などが描かれている。そして、残った指と手のひらで、彼らはその後もずっと新たな登山に挑み続けている。

こんなことが出来るのか、という驚き。緻密な計画、少しでも持ち物を軽くし、かつ確実に帰ってこられることを考え、装備を整える。無謀ではない無謀。

今、山野井夫妻について検索していて見つけた記事では

若い頃、山野井泰史はあまりにも挑戦的すぎるので、「お前は危ない。もう少しステップを踏め」と忠告されたそうです。しかし、しばらくすると、誰にも言われなくなったそうです。実力を認められたというより、「そもそも、僕が行っているルートが危ないかどうか、わかる人が日本にいなくなった」のだそうです。

と紹介されていた。どのエピソードもどのエピソードも想像を絶する。と共に、生きることは挑戦することである、と言っているような山野井夫妻のたたずまいに圧倒され、感動する。

ギュチャン・カン登攀については、山野井さん自身も『垂直の記憶』(ヤマケイ文庫)という本を書かれているようで、未読だけれど、将来の読書リストかつ自分への備忘として書誌情報を貼っておく。


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