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毎日読書メモ(194)原点に帰ってみると、何もかもが新しい! 『挑発する少女小説』(斎藤美奈子)

トップ画像は、本の帯の一部(新書なので、表紙自体は白地にタイトルが書いてあるだけでそんなに面白くない)。「赤毛のアン」の横顔に「子どもだから、女だからって、見くびらないで!」と大書されており、下の方に「若草物語、赤毛のアン、あしながおじさんー大人になって読む少女小説は、発見に満ちている」と書かれている。

斎藤美奈子『挑発する少女小説』(河出新書)は6月に発売された新書本だが、本屋の新書売り場で、河出新書を殆ど見かけないため、ネットで注文して購入。買ってしまった本は、いつでも読めると思って、順番が後回しになりがちで、結局半年位寝かしてしまったが、読んでみたら、読みながら、うんうんうんうんと膝を打ちまくる面白さ。

挑発する少女小説、というタイトルだが、小説が挑発しているのではなく、読んだ斎藤さんが挑発している、そういう本だった。元々フェミニズム寄りの論考をする方だし、半世紀~1世紀位昔の小説の中で女性の自立がどう扱われるか、という論考は、興味深いと共に、歴史の中で抹殺されてきた部分に斎藤さんが光を当てなかったら、気づかずにきた読者が多かったのではないかと思う。

この本の中の「少女小説」の定義は、「現実の社会に生きる一〇歳未満、ないし一〇代の少女が主人公のリアリズム小説です」。ファンタジー的要素、超常現象が狂言回しとなる作品は含まれない。文学史的には「家庭小説」と呼ばれるジャンルで、家庭を主な活動の場とし、将来的にも家庭人となることを期待された少女のためのジャンルとして発展したもの。日本人作家の手になる少女小説もあまたあるが、時代性を反映するものが多く、欧米の作品のように何十年も息長く読まれる普遍性がないため、この本では翻訳小説だけを取り扱っている。
取り扱われた小説の多くが持つ特徴は、
(1)主人公はみな「おてんば」な少女である。
(2)主人公の多くは「みなしご」である。
(3)友情(同性愛)が恋愛(異性愛)を凌駕する世界である。
(4)少女期からの「卒業」が仕込まれている。

そして、取り扱われた作品について、作者が見つけたテーマがあとがきに書かれているのでややネタバレとなるが紹介すると、

シンデレラ物語を脱構築する『小公女』
異性愛至上主義に抵抗する『若草物語』
出稼ぎ少女に希望を与える『ハイジ』
生存をかけた就活小説だった『赤毛のアン』
社会変革への意思を秘めた『あしながおじさん』
肉体労働を通じて少女が少年を救う『秘密の花園』
父母の抑圧をラストで破る『大草原の小さな家』シリーズ
正攻法の冒険小説だった『ふたりのロッテ』
世界一強い女の子の孤独を描いた『長くつ下のピッピ』

p.265

驚くべきことに、全部読んでいた。わたしの血となり、肉となっている。記憶が曖昧なのは『小公女』『若草物語』あたり(名作全集みたいなもので読んだのだろう)、『ハイジ』も大昔に読んだが、ダイジェスト版ではなく、児童文学全集のしっかりしたやつで読んだ記憶がある。『長くつ下のピッピ』はヘビロテしたし、『大草原の小さな』家シリーズもしかり(ドラマも少しは見たが、意外とはまらず。活字で読んだものを映像で見るのが昔から苦手だった)。『赤毛のアン』『あしながおじさん』は高校~大学時代に何回も読んだので、記憶が鮮明。そして『ふたりのロッテ』は短いけどここに感想。『秘密の花園』は、金井美恵子『噂の娘』を読んだときに派生的に読んだ(ここ)。
それぞれの登場人物への突っ込みが可笑しい。そして今日的な目で見ると、色々な社会問題をはらんでいることも改めてわかる。『ハイジ』のペーターはADHDであるとか、『秘密の花園』のメリーは二グレクト(育児放棄)されていたとか、『大草原の小さな家』のローラはヤングケアラーだったとか。『ハイジ』はビルドゥングス・ロマンだったとか、『ふたりのロッテ』がいつの時代の物語だったかがわからない、とか、Tipsも興味深い。少女小説で男性が及ぼす影響は最低限である、という仕掛けの都合で退場させられる父親たち。友情(同性愛)が恋愛(異性愛)を凌駕する世界である、という定義通り、恋愛は殆ど描かれない(『赤毛のアン』も『若草物語』も結婚が絡むのは、本編ではなく続編。ヒロインの年齢がちょっと高めだった『あしながおじさん』はちょっと例外的。『あしながおじさん』は「マイ・フェア・レディ」でした)。

自分の構成要素の一部となっている少女小説について、改めて考えてみることは大変興味深いことだった。本書の中ではそれぞれの小説の作者についても取り上げられていて、その人が生きた時代についても改めて考えさせられた。たぶん今後、取り上げられた作品の再読などもするだろうな、と思う。そこには新しい光が射していることだろう。

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