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四姉妹ものってなんで愉しいのか:藤谷治『睦家四姉妹図』(筑摩書房)

久しぶりに藤谷治の小説を読んだ。『睦家四姉妹図』(筑摩書房)。久しぶり、というか、『船に乗れ!』(ジャイブ)以来だった、十年以上ぶり?
何かが心の琴線に触れ、読まなくちゃ、と思った。タイトルにずばり四姉妹、って入っているから? 四姉妹ものって何か惹かれる。

まずは王道のオールコット『若草物語』、あまりに昔過ぎて、ストーリーのダイジェストしか覚えていない。メグ、ジョー、ベス、エイミー。なんといっても際立つジョーのキャラ。
そして日本の王道は谷崎潤一郎『細雪』。原作もめっちゃ面白いし、1983年の市川崑の映画もよかった。
映画繋がりだと大林宣彦の「姉妹坂」(原作の漫画は未読)。「細雪」が1983年で「姉妹坂」が1985年。四姉妹の時代だった?
最近だと「海街diary」なんだろうけれど、原作も読んでないし映画も未見。

最近の小説だと三浦しをん『あの家に暮らす四人の女』(中央公論新社)、あ、これは『細雪』へのオマージュだけど、四姉妹ものではない。
それよりは金井美恵子『恋愛太平記』(集英社)か。四姉妹があまりに饒舌に語りすぎて、読んでいてくらくらしてくるけれど。

四姉妹で検索すると、五木寛之『四季・奈津子』とか出てきて、これも懐かしい。
新潮社のサイトに三姉妹・四姉妹小説のまとめページがあり、なかにし礼『てるてる坊主の照子さん』とか出ている。未読だけれど、朝ドラ『てるてる家族』は結構見た。石原さとみより、上野樹里より、錦戸亮がなつかしい、てるてる家族。

と、四姉妹小説の愉しさの延長として、藤谷治『睦家四姉妹図』を手に取る。
四姉妹小説であると同時に、これは定点観測小説であった。
母八重子が1月2日生まれなので、元旦でなく、1月2日が家族の集合日、ということで、父母と4人の娘、そして娘の家族たちが毎年1月2日に集まり、記念写真を撮る。
装丁のながしまひろみが、物語の冒頭の1988年1月2日の家族写真を扉に描いていて、第1章はそのイラストと本文の人物紹介をめくりながら確認して読む。第2章以降の家族写真は、章の冒頭に説明があるだけで実際のイラストはないが、登場人物の年齢や苗字などを確認しながら、それぞれの境遇に思いを馳せる。

四姉妹の二女がどうやらわたしと同い年らしく、世代感がすごく近くて、しかも彼女らが集う実家は横浜市戸塚区原宿、土地勘がある程度ある場所。横浜ドリームランドの近くで、本文中にも言及があり、読みながら、地図を拡大したり縮小したりして周囲の地理を再確認したり、ドリームランドのWikipediaを読んだり。姉妹の会話の中に出てくる、ドリームランドの潜水艦、うん、わたしも乗ったことあるよ!

何年かおきの1月2日の様相を、姉妹誰かのモノローグでつなぐが、主な語り手は早くに家を出た長女貞子。総領の甚六じゃないけど、なんとなくあてにされない、役立たずの第一子、という家庭内の位置づけで、すこし引いた場所から家族の様子を見ている。
子どもが4人いる、というのは小さな社会的なものが形成されているイメージで、誰かと誰かが仲良し、とか誰かと誰かが反目し合っているとかそんなものかと思っていたが(自分自身も2人きょうだい、子どもも2人きょうだいなので、子どもが沢山いる生活、というのがあまりイメージできない)、両親も含め家族みな淡白な印象。但し、数年に一度の1月2日の様子しか描かれていないので、その間にどのような人間関係が構築されていたのかは、実はよくわからない。
そんな中、描かれている1月2日の前年に起きた大きな社会的事件と睦家の人々との関わりが語られる。
それはわたしが生きてきた時代の記憶とも絡む。例えば寅さん、昭和天皇の御不例、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン、バブル、ウィンドウズ95、ノストラダムスの大予言、9.11、東日本大震災。それぞれと自分との関わり、睦家との関わり。

点をたどっている間に、子どもたちは成長していく。家族の形態も変わる。タイムマシンに乗って、一気に三十数年を旅したような読了感。最終章で、両親の老いを一気に感じ、ちょっと泣く。過ぎゆく三十数年と、その中の四姉妹、その一つ一つの時代の説明が、この物語の主役だった。
同時代であるが、あまりわたしと似ていない睦家の四人の娘たち、それぞれにシンパシーとはちょっと違う親しみを感じつつ、これからやってくる時代を考える。
定点観測小説の豊穣さを感じる同時代の小説だった。


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