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毎日読書メモ(125)『家族最初の日』(植本一子)

久々に植本一子の日記を読む。最初に読んだのが『かなわない』、時系列で『家族最後の日』、少し間があいて『降伏の記録』、合間に写真集『フェルメール』(ナナロク社ブルーシープ)を読んだりしたが、日記はほぼ2年ぶり、というか、『家族最初の日』(ちくま文庫)は、『働けECD わたしの育児混沌記』というタイトルでミュージックマガジン社から出ていた日記を文庫化にあたって改題したもの。2010年2月から2011年4月にかけての日記で、この後に『かなわない』→『家族最後の日』→『降伏の記録』と続く、家族初期の記録。長女1歳半で、次女が生まれる時期の日記で、その間に東日本大震災とフクイチの事故があった。続く『かなわない』では、夫の石田さん(ECD)が反原発デモに行くエピソードが多く書かれていたのを思い出した。そして、毎日の夫婦の買い物の記録が緻密に採録されている。

支出は緻密に記録されているが、収入が書かれていないため、どうやって、その家賃や光熱費、様々な支出が支えられているのか、たぶん意識的に曖昧にされている。手当とか補助とかを調べ、遡って確定申告して、収入の不足を補おうとする。石田さんがコンビニで飲み物買ったり、毎日のようにのど飴買ったりすることに目くじらを立て、スーパーで一人1パック限定の特売の卵が出ると、赤ん坊まで含め、家族4人で4パックの卵を買ってきたりするが、石田さんは毎日のようにCDやレコードを買っているし(そして、金欠になると売りに行く)、本人はどうしても欲しいと思った服や靴をデパートで買ってきたりする。その矛盾した金銭感覚が妙に人間臭い。

そして、情緒不安定になって家族にあたる作者、それを受け止める石田さん。最初に『かなわない』を読んだときには、PMSでもなく、絶えずイライラの波をかぶり、家族に当たっては自己嫌悪になっている作者のメンタルに驚いたり怖くなったりしたが、あらためて、家族初期の日記に戻ってきて(また、読んでから2年たってある意味昇華された、自分の心境の変化もあるのかな、と思う)、自らの状態に自覚的で、それが受容されるのであれば、家族はそれで回っていくのだ、とわかった気がした。うーん、将来的に娘たちがどう感じるかは、彼女たちの別の物語、と思えば、ってことになるけれど。そして、2018年に石田さんが亡くなっているので、そこでまた否応なしに家族関係は大きな転換点を迎えているだろう。

彼女自身の人間的な魅力は、日々の日記の素直な感情の吐露にも、また彼女が撮っている写真とか、彼女が交流を持つ友達との響き合いの中にもあるのだろう。読めば読むほど不思議な人。彼女と娘たちに幸あれ、と願う。世界を駆け足で回ってみたフェルメールの作品の数々の写真の中にもフェルメール自身とは違う光が射していた。力、を思う。


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