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三崎亜記『チェーン・ピープル』(毎日読書メモ(383))

三崎亜記の小説がとても好きだ。超現実的、というか、現実から一歩ずれたところにある不思議な世界を描くことに巧み。デビュー作『となり町戦争』から、現実生活の少し先にある戦争に、少しだけ従事するという不思議な世界を描いていて、これは何だろう、と思っていたのだが、作品を読み進めるうちにどんどんはまった。掃除部の活動を活写する『コロヨシ!!』シリーズの新作も早く読みたい。

うっかり読み落としていた『チェーン・ピープル』(幻冬舎、のち幻冬舎文庫)を読んだ。ルポライターの男性の一人称で「正義の味方ー塗り替えられた『像』」、「似叙伝ー人の願いの境界線」「チェーン・ピープルー画一化された『個性』」、「ナナツコクー記憶の地図の彼方」、「ぬまっチー裸の道化師」、「応援ー『頑張れ!』の呪縛」の6つのエピソード。auの電子書籍ストアで電子書籍として配信されていたのが初出らしいが、何故か「ナナツコク」だけは前に読んだ記憶がある。

正義の味方、はかつて、異世界からやってきた怪獣と戦って倒してくれた「正義の味方」をみんなが忘れてしまっている未来の話。何故、怪獣が人間を襲おうとした瞬間に「正義の味方」は現れるのか、わたしもかつて、〇ルトラマンシリーズを見ていて不思議に思ったことがあった。最初は歓迎されていた「正義の味方」は、戦ったことで壊された施設の改修にかかる経費が、怪獣が及ぼした被害より大きいことが試算され、だんだん人々の支持を受けられなくなっていき、裁判(被告欠席)で有罪とされ、姿を消す。
「正義の味方」に妻を踏みつぶされ、息子の腕もつぶされてしまった人が書いた自叙伝を読んだのをきっかけに、語り手は地方図書館で市井の人が自費出版した自叙伝を色々読むようになり、何故か自分の死に方、死後の送られ方まで書かれた自叙伝を発見する。たどり着いた編集者は、依頼者のリクエストに応じ、その人がそうありたいと思った人生を描く似叙伝を書く人だった。
フランチャイズのチェーン店のように、テンプレート化された「平田昌三」という人格をなぞって生きることを選んだチェーン・ピープルがいることを知った語り手は、何人かのチェーン・ピープルから話を聞く。死んでしまって自分の人格がすべて消えてしまうより、平田昌三という人格の中に自分の生き方が承継されることはある意味幸せなのではないか?、という問い。
母から子へと口述のみで引き継がれるナナツコクという地図にない国、時折訪れる使者からの連絡で、地図はときどき書き換えられながら、どこにもない場所でずっと引き継がれてきたナナツコクは伝承者の反乱によりついえるのか? 生き延びるのか?
某自治体非公認ゆるキャラと公認ゆるキャラの対決、といえば多くの人が思い浮かべるであろうあの梨の妖精。ぬまっチはコンセプト的にはあの梨の妖精に似ているが、実際は、冴えない中年男性が何も仮装せず本音トークを繰り広げつつぬまっチとして、「中の人はいません」と断言している。怒り狂った市長が広告代理店の肝いりで創出した市公認ゆるキャラはぬまっチに完敗。ぬまっチの放言を聞いては怒り狂って反論する市長を見て、語り手はその奥にある策謀を感じる。ぬまっチの中の人はいないけれど、じゃあぬまっチは裸の王様なのか?
最後の「応援」がすごく怖い。ネット民の圧倒的な支持で持ち上げられ、総すかんで姿を消す人気俳優。何を言っても、何を支持しても否定しても、額面通りにうけとってくれないネット民との不毛な対峙が、それは明日の自分かもしれないという恐怖とともに身に迫る。

現実世界から一歩ずれた場所の現実にぞわぞわする。責める人も、責められる人も、明日の自分かもしれない。
語り手の冷静さが際立ち、でも、この人は「神」でもないのだ、と思う無力感。

その世界の切り取り方の独自性と恐ろしさは、実際に読んで貰わないと伝わらない。個人的なお勧めは『バスジャック』『失われた町』『廃墟建築士』(いずれも集英社文庫)辺りかな。ちょっと風合いが違う『コロヨシ!!』(角川文庫)も是非。

noteにあげてある三崎亜記作品の感想:逆回りのお散歩 30センチの冒険

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