見出し画像

毎日読書メモ(186)『壊れた魂』(アキラ・ミズバヤシ)、すべての弦楽器奏者に捧ぐ

朝日新聞の書評欄で見て、気になった、アキラ・ミズバヤシ『壊れた魂』(水林章訳・みすず書房)を読んだ。実に味わい深い小説だった。弦楽器奏者の方に特にお勧めしたい。
犬塚元による書評はこちら。

魂(Âme)は、「たましい」と、弦楽器の中に立てられている魂柱をかけている。1938年、軍隊に連行され二度と戻ってこなかった父水澤悠。兵隊に踏みつぶされたヴァイオリンを復元することをライフワークとした、息子水澤礼。父が捕まったとき、中国人のアマチュア演奏家たちと練習していたシューベルトのロザムンデ、乗り込んできた兵隊たちの中、ただ一人彼らの音楽に耳を傾けてくれたクロカミ中尉の前で、悠が弾いたバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第三番「ガヴォット・アン・ロンド」。
フランスに渡り、ヴァイオリン職人となった悠、弓職人のエレーヌとの出逢い、そして、クロカミ中尉由縁の日本人演奏家との縁により、父の楽器は再生する。父の連行時にセカンドヴァイオリンを弾いていた中国人女性との再会シーンや、コンサートの光景を読んで、涙する。
フランス文学者である水林章が、フランス語で発表した小説を、自分自身で翻訳。第一次世界大戦休戦記念日をテーマとしたアンソロジー作品がフランスで編まれた際、執筆中にふっと浮かんだ構想をもとにした小説で、フランス語で書く以外の選択肢はなかったとのことだが、自ら翻訳していても、元々日本語で書かれた文章とはちょっと風合いの違う、翻訳調の文章になるところが不思議。文章は音楽の光景を美しく再現しつつ、耽美に過ぎず、平明で読みやすい。
吉野源三郎『君たちはどう生きるか』、少年に寄りそう柴犬モモ、フランスの弦楽器製作の中心都市だったミルクール、ヴィヨームという19世紀フランスの楽器製作者、弦楽四重奏の練習シーンで、奏者たちが音楽を言語化している様子も美しい。
よいものを読みました。

#読書 #読書感想文 #アキラ・ミズバヤシ #壊れた魂 #水林章 #みすず書房 #ヴァイオリン #ロザムンデ #シューベルト #ガヴォット・アン・ロンド #バッハ #君たちはどう生きるか

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?