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Q SNSで誹謗中傷された場合に投稿者を特定するまでの流れを教えてください。

A ①ログイン時のIPアドレス等の開示を受けて特定するルートと、②電話番号の開示を受けて特定するルートがあります。両方を併用すると良いでしょう。

解説いたします!

図解
      →IPアドレスの開示→APに対する開示請求→投稿者特定
SNS事業者
      →電話番号の開示→弁護士会照会→投稿者特定

1 代表的なSNS
代表的なSNSとしては、X(旧ツイッター)、インスタグラム、フェイスブックなどが挙げられます。

2 SNSの多くは「ログイン型」
SNSの多くは、アカウントにログインした際の記録は保存されているものの、誹謗中傷を行った際の記録は保存されていません。こうしたタイプのコンテンツは、「ログイン型」と呼ばれます。
こうした「ログイン型」のサイトの場合、誹謗中傷を行った際の記録は保存されていないため、この際の記録から投稿者を特定することはできませんので、ログインを行った際の記録から投稿者をたどっていくことになります。法改正前は、プロバイダ責任制限法の制定時はこうした「ログイン型」のサイトが想定されておらず、法律上、ログイン情報が開示の対象となるのかが明記されていなかったため、そもそもログイン情報が開示の対象になるのか、対象になるとして、どの範囲で開示の対象になるのかが激しく争われていましたが、法改正によって、ログイン情報も開示の対象になることが明文化されました。これについては、Q 法改正によって、簡単に開示できるようになりましたか?|弁護士遠藤宗孝 (note.com)でも解説しています。

3 電話番号等の開示を受けることも可能
上記のログイン情報のほか、SNSによっては、携帯電話番号等の登録が必要な場合があり、こうした情報が登録されている場合には、SNS事業者から携帯電話番号等の開示を受けて、そこから投稿者を特定するという方法も使うことができます。

4 ログイン情報のルートと携帯電話番号のルートは併用すべき
Q 投稿者の特定をするためには、コンテンツプロバイダに対する開示請求と、アクセスプロバイダに対する開示請求の、2回の開示請求が必要と聞きましたが、その2回に成功すれば必ず投稿者を特定できますか?|弁護士遠藤宗孝 (note.com)の記事でも解説していますが、ログイン情報からの特定方法には、様々な技術上の制約があり、投稿者の特定に至らないことがあります。他方で、携帯電話番号からの特定方法は、たとえばX(旧ツイッター)であれば、誹謗中傷を行った者が携帯電話番号を登録しているかどうかは、開示請求を行ってみないと分からないという欠点があります。また、携帯電話番号の取得に当たっては、本人確認が義務付けられているものの、開示された携帯電話番号が誹謗中傷を行った者の番号であることが保証されているわけではありません。
このように、2つの方法にはいずれも欠点があることから、ログイン情報から投稿者を特定していく方法と、電話番号等から開示を受ける方法については、片方だけ行うのではなく、両方とも使って投稿者の特定を進めていくのが良いでしょう。
私も、ログイン情報からの特定方法には失敗したものの、同時に行っていた携帯電話番号のルートで成功して、投稿者を特定できたことがあります。

5 ログイン情報からの特定方法の手順
それでは、2のログイン情報からの特定方法について、細かい手順を見ていきましょう!

⑴ コンテンツプロバイダに対する開示請求
まず、コンテンツプロバイダに対して、IPアドレスと、投稿日時の開示請求を行います。
ア 投稿日時の開示請求も必要
IPアドレスには、契約中は数字が変わらない「固定IPアドレス」というものと、契約中も数字が変動する「動的IPアドレス」というものがあります。投稿に用いられたのが「固定IPアドレス」だった場合には、投稿日時の特定までは不要ですが、「動的IPアドレス」の場合には、IPアドレスだけでは投稿者を絞れないので、投稿日時も必要となります。特に、スマートフォンについては秒までの特定が不可欠であるほか、一般家庭向けの固定回線も「動的IPアドレス」であるため、日時の特定が必要になります。

イ 手段は仮処分を選択する
ログイン情報からの特定方法については、Q 開示請求の種類について教えてください|弁護士遠藤宗孝 (note.com)の記事でも解説したとおり、裁判外の任意の開示請求、仮処分、発信者情報開示命令申立を利用することができますが、上記記事で解説したとおり、仮処分を選択するのが良いと考えます。
他方で、携帯電話番号のルートについては、上記記事で解説したとおり、発信者情報開示命令申立を利用するのが良いでしょう。

⑵ アクセスプロバイダに対する開示請求
ア アクセスプロバイダの特定
⑴の仮処分でIPアドレスの開示決定を得た場合、誹謗中傷の直近のIPアドレスが開示されますので、そのIPアドレスを調査して、どのアクセスプロバイダが利用されたのかを特定します。この調査には、「WHOIS検索」というものを使います。

イ 契約者情報の開示を求める
IPアドレスの調査の結果判明したアクセスプロバイダに対して、投稿者が利用していたインターネット契約の契約者を開示するように求めます。
なお、被害者側からすると、「この投稿を行った者の氏名住所を開示せよ!」と求めたいところですが、アクセスプロバイダは、通信の秘密の観点から、個別の通信内容までは把握していませんので、このような請求をすることはできません。アクセスプロバイダが把握しているのは、どのIPアドレスをどの時刻にどの契約者に割り当てていたか、ということまでです。そのため、アクセスプロバイダに対しては、コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレスと、アクセスプロバイダが割り当てていたIPアドレスを照らし合わせることで、その時刻にそのIPアドレスを利用していた者は誰なのかを教えなさい、という形で請求することになります。

ウ プロバイダの組み合わせによっては特定が不可能な場合がある
Q 投稿者の特定をするためには、コンテンツプロバイダに対する開示請求と、アクセスプロバイダに対する開示請求の、2回の開示請求が必要と聞きましたが、その2回に成功すれば必ず投稿者を特定できますか?|弁護士遠藤宗孝 (note.com)の記事でも解説したとおり、アクセスプロバイダ段階では、基本的には、IPアドレスを用いて具体的な通信を識別しますが、アクセスプロバイダによっては、IPアドレスに加えて別の情報(たとえばポート番号や非常に細かい単位での通信時刻など)が必要となる場合があります。しかし、コンテンツプロバイダがこうした情報を保有しているとは限りません。そのため、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの組み合わせによっては、投稿者を特定することが技術的に不可能ということもあり得ます。

エ 追加の情報として求められることが多い接続先IPアドレス
上記の、「別の情報」として求められることが多いのが、通信の接続先に関する情報です。
接続先に関する情報とは、投稿者が誹謗中傷を投稿する際に、どこに向けて情報を発信したかということに関する情報であり、コンテンツプロバイダが情報を受け取る場所のことです。
たとえば、X(旧ツイッター)では、下記の12個が接続先IPアドレスとして存在します(ブログ執筆当時)。

twitter.com
104.244.42.1
104.244.42.65
104.244.42.129
104.244.42.193

mobile.twitter.com  
104.244.42.6
104.244.42.70
104.244.42.134
104.244.42.198

api.twitter.com  
104.244.42.2
104.244.42.66
104.244.42.130
104.244.42.194

代表的なアクセスプロバイダでいうと、NTTドコモに対する開示請求では、この接続先IPアドレスが追加の情報として必要になります。

⑶ 開示されるのは契約者の情報であること
アクセスプロバイダに対する開示請求で勝利すると、情報が開示されますが、⑵のイで記載したとおり、アクセスプロバイダは、個々の通信の内容までは把握していないため、アクセスプロバイダから開示されるのは、その時刻にそのIPアドレスを割り当てられていた「回線契約者」の情報であり、「投稿者」の情報であることが保証されているわけではありません。
たとえば、父が回線契約者であるものの、誹謗中傷の投稿を行ったのは同居している息子だったというようなこともあり得ます。そのため、投稿者の特定は、契約者の住民票を取得して世帯構成を確認する等して行うことになります。
これについては、別の記事で解説いたします。

6 電話番号のルート
それでは次に、3の電話番号のルートについて細かい手順を見てきましょう!

⑴ コンテンツプロバイダに対する開示請求
まずは、コンテンツプロバイダに対して、電話番号の開示を求めます。電話番号等のアカウント情報の開示を求める場合には、発信者情報開示命令申立を利用します。

⑵ 弁護士会照会
次に、コンテンツプロバイダから開示された電話番号について、弁護士会照会という制度を利用して、電話番号の契約者の情報を調べます。

ア 弁護士会照会の概要
弁護士会照会というのは、個々の弁護士が弁護士会に対して一定の事項について照会をしてほしいと申し出をし、これを受けた弁護士会が適当と認めた場合に、弁護士会が照会先に報告依頼をするという制度です。

イ 照会先は報告義務を負う
弁護士会が照会先に報告依頼をした場合、照会先は報告義務を負っていると解されています。電話会社が弁護士会照会を受けた際に参考にするといわれる「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説」においても、プロバイダ責任制限法に定める発信者情報開示請求によりコンテンツプロバイダが保有する電話番号が請求者に開示された後、当該請求者の代理人弁護士が権利侵害情報の発信者を特定する目的で当該電話番号により電話サービスを提供する電気通信事業者に対して、弁護士会照会により当該電話番号に対応する加入者の氏名・住所の開示を求める場合については、通信の秘密を侵害するものではなく、照会に応じることは可能とされています。現在も、守秘義務等を理由として報告を拒絶される事例があるとされているため、弁護士会照会を行えば必ず契約者の情報を取得できるというわけではありませんが、私は、この手段を使って報告を拒絶されたことはありません。

ウ 報告されるのは契約者の情報
電話会社が弁護士会照会に応じた場合、情報開示されますが、IPアドレスの場合と同様に、ここで開示されるのは、「電話番号の契約者」の情報であり、「投稿者」の情報であることが保証されているわけではありません。
たとえば、父が電話番号の契約者であるものの、誹謗中傷の投稿を行ったのは息子だったというようなこともあり得ます。そのため、投稿者の特定は、契約者の住民票を取得して世帯構成を確認する等して行うことになります。
これについては、別の記事で解説いたします。

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