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Q 匿名掲示板で誹謗中傷された場合に投稿者を特定するまでの流れを教えてください。

A ①まずは掲示板管理者に対して発信者情報開示請求を行い、次に、②誹謗中傷の通信に利用されたアクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求を行うことで特定します。

解説いたします!

1 代表的な匿名掲示板
代表的な匿名掲示板としては、2ちゃんねる、5ちゃんねる、爆サイ.comなどが挙げられます。

2 「ログイン型」との違い
Q SNSで誹謗中傷された場合に投稿者を特定するまでの流れを教えてください。|弁護士遠藤宗孝 (note.com)
で解説したとおり、SNSの多くは、誹謗中傷を行った際の記録が保存されませんが、2ちゃんねる等においては、誹謗中傷を行った際の記録が保存されていますので、こうした記録から投稿者をたどっていくことになります。

3 電話番号等の開示を受けることは不可能
上記の記事で解説したとおり、SNSの場合は、電話番号等の開示を受けることが可能な場合がありましたが、匿名掲示板の場合、掲示板管理者自身も投稿者に関する情報を保有していないため、2ちゃんねる等への開示請求の場面では、電話番号のルートを使うことはできません。

4 投稿記録からの特定方法の手順
それでは、2の投稿記録からの特定方法について、細かい手順を見ていきましょう!

⑴ コンテンツプロバイダに対する開示請求
ア 投稿日時も請求する
まず、コンテンツプロバイダに対して、IPアドレスと、投稿日時の開示請求を行います。
Q SNSで誹謗中傷された場合に投稿者を特定するまでの流れを教えてください。|弁護士遠藤宗孝 (note.com)
で解説したとおり、スマートフォンから誹謗中傷が行われた場合は投稿日時が必須になるほか、固定回線であっても一般家庭向けのものは「動的IPアドレス」であるため、投稿日時も必ず開示請求しましょう!

イ ほかの情報は?
他方で、法律上、開示請求することが認められている情報として、

接続元ポート番号
SIM識別番号
携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号

もありますが、それらについてはどうでしょうか。

(ア)接続元ポート番号について
この情報については、ほとんどの掲示板管理者は保有していないものの、保有している管理者も存在するため、そうした可能性がある場合には開示を請求しましょう。

(イ)SIM識別番号について
この情報については、掲示板管理者が保有していることはほぼほぼないため、開示請求をする場面は少ないです。

(ウ)携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
これについても、(イ)と同様です。

ウ 手段の選択
特定方法については、
Q 開示請求の種類について教えてください|弁護士遠藤宗孝 (note.com)
の記事でも解説したとおり、裁判外の任意の開示請求、仮処分、発信者情報開示命令申立を利用することができますが、上記記事で解説したとおり、原則としては仮処分を選択することになります。

もっとも、上記記事の最後に記載したとおり、どの方法を用いるのが良いかということは、サイトによっても異なります。
今回の記事で解説する匿名掲示板でいうと、

2ちゃんねる→仮処分

5ちゃんねる→仮処分

爆サイ→「弁護士・法務関連の申告窓口」(https://bakusai.com/inq_pro/)に対して任意開示の依頼

このように使い分けるのが良いと考えています。詳しくは、サイトごとの記事で解説します。
以下では、ひとまず仮処分を行う場合を念頭において解説します。

⑵ アクセスプロバイダに対する開示請求
ア アクセスプロバイダの特定
⑴の仮処分でIPアドレスの開示決定を得た場合、誹謗中傷の投稿を行った際のIPアドレスが開示されますので、そのIPアドレスを調査して、どのアクセスプロバイダが利用されたのかを特定します。この調査には、「WHOIS検索」というものを使います。

イ 契約者情報の開示を求める
IPアドレスの調査の結果判明したアクセスプロバイダに対して、投稿者が利用していたインターネット契約の契約者を開示するように求めます。
なお、被害者側からすると、「この投稿を行った者の氏名住所を開示せよ!」と求めたいところですが、アクセスプロバイダは、通信の秘密の観点から、個別の通信内容までは把握していませんので、このような請求をすることはできません。アクセスプロバイダが把握しているのは、どのIPアドレスをどの時刻にどの契約者に割り当てていたか、ということまでです。そのため、アクセスプロバイダに対しては、コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレスと、アクセスプロバイダが割り当てていたIPアドレスを照らし合わせることで、その時刻にそのIPアドレスを利用していた者は誰なのかを教えなさい、という形で請求することになります。

ウ プロバイダの組み合わせによっては特定が不可能な場合がある
Q 投稿者の特定をするためには、コンテンツプロバイダに対する開示請求と、アクセスプロバイダに対する開示請求の、2回の開示請求が必要と聞きましたが、その2回に成功すれば必ず投稿者を特定できますか?|弁護士遠藤宗孝 (note.com)の記事でも解説したとおり、アクセスプロバイダ段階では、基本的には、IPアドレスを用いて具体的な通信を識別しますが、アクセスプロバイダによっては、IPアドレスに加えて別の情報(たとえばポート番号や非常に細かい単位での通信時刻など)が必要となる場合があります。しかし、コンテンツプロバイダがこうした情報を保有しているとは限りません。そのため、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの組み合わせによっては、投稿者を特定することが技術的に不可能ということもあり得ます。

エ 追加の情報として求められることが多い接続先IPアドレス
上記の、「別の情報」として求められることが多いのが、通信の接続先に関する情報です。
接続先に関する情報とは、投稿者が誹謗中傷を投稿する際に、どこに向けて情報を発信したかということに関する情報であり、コンテンツプロバイダが情報を受け取る場所のことです。
たとえば、X(旧ツイッター)では、下記の12個が接続先IPアドレスとして存在します(ブログ執筆当時)。

twitter.com
104.244.42.1
104.244.42.65
104.244.42.129
104.244.42.193

mobile.twitter.com  
104.244.42.6
104.244.42.70
104.244.42.134
104.244.42.198

api.twitter.com  
104.244.42.2
104.244.42.66
104.244.42.130
104.244.42.194

代表的なアクセスプロバイダでいうと、NTTドコモに対する開示請求では、この接続先IPアドレスが追加の情報として必要になります。

⑶ 開示されるのは契約者の情報であること
アクセスプロバイダに対する開示請求で勝利すると、情報が開示されますが、⑵のイで記載したとおり、アクセスプロバイダは、個々の通信の内容までは把握していないため、アクセスプロバイダから開示されるのは、その時刻にそのIPアドレスを割り当てられていた「回線契約者」の情報であり、「投稿者」の情報であることが保証されているわけではありません。
たとえば、父が回線契約者であるものの、誹謗中傷の投稿を行ったのは同居している息子だったというようなこともあり得ます。そのため、投稿者の特定は、契約者の住民票を取得して世帯構成を確認する等して行うことになります。
これについては、別の記事で解説いたします。

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