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イジメに楯突いたら

猿が「観光客に牙を向く」動画を見た。

動物特有の「シャー」という怖い音。可動域限界まで唇を上げ、恥ずかしい程、歯茎が丸出しである。「そんな怒んなくても」と思うが、猿にとって観光に来る人間なんてのは、鴨葱くらいなもんなのだろう。

猿は、成人男性の胸元くらいまである柵に登り、餌が出てくるのを待っている。見返りも無しに写真を撮ろうもんなら「木の実も無しに、俺様と写真撮ろうってんじゃねえよな」そんな顔をしている。

猿は、舐めているのだ。

歯茎を見せつければ、人間は怯え、ヘナヘナし、餌を差し出す事を、よく分かっているのだ。舐めた態度は、動物の生きる手段の1つなんだろうか。確かに、歯茎の面積で餌が手に入れば、生存確率は上がりそうだ。

それを見て、僕は思う。「こんな猿みたいな奴、人間にもいるな」と。



僕が中1の頃、同じ中学の3年に、姉がいた。姉は、学校の1軍だった。

僕は、姉のお下がりの青色のジャージを着ていた。胸元に黄色く、姉の名前が刺繍されている。それを着ていると「〇〇の弟じゃん」と呼ばれ、3年から可愛がられた。

中学には、暗黙のルールがある。「ジャージの裾を切っちゃダメ」「ジャージの胸元のチャックを開けちゃダメ」今考えると意味不明すぎて「もはや面白い」まであるが、当時は絶対のルールだった。

しかし、このルールは、姉のジャージの前では無意味と化し、僕は1年にして、胸元のチャックを開ける事が出来た。嫌な顔をしている2年がいる事は知っていたが、誰も近寄れない。魔除けのジャージだった。


3月18日、姉の代が卒業した。そして、4月8日、僕は2年になった。僕は、3週間もあれば、世界が変わる事を知った。

応援団のクソ味噌に怖い先輩が、入学してきた1年生はそっちのけで、気に入らない2年の、狩りを始めた。同級生数名に呼び出しが掛かった。もちろん僕も呼び出された。

僕は邪気を払う為、姉の刺繍を胸に携えた。しかし、姉が卒業した今では、無意味と化した。耳元で「おい、ジャージの裾を切るな」「おい、ジャージのチャックを締めろ」と、お叱りを頂いた。

僕は震えながら、心の中で思った。「開けちゃダメなチャックってチャックか?」と。しかし、たった1年先に生まれただけのコイツの、何が偉いのだろうか?チャックの開閉を、お前に決められる筋合いは無い。母か?お前は。

でも、怖くて何も出来なかった。僕は、目を付けられた。それからの生活は、辛かった。どこにいてもチャック警備員が見張っている。僕は、凄くチャックを閉めた。

「アイツが嫌い」と、自分で分かっていながらも「嫌い」と言ったらバレそうで、好きなふりをし、迎合した。奴らのネットワークは凄い。ちょっとした文句1つ、耳に入ろうもんなら、呼び出をくらい、チャックがどうだと教えられる。天下のYKKも怯える、恐ろしいコニュニティだった。

まあでも、中学生あるあるなのだろう。同じような話をよく聞く。今になってみると、可愛いもんだ。



でも、何が恐ろしいかって、奴らは、社会にもいるのだ。

自分の立場を危ぶめない為、威勢と恐怖だけで乗り切れると勘違いしている馬鹿が、大人になってもいるのだ。

奴らは、態度をデカくし、圧を掛け「はむかえない空気」を作り、自分のプライドを守る為「だけ」に動く。子供の頃から、それを繰り返して来たから「強いことは男らしい」「雄の態度はこうあるべき」と主張する。そして、その空気に馴染んだ方が楽だと判断した取り巻きたちが、周りに集まる。まるでポンデリングのよう配置だ。

僕はそいつらを見て、いつも思う。「黙れ黙れ」と。


あの頃は、怖くて戦えなかった。心の中で戦う事しかできなかった。そして「悔しさ」と「惨めさ」いう傷が残った。

もう、違う。僕は、大人になった。

社会は、胸元のチャックも、悪口も自由なのだ。

だから僕は、イジメっ子がいたら、陰湿な仕返しを考える。裏で、相手が立ち直れない程の、胸糞悪い陰口を叩く。表は無理だ。怖いから。でも、陰口がバレたって構わない。嫌いな奴に嫌われても、どうでもいい。そんな事より、自分の心がスッキリする方が、数百倍大切だし、そこに時間を費やすくらいなら、自分の好きな人に時間を使った方が、数億倍いい。だから僕は、陰口を言う。

どうせ奴らは、防御力が無い。プライドで塗り固められてるから、自分を下げるような発言をする勇気すらないのだ。自虐なんて言えないし、イジられるとか恥ずかしくて出来ないのだ。

奴らは、哀れだ。

奴らは、馬鹿だ。

奴らは大体、図体でかいだけのデブだ。

奴らは、あの猿と同じなのだ。




動画の続きを見る。猿に威嚇された人間は、知っててか、一才の怯えを示さない。デカい歯茎を見せられても、堂々と2ショット写真を撮っている。餌も渡さず、肩に乗られても、何も動じない。

すると、その人間を見た猿は、塩らしくなり、おとなしく写真を撮られていた。

結局、そういう事なのだ。

奴らは、ビビらない相手が、怖いのだ。そうさ、僕たちは、本能で、それを知っている。奴らに、コントロールなんてされてやらないさ。

奴らは、コチラの態度次第で、舐めとイジメを加速させる。だから、敢えて1度、舐めさせる。そして、気を抜いた所で、別の奴の陰口を、死ぬ程、聞かせる。そうすると「遠藤をイジメたら、裏で何言われるか分からない」とビビらせる事が出来る。で、最終的に、暴力を振るえない環境化に誘い込み、法的に、社会的に抹殺出来るように、反旗を翻すのだ。

そう、これが「蝶のように舞い、鉢のように刺す」だ。



僕は、中学にして、それに気が付いていた。

いつものように、グイグイ詰めてくる先輩に、別の先輩の悪口を、死ぬほど聞かせた。驚いている。「おれだってやり返すんだぞ」と牙を見せた。怯んでいる所に「まぁ今日はこんなもんにしとこうよ」と、笑いながら肩パン喰らわせてやった。

これで立場は対等だ。見てみろ、まさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔だ。おれだって、やれば出来るんだ。


そして、その日僕は、ジャイアントスイングで宙を舞った。飛ばされた先に、たまたまあった角に頭をぶつけ、気絶した。

いいか、お前ら、ボス猿には絶対に歯向かうな、死ぬぞ。

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