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なぜ医療従事者がアレクサンダー・テクニークを学ぶのかー理学療法士さんに聞いてみた

#アレクサンダー・テクニーク #インタビュー #PS2021    #理学療法士 
#代替医療

1.代替医療を学ぶ医療従事者が増えてきた


今また代替医療が流行っています。身体や治療に影響しないなら問題にはなりませんが、受けている治療を中断して民間医療や代替医療に傾く人は多いです。
断薬させたりアロマオイルを勧める、信頼できない医療従事者も増えています。
わたしは医療類似行為や代替医療を肯定していましたが、最近はかなり警戒しています。
医療類似行為や代替医療で病気や障がいが治るなら、医療はいりません。

しかしわたしも医療類似行為に興味を持って学んできました。もちろん標準医療支持派であることは揺るぎませんが、効果がない看護技術が受け継がれていくことに疑問を持っていました。自分が提供する看護技術は効果がないけど、それをやらないと注意を受けるという理由で納得できない仕事をしてきました。

代替医療や医療類似行為を取り入れているけど、標準医療を支持している医療従事者の話をぜひ聞きたいと考えて林好子さんにインタビューをお願いしました。
その理由は、「理学療法士とアレクサンダー・テクニークの二足の草鞋を履いている」とプロフィールで言い切っているからです。
2016年にアレクサンダー・テクニーク教師の資格を取得してレッスンをしている、林好子さんにお話を聞いてみました。

2.なぜアレクサンダー・テクニークだったのか


―何度も聞かれてると思うんですが、改めてアレクサンダー・テクニーク*1を知って学ぼうと思ったきっかけを教えてください。

林さん:アレクサンダー・テクニークのことは全く知らなかったんですが、理学療法の尊敬する先輩がアレクサンダー・テクニークのワークショップとかクラスに行かれていて、その方からとても面白いワークがあるって教えていただいたんです。すぐには飛びつかなかったですが。ただ当時、理学療法士として…。もっと端的にお答えしたほうがいいですか?

ーいえいえ、このままで。

林さん:そうですね、端的に言うと、ひとつは尊敬する先輩に紹介してもらったということで、理学療法士として有用なものが学べるんじゃないかというのがありました。あともうひとつは私自身が不調を抱えていたというのがあります。
もう少し詳しくお話するとですね、当時私は理学療法が我が人生みたいな感じで、理学療法に関する勉強に夢中だったんですが、知識が増え経験を積み重ねる中で、ある種壁にぶち当たっているような感覚がありました。
理学療法士として自分には何かが足りないんじゃないかと漠然に思っていたというか…。そんなときにアレクサンダー・テクニークを紹介してもらい、自分に足りないものがそこで学べるのではないかと思いました。
ただ、正直なところ最初はあんまりピンとこなかったり、忙しかったりで、2、3か月に一回とかたまに参加してみるのを続けていました。しっかり学ばないといけないかな〜と思ってる時に、わたしの身体がどん底まで落ちてしまって。今は好きな仕事だから頑張れるけど、5年後とかって考えたときに、このままの体調では無理かなって思ったんです。だから仕事のためだけでなく、自分のためにも学んでみようかなっていうのがきっかけです。

3.医療従事者が代替医療を行うということ


ー理学療法を学べば学ぶほど壁に当たっていくことにかかるんですが、アレクサンダー・テクニークを医療従事者が使えば代替医療になります。
理学療法の知識や技術に向かわずに、アレクサンダーに魅力を感じてアレクサンダーで理学療法をやってみようと思ったのはどうしてでしょう。

林さん:わたしの中で理学療法の代わりにアレクサンダー・テクニークをするというイメージはなかったです。私自身理学療法士であることに誇りを持って働いていましたし、理学療法は理学療法でいいものがいっぱいあります。それに、患者さん(利用者さん)と向き合うためには医学的知識はもちろん必要ですし。だから置き換える(代替医療)というよりは、当時の私の理学療法に足りないものを補う、セラピストとして幅を広げる、そんな表現の方が適切なように思います。それは患者さんの可能性を引き出すチャンスが広がるということですし。
患者さんと医療者という関係性があると、どこに問題があるか、何がこの人に欠けているかっていう視点になりますよね。筋力が足りないとか可動域が足りないとか高次脳機能が低下しているとか、何が足りないかという視点しかなかったんですけど、アレクサンダー・テクニークの視点に立つと「何が余分ですか?」という見方もできますよね。
病気や怪我で生じた機能障害に対して、理学療法的視点に立って可能な限り機能を引き上げるということは絶対必要なんですが、その一方で、どんな人でも必ず余分なことをいっぱいやっているので、機能障害として限界があったとしてもあきらめなくていいというか、まだまだ引き上げられることが残ってます。
だから、あんまり代替医療、理学療法の代わりにアレクサンダー・テクニークをやっているという感じはなかったです。それよりはうまく融合させてやっていきたいという感じでしょうか。
ただ、肩書きって影響していて、どっちの肩書きを前に出しているかで違うんですよね。自分の中にスイッチがある。アレクサンダー・テクニークという肩書を使ってるときと理学療法士の肩書を使ってるときでやっぱり違う…。うまく言えないけどなんとなくスイッチは変わっている。

―おもしろいですね。スイッチを変えるっていう考えは初めてです。今やってることに限界を感
じてしんどいから、フェルデンクライス*2やアレクサンダーを学ぶと答えた人が多かったので、
林さんの答えは新鮮です。

林さん:人の数だけバリエーションがあるわけじゃないですか。だから、こっちの出すツールも人の数だけ変えていかないといけないし、お道具(ツール)が多いに越したことはない。
あとこんな風にも考えられます。同じ理学療法の技術、可動域訓練する・筋トレする・コミュニケーションとる、という時に私自身にアレクサンダーが使えますよね。自分自身を整えることで、同じ技術なんだけどそのクオリティが変わる、それによって結果が変わってくるっていうのはいっぱいあると思うんです。
自分の持っている理学療法の技術の底上げていう意味でも、全然使えるんじゃないかと。

4.保守的な医療業界で、アレクサンダー・テクニークを取り入れたケアをしていることに反発はないか


―医療業界って保守的じゃないですか。アレクサンダーを取り入れたケアをしていることに周りが反発しませんか?

林さん:今んとこ反発はないです。私が気づいていないだけかもしれませんが、(笑)。

―アレクサンダーやってますと言わずにやってるって、ある理学療法士は言ってましたね。

林さん:病院勤務時代、私がアレクサンダー・テクニークを学んでいるとあえて言うということはなかったんですが、アレクサンダー・テクニークを学び始めてから私のセラピーが変わったのは周囲のスタッフは感じていたんじゃないかと思います。何かが違うなって興味を持ってくれたスタッフもいて、私が仕事中に気づいたことをメモしていると、「今日のメモ見せてください」っ声かけてくれる熱心な後輩もいました。あと、ブルース*3のワークショップを大阪でやったときは、職場のスタッフがたくさん来てくれました。当時、私自身、肩書にあまりこだわってなかったのが、変な壁を作らなかったのかもしれませんね。
同じ業界の方からワークショップの依頼を受けることがあるので、みんなが反発してくる感じはないです。全く知らない人だと違うかもしれませんが、興味持ってくれてる人もいっぱいいると思います。

―「思うだけで、変わるわけないだろう」とは言われないですか?

林さん:あー、それは表現の仕方にもよるかもしれない。
「思うだけで」っていう言葉って、若干危険というか、勘違いも起こる言葉ですよね。アレクサンダー・テクニーク教師が言ってる「思う」と、受け取った方の「思う」の意味合いがズレていたら何を言ってもうまくいかないので、私はあまりそういう表現を使わないです。
自分の中で何がアレクサンダーで理学療法なのか、きれいな線引きができないかもしれません。一緒くたになっているわけではないですし、それぞれの肩書きを持って仕事をしているときは、やっぱり違いますが。
ただ、最後は人の動き、自分自身をどう使っていくかっていうところなので、そこにどんな名前を付けますかっていう話でもありますよね。
最近思うことは、わたしは「アレクサンダー・テクニークってこれですよ」って伝えたいわけではない。それよりは、学びに来た方が、その人がなりたい自分になる、困ってることを解決してより良い未来というか暮らしを見つけていくために自分の持っているアレクサンダー・テクニークの技術や知識を使うという方が大事なので、極端に言えば名前は「ドーナツ」でもいい。そんなこと言ったら怒られちゃうかもしれませんが。


4.林さんの病院勤務時代と今やっていることについて

林さんは病院勤務時代のことも話してくださいました。

林さん:大きな総合病院で働いていたので、あらゆる科から患者さんが来たんです。人工呼吸器を使っている人もいれば整形外科や脳神経系の疾患の人、子供もいました。例えば意識がない人に対してアレクサンダー・テクニークは何もできないのか。さっきお話があった「思う」っていうことだけをアレクサンダー・テクニークと思ってしまうと意識がない人に対してアレクサンダー・テクニークは何もできないとなります。でもそんなことはない。わたし自身の使い方次第でもっとよりよいセラピーを提供できたりとか、いろんな可能性があります。

そして医療にこだわらずレッスンをしておられます。

林さん:私のところに学びにこられる生徒さんは、私が理学療法士というのもあって身体に不調を感じている方が多いんです。目の前の問題は身体の不調なのですが、その先どうなりたいかって問いを続いていったら皆さん、自分自身の課題に行き着くんですよね。「自信が持てるようになりたい」「チャレンジできるようになりたい」「ブレない自分が欲しい」とか。身体がうまく整っていないがために、自身が望むような自分でいれないことに本当は苦しんでいるっていうか。
だから、心身両方含めて、身体の使い方はもちろんだけど自分の使い方を学ぶこのワークっていうのはとてもいいなっていうのがあります。

5.林好子さんのインタビューを終えて

代替医療や民間医療を学んだ医療従事者は、大体現代医学や標準医療に否定的になります。あるいは医療に関する新しいことを学ぶと、「あなたたちのやり方は間違ってるから、このわたしが正しいことを教えてあげましょう」と自分優位に物事を進めます。
その結果、標準医療を支持する医療従事者から距離を置かれてトンデモ医療に偏ります。

標準医療にもアレクサンダー・テクニークにも軸足を置いて、ブレずに患者さんや利用者さんに関わる林好子さんは、バランスが取れているなとインタビューを終えて感じました。

否定し合うのではなく、お互いをリスペクトすると繰り返した林好子さん。確かに反発だけでは何も生まれません。
わたしもアレクサンダー・テクニークを学ぶことは、看護技術の代わりでなく看護技術の幅を広げることかもしれないと思いました。

林好子さんプロフィール
理学療法士・アレクサンダー・テクニーク教師
<経歴>
1999年 理学療法士免許取得
2009年 アレクサンダーテクニークに出会い学び始める 
2011年 日本と海外を行き来する生活を開始
2016年 Alexander Alliance Southwest校を卒業
    アレクサンダーテクニーク教師の資格取得
ウェブサイトAlexander Technique For Your Life

*1アレクサンダー・テクニーク
F.M.アレクサンダーの発見した原理に沿って心身の不必要な緊張に気づき、やめていく学習のこと。
*2フェルデンクライスメソッド
物理学者モーシェ・フェルデンクライスが創始した、身体訓練による自己開発法。特徴はシンプルで反復的な運動を通して身体への気づきを促すところにある。
*3ブルース・ファートマン
1982年に教師養成スクール「アレクサンダー・アライアンス」を開校し、マージョリー・L・バーストゥ(1899-1995)のワークを継承し、進化させることに従事してきた。現在は統括ディレクター。アレクサンダー・テクニーク教師として、20年以上にわたりアメリカ・ドイツ・イタリア・日本を中心に世界各国で教え、教師も数多く養成し、現在活躍している多くのアレクサンダー教師に影響を与えている。近年は特に医療分野との関わりも深く、海外や国内で多くの理学療法士をはじめ看護師、医師等多数の医療従事者もワークショップに参加している。


アレクサンダー・テクニーク受講料にします。 教師になったら、ワークをして差し上げたい人がたくさんいます!