【002】世界最大規模の単一国ラグビープロリーグ~フランスTOP14~
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ようやくスタジアムでのスポーツ観戦が許可され、徐々にスポーツ界も明るいニュースが増えてきました。2019年に盛り上ったラグビーも、2022年1月開幕の新リーグ設立(*1)や、世界レベルのトップ選手のトップリーグ参戦(*2)と明るいニュースがあり、2020年も楽しみになってきました。
そこで、今回は、昨年のラグビーワールドカップ(RWC)でも日本中を沸かせた、日本代表の松島幸太朗選手が移籍することでも話題になったフランスのプロラグビーリーグTOP14について調べてみました。
フランスは、日本同様、2023年ラグビーワールドカップと2024年パリオリンピック・パラリンピック等の世界最大規模のスポーツの祭典が連続して開催されるという意味でも、スポーツビジネスにおいては大変興味深い国の一つになります。
フランスの人気スポーツ
フランスの中央競技団体の登録者数から推定された2019年の人気スポーツTOP10(*3)は、1位はサッカーで220万人、2位テニス、3位乗馬で、ラグビーは7位です。
参考までに、フランスで最も競技者数の大きいサッカーのプロリーグ(LFP:Ligue de Football Professionnel、リーグアン等)の売上実績を見てみましょう(*4)。
フランスラグビーの現状
フランスのラグビーの中央競技団体「フランスラグビー連盟(FFR:La Fédération Française de Rugby)は1919年に設立され、2020年現在281,554人の競技登録者と1,922の登録クラブを保有しています(*5)。FFRはエリア連盟のラグビーヨーロッパの登録国のひとつで、また同時にシックスネーションズといった国別対抗戦、欧州チャンピオンズリーグを運営するEuropean Professional Club Rugby にも加盟しています(*6)。
また、FFRは、プロラグビーリーグ「LNR:Ligue Nationale de Rugby」と2018-2023に5つの戦略的優先事項に取り組みを進めています(*7、*8)。
フランスのプロラグビーリーグLNRの役割
LNRは、FFRと青年スポーツ省の委任によって、あるプロサッカーリーグをモデルとして1998年に設立されました(*9)。
日本ラグビーフットボール協会(JRFU)の2020年7月1日更新の組織体制では、新リーグ法人設立準備室と新リーグマーケティング会社準備室を設けています(*10)。恐らく、JRFUの新プロリーグ構想は、海外プロラグビーリーグやプロサッカーリーグをモデルとするのではなく、JBA - Bリーグ - B.Marketingの関係性のような組織設計をしている可能性があります。
B.Marketingの株主でもある電通は、JRFUと日本代表チームのマーケティングパートナーでもあるため、ラグビー新リーグにおいても、Bリーグ、バスケ日本代表の共同マーケティングノウハウを横展開していくことに期待できそうです(*11)。
TOP14の概要
TOP14は、元々1892年に設立されたフランスラグビー選手権(*12)がベースです。各クラブはヨーロッパ起源の他競技と同様、地域の総合型スポーツクラブのラグビー部門として設立されています。そのため、各クラブがフランスにおける競技普及の中心的な位置づけも担っていると想定されます。
また、フランスプロサッカーリーグが1932年設立ですので、フランスラグビーの歴史は非常に古いです(*13)。加えて、世界最大の観客動員数と収益規模というブランド力も持ち合わせています。
TOP14の運営方式は、全14チームのホーム&アウェイ方式で実施するシーズン全182戦(各チームの収入源となるホーム戦は13戦)と、シーズン上位6チームで行われるノックアウト方式によるプレーオフ全5戦でタイトルが争われます。また、この上位6位チームが欧州チャンピオンズカップの出場権を得ることができ、最下位はPro D2へ自動降格、13位は入替戦を行います。
日本との関わりとしては、冒頭の松島幸太朗選手がTOP14に移籍しますが、かつては五郎丸歩選手(2016年)、日野剛志選手(2019年)が在籍しました。日本での放映権は、2016-2019シーズンはWOWOWが、2019/20シーズンよりテレ朝チャンネルが持っています(*14)。
収益規模
リーグの売上高は352百万ユーロ(2018/19)、2008/09~2018/19の11年間の年平均成長率は5.5%とフランスプロサッカーリーグ(LFP)同様の成長を誇っていますが、データが取得できる2006/07シーズン以降で、黒字化したシーズンは一度もありません(*15:Rapport DNACG)。またLFPの半分近くの売上を担っていた放映権料は、TOP14では配分金収入に該当しますが、全体の20%程度に留まっています。逆にスポンサーシップが売上の半分近くを占めています。
この「Rapport DNACG」には詳細の収益構造やコスト構造、選手の退職金やスポンサー収入の詳細がまとめられていますので、お時間がある方はお読みになるととても参考になるかと思います。
観客動員数
2018/19は過去最高値を記録し、平均観客数13,909人/試合、平均収容率70.0%となりました(*16)。スタジアムの平均収容人数は約21,000人と想定されます。)。
マッチデー収入は、試合数 × 1試合収益(€/試合) = 試合数 × 平均観戦者数(人/試合) × 一人売上単価(€/人) と表現できます。ラグビーはコンタクトスポーツという激しい競技となりますので、試合数を増やすことが難しくなります。その分、観戦者数や一人売上単価は更なる改善が必要な状況です。
マッチデー収入の比較(LFP(プロサッカーリーグ)とTOP14)
・試合数 :LFPが全380試合、TOP14が全182試合
・1試合収益 :LFPが53万€/試合、TOP14が26万€/試合
・平均観戦者数:LFPが21,555人/試合、TOP14が13,909人/試合
・一人売上単価:LFPが24.5€/人、TOP14が18.6€/人
日本の新プロラグビーリーグへの示唆
【マッチデー収入】
TOP14は、20年以上の歴史と世界最大のリーグという収益規模があっても、集客数や一人売上単価の点で、マッチデー収入の増大に苦戦していると言えます。これは、日本がプロ化した際も同様の苦戦が生じることが容易に想像させます。
【ベッティングとの絡み】
TOP14は、欧州らしくベッティングの対象となっていますので、公式ウェブサイト上でもスポーツくじガイドを提示しています(*17)。TOP14自体は、現時点でブックメーカーとしての収入があるわけでも、ブックメーカーからのスポンサー収入を得ているわけでもありませんが、ベッティングがあることで、ファンの試合視聴を促進させるため、放映権料の高騰に繋げることができます。
日本では、直近でBリーグがtotoの導入準備が進められていますが(*18)、totoの対象となることで、助成金が得られます。日本の新プロラグビーリーグも、Bリーグの取組みを参考に、totoを活用した財源確保に向けた動きをとることが望ましいと考えられます。
【放映権料収入】
TOP14は、直近5年間で急増していますが、フランスプロサッカーリーグと比較すると、まさに桁が違います。
日本では、法律上でベッティングはできませんので、射幸心を煽って視聴意欲を強烈に高めることはできません。そのため、純粋に視聴コンテンツとしての面白さだけで他スポーツやエンタメコンテンツと競合することになります。RWCで様々な施策を講じてきましたが、国内向け放映権料としては、大きな収入を期待することがまだまだ難しい可能性があります。
要約すると、世界最大規模であるTOP14もコンテンツ作りはまだまだこれからになります。日本の新リーグ設立後も、より中長期的な目線をもってコンテンツを作り込みながら、中央競技団体とリーグ、クラブが一体となって、ビジネス化するための土壌を作っていくことが望ましいと考えられます。
まとめ
今回は世界最大のプロラグビーリーグであるフランスTOP14の調査を通じ、日本の新プロラグビーリーグの未来を考察してみました。
TOP14は、世界最大規模のリーグでありながら、黒字化できていない等の懸念はありますが、中央競技団体と連携し、国際的なブランド構築を推進する等、今後も着実な成長が期待できると言えます。
各クラブも、前向きに捉えるとスタジアム収容率70%と成長余地があり、リーグ全体の国際的な地位向上に向けた取組みによって、ラグビー新興国等でのブランド構築の機会がありますので、今後の収益向上の期待はできると想定されます。
一方で、日本は、「ラグビー新興国」としての魅力は世界中に知れ渡っていますので、今後、海外クラブが日本国内でマーケティング活動を積極的に行ってくると予想されます。プロ化する際は、足元の収益獲得も必要不可欠ですが、海外クラブを競合としてベンチマークしながら、マーケティング活動をしていくことが望ましいと想定されます。
今後も、引き続きラグビーの調査を進めていきます!
出所
*1:https://rugby-rp.com/2020/07/01/domestic/52215
*2:https://number.bunshun.jp/articles/-/844210
*3:https://french-iceberg.com/fr/sports-in-france/
*4:https://www.lfp.fr/DNCG/rapports
*5:https://www.ffr.fr/ffr/la_federation/presentation_de_la_federation
*6:https://www.ffr.fr/ffr/la_federation/les-instances-internationales
*7:https://www.ffr.fr/ffr/publications-officielles/convention-ffr-lnr
*8:https://api.www.ffr.fr/wp-content/uploads/2019/02/Annexe-3.pdf
*9:https://www.lnr.fr/ligue-nationale-rugby/qui-sommes-nous#fndtn-panel-presentation
*10:https://www.rugby-japan.jp/jrfu/organization/
*11:http://www.bmarketing.jp/company/
*12:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E9%81%B8%E6%89%8B%E6%A8%A9%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%9714
*13:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3
*14:https://rugby-rp.com/2020/01/23/abroad/45952
*15:https://www.lnr.fr/ligue-nationale-rugby/documentation
*16:https://sport24.lefigaro.fr/rugby/top-14/actualites/le-top-14-a-encore-battu-des-records-d-affluence-960058
*17:https://www.lnr.fr/sites/default/files/Guide-referents-paris-sportifs.pdf
*18:https://www.asahi.com/articles/ASN5H5W4WN5FUTQP00K.html
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