見出し画像

戯曲『モノガタリ・デ・アムール』(5/5)


戯曲『モノガタリ・デ・アムール』の5回目(最終回)の投稿です。



ここまで読んでくださって、どうもありがとうございます。

ぜひ、最後までお楽しみください!




登場人物


遠藤花男(45)……………… 長男

遠藤達也(43)………………… 次男

遠藤圭祐(40)………………… 三男

遠藤サキ(22)………………… 花男の娘

中瀬美枝子(25)……………… 出版社の女性編集者

森下夏子(30)………………… 女性ホームヘルパー

楠(29) ………………………… 探偵

星野(35)……………………… 近所の派出所勤務の警察官

木村ショウタロウ(32)…… サキの恋人

近藤アキラ(28)……………… サキの友人

鳩田(33) ……………………… 新しいホームヘルパー

安田(35) ……………………… 中瀬の同僚・編集者

芦沢リナ(18)………………… 近所の女子高生




数日後、昼間。

ソファの所に、スポーツバックが置かれていて、達也の部屋の前に、ひとりの女・安田が立っている。

安田は、達也の部屋をノックすると、


安 田 おはようございます!


しかし、返事がないので、


安 田 ……おはようございますぅ! フューチャーパブリッシングの安田です……遠藤さんの担当をさせていただく、安田ですがぁ……おはよーございまーす(……遠藤さん? 大丈夫ですか? 寝てるんですかぁ?……おはようございまーす)。


玄関から、圭祐が来る。


圭 祐 ダメ?

安 田 (振り返って)ええ。

圭 祐 頑固な奴なんで。

安 田 みたいですね。


圭祐、ダイニングテーブルの椅子に座る。


安 田 実は、遠藤さんの小説に、さっそく映画化の話が来てるんですよ。

圭 祐 ほんと?

安 田 中瀬なんか盛り上がっちゃって、ジョージ・クルーニーに出演して貰おうって、メチャクチャなこと言ってますけど。

圭 祐 ジョージ・クルーニーって、どの役に?

安 田 引きこもりの役で。


達也の部屋の中、達也が立ち上がり、その姿が見える。

達也は、寝間着に中瀬から貰ったネクタイをしている。


安 田 中瀬、さっそくなんか英語でメール打ってたし、本当にジョージ・クルーニーが出ちゃうかもしれないですよ。

圭 祐 やだよ、そんな引きこもり。

安 田 圭祐さんの役は、ブラッド・ピットとかですかね?

圭 祐 ……まあ、俺の役はそれぐらいでちょうどいいけど。


と、達也が部屋の中から声を出す。


達 也 美枝子ちゃんは?

安 田 え?


達也と安田はドア越しに会話をする。


達 也 美枝子ちゃんは、そこにいる?

安 田 あ、すいません。中瀬、今日は来れないって。

達 也 ……ジョージ・クルーニーって誰?

安 田 え、ジョージ・クルーニー知らないんですか? ジョージ・クルーニーって、超セクシーなハリウッドの映画俳優ですよ。

達 也 映画……。

安 田 映画です、映画。


達也、部屋のドアを開ける。


安 田 (ので達也を見て)あ……。


達也、部屋から出ようとはせず、


達 也 ……俺、その人に似てる?

安 田 ジョージ・クルーニーに? 似てない似てない。

達 也 ……。

安 田 ていうか、引きこもりの方でも、ネクタイってするんですね。

達 也 ……うるせえよ、ブス。

安 田 「ブス」って……。

達 也 (安田の視線に)……なんだよ、なんではえぎわを見るんだよ!

安 田 え、見てないですよ。

達 也 見てるだろ! 俺のはえぎわ! どういう意味で見てるんだよ? え? ジョージ・クルーニーは、こんなはえぎわしてないってか? そんなに頼りないか? 俺のはえぎわは! 初対面のブサイクに心配されるほど心細いか?

安 田 すいません。私の視線が気に障ったなら、謝りますけど。

達 也 ぶっ殺すぞ!

安 田 ……(テヘッと誤魔化す)。

達 也 (ので)……映画化なんかくそくらえだよ。ラブストーリーなんて意味ねえんだよ!


と達也は部屋のドアを閉める。


安 田 ……。

圭 祐 ますます卑屈になってるな。

安 田 すいません。

圭 祐 あの調子じゃ無理でしょう、今日は……またにしたら?

安 田 そうですね……。


部屋の中で、達也はベッドに横になる。

安田は、カバンを持って、


安 田 それじゃあ、また後日。


と安田が玄関に行こうとすると、ホウキとちり取りを持った星野が玄関から来て、


星 野 あ、お帰りですか?

安 田 はい。お邪魔しました。


と安田は去る。

星野、3場とは違い、動きやすい私服にエプロンをしている。


圭 祐 終わった?

星 野 はい。


星野、ちり取りのゴミを台所のゴミ箱に捨て、ホウキとちり取りを片隅に置くと、流しで手を洗う。


圭 祐 悪いねえ。せっかく来て貰ったのに、サキの奴、また遊び歩いてるみたいで。

星 野 いえ……私の顔なんか見たくないのかもしれませんし。

圭 祐 そんなことないよ。

星 野 でも、サキちゃんにしてみれば、自分の父親を殺しかけた男ですから。

圭 祐 ……星野くんもアレだな、卑屈が似合いそうだもんなぁ。気をつけた方がいいよ。

星 野 はあ……。


星野、タオルで手を拭く。


圭 祐 (ので)じゃあ、次は上行きましょうか。

星 野 はい(と、ホウキとちり取りを持って)。


圭祐と星野、二階に去る。


しばし無人の居間。


玄関から、サキが来る。


サ キ (こっそり居間の様子を伺って)……(誰もいないのを確認すると、玄関の方に)……いいよぉ。


と声をかけ、居間に来る。

玄関から、黒ずくめの衣装を着てロープを持った木村と近藤が来る。

二人はスポーツバックから覆面を取り出して、


近 藤 あったあった。

サ キ ちゃんとしようよ。最後なんだから。


木村と近藤は、覆面をかぶり、


木 村 よし! 最後の、大作戦だからな。

近 藤 おう。

サ キ ……じゃあ、確認ね。

木村・近藤 うん。

サ キ 二人は玄関を出て、外を回って、裏口から入って来る。

木村・近藤 うん。

サ キ で、ショウちゃんが私を押さえつけて、アキラがこの辺荒らしてから、ドアを開けて、タッちゃんと目が合ったら、サッと閉める。

木村・近藤 うん。

サ キ で、タッちゃんが私を助けに飛び出して来たら、二人で押さえつけて、引きずり出す、と。

木 村 完璧だな。

近 藤 間違いない。

サ キ よしっ! じゃあ、「強盗に襲われたフリして、タッちゃんの引きこもりを終了させよう」大作戦、開始!

木 村 ゴー。

近 藤 ゴー。


と木村と近藤は玄関に去る。


サ キ ……。


サキ、スポーツバックと紙袋をまとめてソファの陰に隠すと、ダイニングテーブルの椅子に座る。


サ キ (達也の部屋を気にしながら)……。


と庭に、制服を着たひとりの女子高生・芦沢リナが来る。


サ キ (ので)……え、なに?

芦 沢 ここ、遠藤さん家?

サ キ 遠藤だけど。

芦 沢 あ、マジで? いる? 引きこもり。

サ キ は?

芦 沢 引きこもりがいるって聞いたんだけど。

サ キ ……。

芦 沢 上がっていい?(と居間に上がる)

サ キ ていうか、誰?

芦 沢 リナだけど?

サ キ どこの? てか、ウチに引きこもりがいたとして、リナさんにどういう関係があるの?

芦 沢 関係なんかないよー。でも見たいじゃーん。引きこもり。

サ キ 「見たいじゃーん」って。

芦 沢 見たいよー。見たくない? なんて言うの? 純粋な欲望? 見たいなーって。

サ キ だからさあ……。


と庭に、覆面をした木村と近藤が来る。

二人は、居間にいる芦沢を見て、


近 藤 あ、女子高生がいる……。


その声に、サキは、振り返って木村と近藤を見る。


サ キ ……。

芦 沢 (木村と近藤には気付かず、ポスターを見て)なにこのポスター。これ誰? センス悪くない?

木 村 どうする?

近 藤 ゴー。

木 村 ゴー?

近 藤 ゴー、ゴー。


と木村と近藤は、靴を脱いで居間に上がると、木村はサキを、近藤は芦沢を押さえつける。


芦 沢 誰、誰、誰? なにこれ、なにこれ! ちょっと! ちょっと!

近 藤 誰だか知らないけど、ちょっとの間だから。

芦 沢 あー! あー! 殺される! 殺されるぅ!


達也の部屋の中、ベッドに横になっていた達也が起き上がる。


達 也 (居間の物音に)……。


木村は、サキを椅子にロープで縛りつけ、近藤は、本気で逃げる芦沢を椅子に押さえつけて、台所にあったタオルを猿ぐつわにして口を押さえつける。


近 藤 ちょっとだからさあ、そんなに嫌がらなくても。

芦 沢 あー! あー!

近 藤 大丈夫だよ、殺さないから!

芦 沢 あー! あー!

サ キ (芦沢が押さえられたのを確認すると、わざとらしく達也の部屋に)助けてぇ! タッちゃん! タッちゃーん!

芦 沢 あー! あー!


近藤、達也の部屋のドアを開けようとする。

と、ガチャリと鍵の開く音がするので、慌てて芦沢を押さえつける格好になる。
達也、部屋のドアを開けて、居間を見る。


達 也 ……。


居間には、椅子に縛られたサキと、猿ぐつわをされた女子高生、そして覆面の男が二人。


達 也 ……。

サ キ 助けてぇ、タッちゃん!

芦 沢 あー! あー! あー!

サ キ タッちゃん! 早く! タッちゃん!

達 也 ……。


達也、ドアを閉める。


サ キ (ので)タッちゃん!

芦 沢 あー!


しばし間。


サ キ ……。

木 村 閉めた。あいつ、ドア閉めたぞ。

近 藤 見て見ぬフリだよ……。

サ キ タッちゃん……。

木 村 ……くそぉ。なんて卑怯な人間なんだ。

近 藤 とんだ臆病者だったな。

サ キ ……。

芦 沢 ……。

木 村 信じられねーよ……作戦失敗。

近 藤 作戦失敗(と芦沢の猿ぐつわを外す)。

サ キ ……。

芦 沢 ……。


二階から、星野が駆け下りて来る。


星 野 サキちゃん、どうした!?(と覆面の二人を見て)あ。黒い服……動くな! 全員そのまま動くな!……貴様ら、空き巣だな! 空き巣の常習犯だな!

サ キ 星野くん……。

星 野 サキちゃん、いま助けるからね!


と星野は無駄に前転すると、木村の足下を掴んで、


星 野 捕まえたぁ!

木 村 ちょっちょっちょっ、俺だよ、俺。

星 野 (木村の足下にしがみつきながら)誰だ貴様ぁ!

木 村 木村だよ。

星 野 木村って誰だぁ!

木 村 木村だよ、だから。


と木村は覆面を取る。

圭祐が駆け込んで来る。


星 野 うるさい! 圭祐さん、早く警察を!

木 村 なんでだよ。

星 野 早く!

圭 祐 ……お前ら、何やってんだよ?

近 藤 ……何って。


と近藤は、危険を感じたのか、突然覆面をかぶり直して、玄関へ走り去る。


木 村 あ、逃げた。

星 野 え?

木 村 逃げたぞ、あいつ。

星 野 ……くそっ。


と星野は立ち上がると、


星 野 待て!


と近藤を追って、玄関に去る。


圭 祐 ……やっぱり、空き巣やってたの、お前らだったんだな?

木 村 違いますよ。

圭 祐 嘘つけよ。そうなんだろ? サキ。

サ キ ……。


二階から、花男の声がする。


花男の声 おー、ママーン。ママーン。


一同、その声を聞いて……しばし間。


サ キ ……ショウちゃん。

木 村 (うなずいて)……(圭祐に)俺、見てきます。


と木村は二階に去る。


圭 祐 え、なんで?

サ キ ……空き巣じゃないよ。大作戦だよ。タッちゃんを、部屋から出て来させるための……大作戦だよ。

圭 祐 ……(芦沢に)キミは?

芦 沢 私? 私は、引きこもりがいるっていうから、見に来たんだよ。

圭 祐 見に来た?

芦 沢 ちょっとこれ(と縛られたロープを示し)。

圭 祐 ああ(と芦沢のロープを解いてやる)。

芦 沢 隣りに住んでるおばさんがいるんだけど、ここのヘルパーやってたって聞いてさあ。引きこもりって見たことなかったから、見たいなって。

圭 祐 隣りのおばさんって?

芦 沢 森下おばさん。私、仲良いから。

圭 祐 ……。


と達也が、部屋のドアを開ける。


達 也 (部屋から出ないで)お前ら、うるさいよ。静かにしてくれよ。

一 同 ……。


達也、ドアを閉めようとする。


サ キ (ので)タッちゃん!

達 也 (ドアを閉める手を止めて)……出ないよ。ココからは出ない。

サ キ ……。

芦 沢 すっげ! マジ引きこもりじゃん! 初めて見たよ、私、引きこもりって。すっげ。超面白い!

達 也 ……。

サ キ ちょっと。

芦 沢 いいじゃん、いいじゃん。


と芦沢は、サキをかわして達也の部屋の前まで行くと、携帯電話で達也の写真を撮る。


達 也 (ので)……なに、この人。

芦 沢 ねえねえねえねえ、友達になろうよ! アドレス教えてくんない?

達 也 はあ?

サ キ ちょっとやめてよ。

芦 沢 なりたいんだけど、友達に。

達 也 友達?

芦 沢 自慢できるじゃん。引きこもりの友達なんかいたらさあ。

サ キ それ意味わかんないから。

芦 沢 あのさぁあのさぁ、オシッコためると、超すばやく動けるじゃん、人間って。アレ、限界超えてると思うんだぁ、私。しかも、ギリギリまでためてオシッコするとさぁ、超体震えんじゃん? 超生きる歓び味わってるじゃん? あの時の体って! わかるよね?

達 也 ……何が言いたいの?

芦 沢 ええ? 通じてねぇ〜! だからぁ、引きこもりも、我慢して我慢して、部屋から出て来るとキモチイイみたいな? 違うか? あはははっ。

達 也 ……。

芦 沢 何が言いたいのかわかんなくなっちゃった。あははっ。

達 也 ……。

芦 沢 いいじゃん、いいじゃん。友達になろうよ。お願い!

達 也 やだよ。

芦 沢 うーわ! 超頑固!(サキに)超頑固だよ、この人。


サキ、芦沢をビンタする。


芦 沢 痛ぁーい。

サ キ ……。

達 也 ……。

芦 沢 ……まあいいや。


と芦沢は、庭に行って、靴を手に取ると、


芦 沢 玄関こっち?


と芦沢は玄関の方へ。


芦 沢 (立ち止まって)……本当は私、森下おばさんがなんだか最近寂しそうだから、それで様子見に来たのに。

達 也 ……。

サ キ ……。

芦 沢 おじさんも、森下おばさんの様子とか見に行ってあげてよ。いつまでも引きこもってないで……友達なんでしょ? おじさんと、森下おばさん。

達 也 ……。

芦 沢 早くしないと、オシッコ我慢し過ぎて、膀胱炎になっちゃうんだから!


と芦沢は、去って行く。


圭 祐 ……なんだよ、あれ。

達 也 ……。


しばし間。


達也、部屋のドアは開けたままで、部屋の中の椅子に座る。


達 也 ……。

サ キ (達也の部屋のドアを大きく開けて)……森下さんに、またお願いしてみる? ヘルパー。

圭 祐 え?

達 也 ……。

圭 祐 でも辞めちゃったんだろ? あの人。

サ キ 直接お願いしたら、来てくれないかな?

圭 祐 だけど、森下さん、だいぶキチガイだろ。

サ キ キチガイでもいいじゃん。森下さんが。ね、タッちゃん?

達 也 ……。

サ キ 明日、電話してみてもいい?……いいよね?

達 也 ……ダメだよ。

サ キ ……なんで?

達 也 ……俺の番だから。

サ キ え?

達 也 今度は、俺の話しを、森下さんに聞いてもらう番だから。

サ キ ……(圭祐と目を合わせて、微笑)。

達 也 ……俺が会いに行くよ。森下さんに。

サ キ (微笑み)わかった。じゃあ、お願い。

達 也 うん……。

サ キ ……お茶でも飲もっか?

圭 祐 おう。

サ キ 冷たいのでいいよね?


とサキは、台所でお茶をいれる。

達也、部屋のラジカセで音楽を流す。

★音楽が流れる。

ので、一同、しばしその音に耳を傾ける。


一 同 ……。

圭 祐 (タバコを吸って)……達也の小説、映画になるんだってさ。

サ キ うそ? 本当に?

圭 祐 言ってたよ、さっき。新しい担当の人が。ジョージ・クルーニー主演の引きこもり映画だって。

サ キ それ、すごいね、なんか。

達 也 やらせねえよ。

圭 祐 え?

達 也 ジョージ・クルーニーには、やらせねえよ。

圭 祐 じゃあ、誰ならいいんだよ?

達 也 俺。

圭 祐 は?

達 也 俺だよ。決まってんだろ。だって俺、天才子役だから。

圭 祐 無理だろー。

達 也 無理じゃねえよ。なんなら、オーディション受けて、その役奪い取ってやるよ……負けねえぞ。そんな、ジョージだかジョージアだかよくわかんねえ、外国のセクシー男優には。絶対負けねえ。

圭 祐 卑屈なのか大胆なのか、よくわかんないよ、お前。

達 也 俺がやるんだよ。


サキ、三人分のお茶をダイニングテーブルへ持って来て、


サ キ いいじゃん。タッちゃん原作・主演で、復活してよ。役者業も。

達 也 ……。


サキ、椅子に座って、お茶を飲み、


サ キ ……私、タッちゃんに憧れてたんだよ、子供の頃。知ってた?

達 也 ……。

サ キ ……ママが死んでから、仕事がなかったタッちゃんと一緒にいる時間が一番多かったし、優しくって、頼りになる叔父さんが、私の初恋の人だったんだなぁ。

達 也 ……。

圭 祐 マジで?

サ キ ふふっ……面白いよね、家族って。なんだろうね……ケイちゃんもタッちゃんも、血が繋がってない兄弟だって、ちゃんと家族だもんね……病気でボケちゃっても、十年引きこもっても、自殺しても、家族だもんね。

達 也 ……。

圭 祐 ……。

サ キ 私、思ったんだ。タッちゃんの小説読んで……ママの自殺も、パパの病気も、全部ほんとう。だから、全部オッケーだって……全部オッケー。だって、いま私たちは生きてるんだもん。一生懸命、生きてるんだもん。

達 也 ……。

圭 祐 ……。

サ キ みんな、ちゃんと生きてる。ママも生きた。人生と闘いながら、ちゃんと生きた……生きるって大変なことだもんね。

達 也 ……。

圭 祐 ……。

サ キ 毎日、寝て起きて、ご飯食べて、仕事行って、ご飯食べて、家族を愛して、笑って、泣いて、怒って、オシッコも我慢して、また寝て起きて。毎日毎日……おやすみ。おはよう。ただいま。おかえり。ごめんね。ありがとう。好きだよ。愛してる。さようなら……何回も何回も、あきれるくらい繰り返すんだもんね。


サキが話す間に、達也は立ち上がり、部屋の入口まで来て、


達 也 ……。

圭 祐 ……サキ、大人になったなぁ。

達 也 うん。大人になった。

サ キ えぇ? そう?

圭 祐 おふくろ以来だよ。そんな意味わかんない説教されたのは。

サ キ (微笑んで)……ねえ。予想なんだけど……私、結婚すると思うな、ショウちゃんと。

圭 祐 え、あいつと?

サ キ うん。「ちゃんと働くから、結婚して下さい」ってプロポーズされてさ。

達 也 結婚……。

サ キ どうかな?

圭祐・達也 ……。

サ キ ……私も、家族を作りたいんだ。

圭祐・達也 ……。

サ キ ふふっ。なんか、照れるね、こんな話……ちょっと、パパ見て来るね。


とサキは、二階に去る。

達也、部屋から出て来ると、


達 也 ……ショウちゃんって、さっき上に行った、アレだろ?

圭 祐 そうだよ。


と、達也と圭祐はダイニングテーブルの椅子に座る。


圭 祐 あのサキがなぁ……。

達 也 結婚なんて。

圭 祐 ショウちゃんねえ……。

達 也 家族か……。


しばし間。


★音楽がゆっくりと消えていく。


達 也 ……やだな、アイツは。

圭 祐 俺だってヤダよ。

達 也 ヤダよ。

圭 祐 やめて欲しいな、あんな奴と結婚は。

達 也 うん。

圭 祐 だって、バカだろ? アレ。

達 也 バカだよ。頭悪そうな顔してたもの。

圭 祐 頼りねーしな。

達 也 頼りないよ、なよなよして。

圭 祐 大体、「木村」ってなんだよ? つまんない名字だろ。「木村」なんて。

達 也 百姓だよ。

圭 祐 百姓だな。ロクな家の出じゃないよ。

達 也 大体、顔が嫌なんだよ、アイツのさ。

圭 祐 ムカつく顔してるよなぁ。

達 也 生理的に受け付けないんだよ。

圭 祐 死ねばいいのにな、アイツ。

達 也 ああ。死なねえかな……まだ若いんだしさあ、サキも。

圭 祐 もっとイイ人いるよな。

達 也 絶対いるよ。急いで結婚したって後悔するだけだよ。

圭 祐 無理して結婚する必要ないんだしさ。

達 也 そうそう。早いよ、結婚なんて。

圭 祐 早い早い。大人になったつもりでもさ。

達 也 まだまだ子供だよ。

圭 祐 ……嫁にはやれねえな。

達 也 やれない。ダメだよ。

圭 祐 大切な姪っ子だもん。

達 也 宝だよ、俺たちの。

圭 祐 ああ。結婚はなしだな。

達 也 なし。断固反対。

圭 祐 断固反対。嫁にはやらない。


と、そんな二人の会話の中、二階に行ったと思っていたサキが、こっそりやって来て、開いていた達也の部屋のドアを閉める。


圭祐・達也 (ので、サキを見て)……。

サ キ 二人とも最悪。

圭 祐 なにが?

サ キ 羨ましいんでしょ。

圭 祐 羨ましいわけねえよ。なあ?

達 也 ちゃんちゃらおかしいな。

サ キ 偉そうに。

圭 祐 結婚反対。

達 也 結婚反対。

圭 祐 結婚反対!

達 也 結婚反対!

サ キ ……ふふっ。

圭 祐 なんだよ?

達 也 笑うようなこと言ってねえぞ。

サ キ ……おはよう。タッちゃん。

達 也 ……おはようございます。

圭 祐 ……。

サ キ うん。二人の意見は、参考にします。

圭祐・達也 ……。

サ キ じゃあ、本当に二階行ってくるね。


とサキは二階に去る。


圭 祐 ……。

達 也 (立って)……俺、自分でもわからないんだ。

圭 祐 なにが?

達 也 花男兄ちゃんのこと。死ねばいいなんて……考えたこともなかったのに……。

圭 祐 うん。

達 也 自分でもわからないんだ……だけど、森下さんがそれを受け取ったって言うなら、俺はそうだったのかもしれない……俺が、花男兄ちゃんを殺そうとしたのかもしれない……。

圭 祐 ……わかるよ、達也の気持ち。

達 也 ……。

圭 祐 とは言えないけど……そんなもんだよ、人間なんて。

達 也 ……。

圭 祐 だから、俺たちは言わなきゃいけないんだよ。愛してるって……愛しあえなくても……愛してるよって。言わなきゃいけないんだ。愛してるって。

達 也 ……。

圭 祐 俺は、愛してるよ、達也のことを。

達 也 お前、やっぱり変な宗教やってるだろ?

圭 祐 やってねえよ。

達 也 愛してるなんて言わねえよ、人は、そう簡単に。

圭 祐 言えよ。

達 也 大体、愛なんて、外人の考え方だろ? わかんねえよ、愛なんて。

圭 祐 お前の小説、ラブストーリーってタイトルじゃねえかよ。

達 也 そうだっけ?……まあいいけどさ。

圭 祐 なんだそりゃ。


短い間。


達也、ネクタイを外してテーブルに置く。


達 也 ……愛してるよ、俺も。みんなのこと。

圭 祐 ああ。知ってるよ。

達 也 愛してるよ……ジョージ・クルーニーと、ショウちゃん以外だけど。

圭 祐 ショウちゃんはな。

達 也 うん。

圭 祐 ……なんか、また腹立ってきたな。

達 也 あいつ、声がデカいんだよ、意味なく。

圭 祐 アレ、距離感がないのはさあ、耳がバカになってんだろ。

達 也 そうそう。口元もだらしねえし。

圭 祐 あー、想像するだけで腹が立つ。

達 也 気持ち悪い顔しやがって。

圭 祐 病気だよ、病気。

達 也 世界中のありとあらゆる不幸があいつに降りそそげばいいのになぁ。

圭 祐 ボッコボコにしてえなぁ、マジで。

達 也 ボッコボコだよ、ボッコボコ。

圭 祐 ボッコボコだよ。


と、二人はお茶を飲み、なんとなく顔を見合って、小さく笑い合う。


暗転。


(終)



以上で、『モノガタリ・デ・アムール』は完結です!


いかがだったでしょうか。楽しんでいただけましたでしょうか?

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!!


お読みいただきありがとうございます!「スキ」「フォロー」していただけたら、とてもうれしいです! 楽しみながら続けていきたいと思ってます!